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この道の先にアナタはいますか?




いつか、会えるのでしょうか?













ふ、と久美子は夢の淵から上がってくるように目を覚ました。
瞬きをしようとして瞼が引きつるような感覚がある。
また、だ。

のろのろと腕を持ち上げて涙の名残をパジャマの裾でごしごしと擦る。

胸の中に優しい気持ちが残っている。
きっと今日も夢を見たのだろう。
懐かしい夢を

ベットから降り、床に足を下ろす。
ヒンヤリと冷たい。
すぐにスリッパを履いて階下へと向かう


人は恥ずかしい思いをしたり、辛い事があった記憶を何度も思い出す。
恥ずかしい失敗談などはなかなか忘れられないものだ
思い出したくないと思っても、やはりその記憶は些細な事で浮上する。
その度に恥ずかしくて居たたまれない気持ちになる。
けれど。
それは、その思い出を何度も繰り返し思い出すたび、その記憶に馴れ、痛みを忘れるてゆく為の作業なのだ。
人間は忘れてゆけるからこそ、生きてゆける。
久美子にしても、事実、昔恥ずかしい思いをした事も辛かった事も、今ではたいした事ではないと思えるようになっていた。


では、優しい幸せな記憶はどうなのだろう。
何度も何度も思い出すのは
これも忘れて行くための工程なのだろうか。

そうなのだとしたら
今こうして思い出している甘苦しい感覚も記憶も、いずれ、薄れて消えてゆくものなのだろうか・・・。





「久美子」

振り返ると祖父が手に火打石を持って立っている。
それに笑って答え、祖父に背を向ける。
カチンカチンと石を打ち鳴らす音が気持ちいい。

「行ってきます」
「おう」
「「いってらっしゃいませ」」

今日も忘れる為の一日が始まる。














初めこそ頑なな態度を崩さなかった生徒達も、なんだかんだと問題を解決してゆく度にその距離が縮まってゆくのを感じる。

まず、小田切竜が学校に来るようになった事。
矢吹隼人との教師としてあるまじきことではあるが、タイマン勝負。
荒高との確執で揉めていたその両人が、結果、誤解をといて、元の関係にもどれた事。

毎度毎度怪我ばかり増えてゆく生徒達に苦笑しながら久美子は二人の前にしゃがみこんだ
夕日が紅く、傷ついた二人を染める
「お前ら本当、似たもん同士だよな」
笑って言う私に、二人は切った口を庇うようにして、歪んだ笑みをつくった。

(・・・ああ、そういう所も・・・・)

久美子は一瞬浮かんだ思考を振り切るように皆に背を向けた。

「よしみんな、学校帰るぞ」

そう言いながら夕日にむかって歩き出す。
今から行ってももう授業時間はおわっているから、意味なんてないのだけれど。




そんな久美子の背中を見つめる生徒達がぽつりと呟いた
土屋が「なんだあいつ」と
日向は「まじ変なせんこうだよな」と
武田は笑顔で「でーも、なんかおもしろくない?」

三人の言葉を隼人も竜も噛み締めるように聞いていた。
夕日に染まる華奢な背中。
あの細い身体で自分達を助けようと必死になる人。
自分達を「大切だ」と臆面もなく言ってのける笑顔。

初めて会った。
そんな教師に

そんな女に



「ごめん」

呟いた矢吹隼人に、無言で答えた小田切竜。

これで、この二人の関係は、きっと元に戻るはず。

武田と小学校からの腐れ縁でつながった・・・・幼馴染。


けれど


本当の意味では、この二人は元の関係に、戻れはしない。

それはまだ本人達にも自覚のない事だったけれど


似たもの同士



同じ者に



惹かれる



それは、運命かもしれない。



矢吹にとっても、小田切にとっても



そして





山口久美子にとっても




















...to be continued......? 2007.2.28



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