優しい人は好きですか?
 
 悲しい人は誰ですか?
 
 
 
 
 
 想いは心の中にある
 
 
 
 
 
 
 どん。
 
 カウンターに音同様に振動を与えて、湯気の立つラーメンが置かれた。
 
 
 習慣化した動作。
 
 箸置きから割り箸をとる。
 
 そしてそのまま何も考えずに麺をすする。
 

 2月20日。
 
 まだまだ寒いシーズン。
 
 店の外は雪こそ降っていないが、窓枠に店内との温度差を表すように白い露かついている。
 

 麺を食い、スープを飲む。
 
 丼の中身がなくなって、身体が熱を持つ。そうして一息ついて・・・・そのままチラ、と
 
 カウンターの真後ろ、入り口へと視線を流した。
 
 ・・・うす暗い。
 
 
 「ヤンクミ遅いね」
 
 
 今まで店の主人然として黙っていたクマが ぽん、と当然のようにそんな事を言うから
 
 俺―――内山春彦は「ああ」なんて素直に頷いてしまった。
 
 
 はっと我にかえる。
 
 慌ててカウンターの中を見てかぶりを振った。
 
 
 「ばっ!ち、違うって!」
 
 「顔赤いよ」
 

 
ニヤニヤ笑う友人に、内山は顔を伏せるように隠した。
 
 
 
 
 この人の悪い笑みを浮かべる友人とは、高校時代からの付き合いになる。
 
 卒業して約1年。
 
 今もこうしてちょくちょく顔を見にやって来ていた。
 
 
 
 「ウッチーってば意外に純情だったんだなー・・・」

 

 他に客がいないのをいい事に、どんどんからかう言葉を紡ぐ口を止まらせたくて、
 
 内山は少しきつめに睨み上げる。そうは言っても赤い顔のままなので、迫力にはイマイチ欠ける。
 

 「クマ、一応俺、お客さんなんだけど・・・?」
 
 「毎月20日にしか来ないくせにエラソーに。・・・別に来なくっても俺は構わないよ?」
 

 以前は金に近い茶髪だった髪を黒く染めた友人が、
 
 椅子の上で座わり心地が悪いとでもいうように身じろぎするにいたって、ついにクマは大きく声に出して笑いだした。
 
 内山は子供っぽい仕草で拗ねてソッポを向く。


 「ウソウソ。毎月給料日だけでも良いから顔出してくれよ。俺も嬉しいし、な。」
 
 
 そう、20日。
 
 たまたま自分の就職した先の給料日がこの日だった。
 
 彼は始めての給料で友人の店でラーメンでも食べようとやってきた。
 

 それが約一年前。
 
 
 ガラリと開いた店の中、カウンターに座る華奢な背中を見つけてギクリ・・・・
 
 いや、正確には「ドキン」としたのも、もうそんな昔になるのか―――。
 

 内山はそっと溜息を吐く。
 
 
 そうして一年間、ついつい給料日にはこうして仕事帰りに寄り道する日々。
 
 それはもう毎月の恒例行事になりつつある。
 
 そのすべての日ではないにしろ。20日は「彼女」の出現率も高い。
 
 
 ・・・・そっか、教師の給料日も20日だったんだ、と遅まき気が付いたのは、恒例行事から半年後の事。
 

 自分でも少し消極的だとは分かっている。

 「彼女」に会いたい一心で確証もないまま恒例行事を続けるくらいなら、
 
 どんな理由をつけてでも会いに行けばいいのに・・・・。

 
 それでも、その考えはすぐに打ち消される。
 

 
 『ウッチー、頼んだぞ・・・アイツは』
 
 
 
 

 ガラリ。
 
 唐突に扉の開く音がして、外気が肌に突き刺さる。
 
 温まった身体には丁度よいくらいだったけれど、外から来る人はさぞ寒かった事だろう。

 

 「ひっさしぶりーっ!」

 
 寒さを感じさせない一言が店内に響いて、内山は暗くなりがちな思考の淵から這い上がる
 
 
 「おう、ひさしぶり。」
 
 
 待ち人来たる。
 

 彼女は当然とでもいうようにカウンターの自分の隣に座り、上着を脱ぐよりも先に温度差で曇った眼鏡を外す。
 
 
 「・・・鼻赤いぞ」

 「寒かったからなー」
 

 俺の言葉に、あははと笑いながら上着を脱ぐ。
 
 カウンターの中では既に湯の中に麺が入れられ、支度に取り掛かっている。

 言わなくてもいつも彼女が頼むものは決まっていた。
 
 
 
 ・・・白い顔に赤い鼻。

 眼鏡を取った細い指。

 上着を脱いだ華奢な肩。
 
 
 そっと。慎重に。息を殺すように。
 
 
 変わったところはないだろうか?

 この前会った時とどこか違う所はないか?

 怪我などはしていないだろうか?

 何か悩み事はないだろうか?
 
 
 ――――注意深く、隣の彼女を観察する。
 
 
 

 どうせラーメンで曇るだろうに、
 
 律儀にハンカチで拭いた眼鏡をかけなおし、彼女が変わらない笑顔を見せる。
 

 「ウッチーもクマも元気か?なんかかわったことないか?―――あ、クマ、あたしネギラーメン。味噌でな」

 「もう作ってるよ」
 
 
 丁度一ヶ月前と同じセリフに、同じ笑顔。

 内山はホッとすると同時に―――少しだけ胸が痛んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 「どう?忙しい?」
 
 
 
 帰り道。

 もうすぐ分岐点である交差点に差しかかっていた。

 クマの店をでてから、結局いつも、ここまで一緒に帰る。

 これも、恒例行事。
 
 
 
 「まあ、確かに忙しいけど、お前らの時みたいに3年生じゃないし・・・。
 
 とは言っても、補習しないと進級危険な奴も、やっぱりいるんだけどな」

 

 また赤くなった鼻のまま、彼女は笑う。

 風が一陣ひょう、と髪を巻き上げて、首を竦める仕草。
 
 
 
 内山は少し笑った。

 彼女はやっぱり昔と変わらず元気だけれど、身体は心とは裏腹に正直に出来ているらしい。

 1月に会った時は確か雪がちらついていた。
 
 あの時はもう少し厚着をしていたのに・・・・すぐに油断をする。
 
 
 「ほら、これ」


 首に巻いていたマフラーをとり、差し出すと大きな目が更に大きく見開かれる。


 「えっ!いいよ。」


 両の手を左右に振って断るのに、無理やりグルグルと首に巻きつけた。

 毛糸に埋もれる小さな顔。
 
 
 「油断大敵。確か去年も雪止んだからって薄着して寒がってたろ」

 「あれ?そうだっけ?」

 「そうそう、学習しろよ」

 「バカにしやがってぇー」
 
 
 笑いながら言うと、笑いながら文句を返される。

 けれど、首のマフラーを外すように手が動いた。
 

 「でもいいよ、本当。もう帰るだけだから」

 「いいって、俺のほうが近いから。仕事忙しいんだろ?風邪ひくと”後輩たち”が可哀想だからな」
 
 

 手を止めるように重ねる。

 小さくて、冷たい手。
 
 
 ――――そのまま、包み込みたくなる。
 
 
 「では、有難くお借りします。サンキュウ、内山。 じゃ、気をつけて帰れよ」
 
 
 
 
 気が付けば交差点。

 重ねた手を無理やり引き剥がして、ぎこちなくならないように笑みを浮かべる。

 手を振り去る後姿に、自分も手を上げる。
 
 
 
 
 交差点は分岐点。

 ここまでを一緒に帰る。

 

 ここからは――――――――踏み込めない。
 
 
 
 
 振り切るように、自分も背を向け歩き出す。

 マフラーのない首回りが少しスカスカした・・・。
 
 
 
 
 

 『頼んだぞ、ウッチー』
 
 
 去る友人の微笑み
 
 
 『アイツは笑いながら無茶する奴だから』
 
 
 肩には少なすぎる荷物
 
 
 『たまに様子みてやってくれ』
 
 
 空港のロビー
 
 
 『助けて、やってくれ・・・』
 

 慎
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 3月20日の恒例行事は、結局一人だった。
 
 「まあ、3月は忙しいからねー・・・」

 カウンターの中から、慰めるような友人の声は優しかった。
 
 
 
 

 ――――携帯電話が鳴ったのは、その翌日。
 
 3月21日。

 風呂上りに髪を拭いている時だった。
 
 
 「もしもし?」

 誰かも確かめずに出た途端、会いたくて会えなかった人の声が耳に飛び込んでくる。
 
 
 『あっ内山っ!良かった番号変わってないんだ!じゃなくってっマフラー、ごめん借りっぱなし!』


 あまりに唐突で、そして彼女らしい慌てぶりに笑ってしまう。

 そして、その律儀さにも。

 静かな自分の部屋が、突然に色を変えるように華やかに感じられる。

 電波を通して彼女の元気が部屋に満ちてゆくようだ―――まあ、自分の気持ちゆえの思い込みなのだが・・・。
 
 
 『このまま、次の給料日に返したら、ほら、4月20日じゃんかー。・・・春だろ?』

 毎月給料日によく会う元教え子に、借りたマフラーを返したいのだろうが、
 
 春まで借りているのは気が引けるらしい。
 

 「いいよ、やる、それ」


 マフラーひとつで、こんな風に電話を貰えるなら、正直安いものかもしれないな、なんて思う。
 
 
 『だめだって!ちゃんと返すよ。あ!明日とかあいてるか?』

 「・・・・え?」


 ドクンと大きく、そしてゆっくりと心臓が動きを変える。

 
 『予定なければ、明日返しに行くよ、会社5時だっけ?』

 
 ドクドクと、耳の機能の邪魔をするように心臓が脈動を駆け巡らせる。
 
 
 『内山・・?忙しいか?』

 「え!?・・・忙しくない!大丈夫!うん。明日、いいよ。」


 子供みたいに片言な話し方に、電話越しに笑い声が聞こえてくる

 まるで、耳元に息が触れるような振動に。
 
 耳がくすぐったくて・・・そして、もぞもぞする感覚がした。

 
 
 『じゃあ、明日な』

 「あ、うん。じゃあ明日」

 
 
 プツリと切れた電話を、ぼんやりと見つめる。

 まだ濡れたままの髪から、ポツリとひとつ、雫が落ちた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「お疲れーーーー!」
 
 
 
 
 会社から一歩出ると、元気な声がかかる。

 寄りかかっていた電柱から身を起こして、足早に寄ってくる。

 胸の中で、またドクドクと心臓が早鐘を打った。

 
 「晩飯、まだだろ?一緒にどうだ?」

 
 マフラーを返されて、そこで「じゃあな」だと思っていた自分は、少し驚く・・・いや、かなり驚いた。

 そして、当然クマの所でラーメンだと思っていた自分は・・・さらに驚く。
 
 
 向かい合って座る二人の前に、熱く熱せられた鉄板。
 
 そして、まだひっくり返されていないお好み焼き。

 
 「たまに食べたくなるんだよなー。あ、奢りだし遠慮なく食えよ」


 お好み焼きで遠慮なくもなにも・・・、と思うかもしれないが、
 
 鉄板の上には、それ以外にも少し高級そうな魚介類なんかも焼かれていた。


 「なんか・・・ヤンクミに学食以外で奢ってもらうの・・・初めてじゃねえ・・?」


 こうして、二人きりで向かい合って食事をするのも初めてだった。
 
 戸惑いつつ、トキメキつつ呟いたそれに、向かい合った人が笑い出す。


 「そりゃおめえ、皆に色々奢ってたら教師の薄給なんてあっという間にすっからかんだよ。」


 言いながら彼女の手が少し大ぶりなヘラを手にする。内山は無言で手を差し出した。


 「・・・?」

 「せっかく奢ってもらうのに、失敗したら損じゃん。貸して」


 つまり、お前はひっくり返すな。という事らしい。
 
 久美子の頬がぷうと膨らむ。

 ―――が、自分の腕にはやはり不安があるようで、素直に内山の手にヘラを渡した。

 
 
 一瞬だけ触れる指先。
 

 今日は鉄板の熱を受けてか、少しだけ熱い。
 
 ドキンと高鳴る胸。
 
 まるで「乙女」のように。
 
 
 「お前までそうやってヘラを奪うのか・・・あたしって信用ない・・・たしかに料理はヘタだけどさ・・・」

 
 よよ・・・と、泣くフリなどして笑う彼女。

 けれど、「乙女」のようにトキめいて高鳴った胸は―――急角度で下降してゆく。
 
 

 
 ――――以前にアナタからヘラを奪ったのは―――ダレデスカ?

 ――――俺じゃない、ダレデスカ―――?
 
 
 

 「内山?」


 はっとして、不自然じゃない程度に顔に笑みを浮かべる。

 「ま、俺はヤンクミと違って器用だからさー・・・・」


 身を乗り出し、両脇から掬いあげるようにお好み焼きをひっくり返す。

 パチパチパチと、無邪気にあがる拍手。

 ついでに、脇で身を縮めつつある海老と帆立ももひっくり返した。
 
 
 
 初めて二人でする食事は、すごく嬉しくて、楽しくて―――そして少し切ない。

 「アイツ」だけは・・・在学中も二人で一緒に飯を食ってたの・・・・・・
 
 俺も、他の3Dの連中も知ってたよ。
 

 「アイツ」だけは、特別だったんだ。
 
 
 ヤンクミにも

 俺らにも。
 

 だから、何も言わなかった
 
 誰も何も言えなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 帰り際の交差点。――――分岐点。
 
 
 
 「あ、そうそう。当初の目的が・・・」
 
 
 カバンからごそごそと1ヶ月前に俺が貸したマフラーが取り出された。

 これを返す目的で、今日二人は一緒にいた。
 
 偶然に、約束を、取り付けた結果になった。
 
 ―――では、次は?
 
 もう、貸すような物もない。

 次には、やっぱり、恒例行事の4月20日・・・。
 
 マフラーを受け取る時、また指先が触れた。

 それが切ない。
 
 ひとつ今までにない何かを得ると、次にはそれ以上のものが欲しくなる。

 強欲に、切実に。
 
 自分はこの目の前に居る彼女を求めているのに――――。何もできない。
 
 
 
 『頼んだぞ』
 

 胸の奥で、友人の声がする。

 分岐点を、越えられない。
 
 
 背を向けた彼女が、クルリと振り返った。

 唐突なその動きに、また胸がドキンと高鳴る。
 
 
 期待しても、傷つくだけなのに。
 
 
 
 「内山ー。今日楽しかったよありがとなー。また一緒に飯食おーなー」
 
 
 
 胸が痛くて、切なくて

 そして、それでも、幸せだな・・・っと、内山は思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 『内山っ!今度の給料日、クマんとこ、行くか?』
 
 
 今まで、一度だって示し合わせて給料日にラーメンを食べに行っていたわけではない二人は

 会える時もあったし会えない時もあった。
 
 あの日、二人で鉄板を間に食事をしてから一年とすこし。
 
 初めて、確認をするように、電話が入ったのはあの日と同じく、風呂上りに髪を拭いていた時。
 
 
 「え?・・・行くけど・・?」
 

 妙にドキドキしながら問う。

 自分はまだ、期待する事をやめられない。
 
 
 『ならいいんだ。うん。じゃーなー・・・』
 
 
 一方的につながって、一方的に、切れた携帯電話。

 幸せと。寂しさは――――表裏一体なのだと・・・
 
 高校を卒業してからの2年とすこし・・・内山は気がついた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 「カンパーイっ!!」
 
 
 カチンカチンカチン。
 
 
 グラスがみっつ重なり合う音。

 場所はいつものクマの店。
 
 
 カウンターの席に座る内山と久美子、そして中から身を乗り出すようにしたクマの手の中に、
 
 黄金色に輝く液体と、小さな気泡が浮くグラス。


 「この前の給料日の時さ、お、もうすぐ内山誕生日ジャン!ってことは、次一緒になったら、酒が飲めるな、と思ったわけ。」

 「それですれ違わないように電話してきたのか?」

 「ヤンクミらしーなー。俺の誕生日の後にも押しかけてきて一緒に飲んだもんな」
 

 クマが「仕事中なので」と、グラス一杯だけを飲み、自分の分のコップをシンクに置く。

 彼よりも、数ヶ月遅れで、内山は二十歳を迎えた。
 
 
 「当日じゃねーけど、誕生日おめでとう、内山!ハタチだよハタチー!」


 初めから飲む気だったらしい彼女は、本日はネギラーメンは頼まず、餃子だけを注文していた。


 「・・・さんきゅ」


 胸の中が妙に面映いカンジ。

 今日から大人だよ・・・そう言われてるようで、でも、逆に、自分がまだまだ子供である事も、自覚させるような―――。
 
 今までだって、「今更ビールなんて」、というくらい沢山飲んできたが、今日のこれは、少しだけ意味合いが違う。


 ”彼女”と酌み交わす酒。

 ビールを口に含む。

 じんわりと、胸の中に入り込む苦味と甘さ。

 ・・・・まるで、隣に座る彼女のようだ。
 

 二人の間にあった瓶ビールの残りが少なくなる頃、
 
 ふとカウンターの中を見ると、クマがラーメンも作らずに微笑んでいた。
 
 
 (・・・・?)
 
 
 「ヤンクミ。ウッチーで二十歳入り最後じゃん。今度皆で酒入りの同級会やろうぜ。」

 「おっ!クマいいねそれ!初めての教え子たちと酒を酌み交わす!!いい、いいよ!!どこでやる?」


 乗り気な彼女が食いつくのを見計らったようにクマが店の外を指差す。
 
 
 「その先に新しく出来た居酒屋、結構おしゃれで飯も旨くて、安いって話」

 「あ。角のトコだろ?オシャレなカンジの。一度行ってみたいと思ってたんだっ!」

 「うっちー、後で下見してきてよ、日にちとか、幹事とか俺、皆に連絡とるから」

 「・・・え?」
 
 
 なんだかどんどん進んで行く話題に乗り切れていなかった自分に突如御鉢が回ってくる。


 「え?何処の店?角・・・?」
 
 「うん。ヤンクミ場所知ってるみたいだし、これから暇なら二人でついでに見てくれば?」
 
 
 (やられた・・・!)


 頬に一気に熱が昇って、ごまかすように瓶の中身を彼女のグラスに注いだ

 カウンターの上の彼女の”つまみ”用の餃子は完食済み。
 
 
 「あーーーー・・・どうする?やんくみ・・・」

 「お、いいね。飲みなおすかっ!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 夜ともなると、まだ少し肌寒い外気。
 
 カウンターの中から笑顔で手を振る友人が見える。

 チラリと視線を向けた自分にだけわかるように、クマの口元が「誕生日プレゼント」と言っていた。
 

 先を歩く彼女の華奢な背中を見ながら、クマに感謝しつつ・・・らしくもなく、
 
 少し、緊張してしまった・・・。
 
 
 
 
 
 
 ――――交差点。
 

 いつも、ここで分かれる。あと一歩が踏み出せない場所。

 時刻は11時をすこし回っている。・・・初めて、二人で酒を酌み交わした夜。
 
 
 
 「・・・お、遅いし。送るよ」
 
 
 
 歩き出した彼女の横に並ぶ。――――踏み出した一歩。
 
 
 
 
 
 

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