無関心に見える人間ほど 、周りに耳を傾けている人間はいない。
アタシはそう思ってるケド
ウツウツと薄れ行く意識の中で聞いた気がした。
消毒液とコーヒーの香りがした。
不実、不確実 A
消毒液の香る保健室に、開けっ放しの窓から入り込む風によって遊ばれるカーテン。
その、ゆらゆら揺れるカーテンの先では、コーヒーと本を優雅に楽しむ保険医が一人。
…って、とこだろうか。
若い女の保険医が赴任して来たのなら、昼休みは大盛況なハズのココも、室内は静まり返っている。
初日目の今日、ココに来た数人の生徒達は俺の顔を見るなり、「結構です」と口を揃えては慌てて引き返す、そんな繰り返しが続き、
校内に鳴り響いた3限目を知らせる鐘を合図に、誰一人訪れる生徒は居なくなった。
何が結構なのかコッチが聞きたい。
もう既に、学校中に保険医は「男」だという事が伝わっているのだろう。
昔から、こういうところだけは、何も変わらないのが、男子高特有…。
そう、彼らの青春時代というものだろうか。
まぁ、お蔭でコッチは何一つ悪い思いはしないんだけど。
ついてるのか、ついてねぇのか。
まるで人事とばかりに悠長に構え、読みかけの本に視線を戻したその時だった。
ガラッ!
勢いよく開けられたドア。
そこに立っていたのは、決して素行が思わしいとは考えにくい、髪を金髪に染めた長身の生徒が一人。
つい先ほどまで寝て居ましたと言わんばかりに、眠そうな表情で俺を観察した後、彼は不機嫌に尋ねた。
内 「あんた誰?」
第一声がソレかよ。
言葉遣いから学習した方がいんじゃねぇのかと思う半分、
当時の自分達を、その青年に重ねてしまい、思わず言葉に詰まってしまった。
慎 「分かるだろ普通。」
内 「あ?」
慎 「白衣着てんだから。」
内 「……。」
慎 「今日からココに赴任してきた。」
内 「あぁ、お前か。 菊乃ちゃんの変わりって」
慎 「男で悪かったな。」
内 「まったくだゼ。」
言いながらも、椅子に座る俺の存在などまるで全く無いかのように、無視して通り過ぎ
向かった先にある、室内にある小型の冷蔵庫の扉を開ける。
慣れたように中から取り出したモノを額に当てて、一つ安堵に似た息を吐く青年。
―――無関心にも程がある。
慎 「熱でもあんのか?」
内 「関係ねぇだろ。」
慎 「ありたかねぇよ。」
しまった、と思った時には、もう既に遅くて。
つい今ままで俺に全く無関心だった筈の、その生徒からは胸倉を掴まれている始末。
彼等は何故、このような言葉だけは聞き逃さないのだろうと、学生服に袖を通していた自分達の時代と、
目の前に居る生徒をやはり何処か重ねてしまう、未だ保険医になった自分の立場が把握出来ていない己。
内 「喧嘩売ってんのかよ?」
やっぱ、ついてねぇな。
無言のまま掴まれた両手を払い除け、鋭い視線を落とす長身の彼を見上げた。
慎 「こうみえても一応センコウだからな。」
内 「ハ?」
慎 「とりあえず、クラスと名前くらい聞いとかねぇと俺もマズイんだよ。校長も教頭あんなんだし?」
内 「………。」
慎 「あと」
内 「?」
慎 「ソレがいる理由についても聞きたい。」
きっと本人に忘れられているであろう、その額に貼られた「冷えピタ」を指差し、俺は小さく笑う。
上昇した彼の苛立ちを冷ます事は出来なかった、額にある白のソレは、俺の冷静さを取り戻すには十分だったのだ。
冷えピタを貼っている人間に喧嘩を売られた事も、俺の人生でも初めての経験だったし。
そんな俺に対し一瞬顔を歪ませた生徒だったが、胸ポケットに刺してあるペンを見つけると
ソレを強引に引き抜き、デスクに置いてあった記録帳に殴り書きするように乱暴にペンを走らせる。
線や枠の中に文字書くという基本は、彼の中では常識の一つではないようだ。
真っ新の記録帳。
開いて最初のページに大きく。
3D 内山春彦
あついから!
ソレが白金のセンコウになって、俺が初めて名前を覚えた生徒の名。
―――聞かれた事しか答えない。
今思うと、ソレは本当に彼らしい行動だったように思う。
ガラッ!
またもや慌しく開けられた扉によって、ゾロゾロ数人の生徒が雪崩れ込むようにして入って来たのは、
彼がペンのふたを閉めたのと同時だった。
南 「あーーっっ!やっぱりココに居た!」
野 「ウッチーまたかよぉぉ!?」
内 「でっけぇ声出すなよっ、余計暑くなるだろっ!」
南 「てか、ソレさ、あんまり意味ないんじゃね?」
野 「僕も思うよ。南クン」
南 「だろ?野田クン」
内 「ばーか、こういうのは気持の問題なんだよっ」
熊 「まぁまぁ。それより次!ヤンクミの授業だぜ?……て。誰、コイツ?」
内 「あ……なんか、菊乃ちゃんの次に来た、新しい保険のセンコウだって。」
野 「あ、あの噂の?!」
南 「マジ男かよー…。」
慎 「男っで悪かったな。」
南&野 「「 まったくだゼ 。」」
類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。
ウンウンと口を揃えて頷く、彼の友人であるらしき生徒達に、コチラからの返事は溜息一つ。
彼等もきっと3Dの生徒なのだろう。
ソレは俺自身がココの卒業生であるからこそ分かる直感というもの。
熊 「ほら、とっとと行こうぜー。」
慎 「フケんのか?」
南 「まさか。」
慎 「お前ら、案外、真面目なんだな」
野 「ばーか、違ぇよ。 次はヤンクミの授業だゼ?」
慎 「や…んくみ?」
熊 「知らねぇの?俺らの担任。」
……やんくみ………。
数学の山口久美子と申します!
3D担任の山口です!!!!!
―――あなたみたいな、目をした生徒どものクラスのね。
慎 「……あ。」
―――アイツ?
慎 「山口…とかいう、あの女の先生か?」
野 「へー。よく知らねぇんだ。じゃ1コだけ特別に教えてあげてもいいケド♪」
慎 「?」
内 「……。」
南 「3Dの中にアイツの授業サボるようなヤツはいねぇゼ」
野&南&熊 「「「 さ わ だ セ ン セ イ ♪ 」」」」
白衣につけた名札を指差しながら、悪戯な子供のような笑みで口を揃えて言う3人に
苦笑いで「へぇ」と言えば、更にニヤニヤ意味ありげなその笑みを向ける生徒達。
正直…彼等の言っている事
いや、言いたい事の意味が分からない。
内 「余計なことベラベラ喋ってんじゃねぇよ。」
その理由について聞こうと口を開いたその時
今のこの空気を一瞬で打ち消すような、不機嫌な声が室内に響く。
『 無関心に見える人間ほど、周りに耳を傾けている人間はいない。』
保健室のベッドの上。
定期的にめくられる本の音がより俺の睡魔を襲う。
除々に薄れ行意識の中で、ごく自然に投げかけられた川島の言葉を、
未だ冷えピタを押さえたままでいる彼を見て何故かふと思い出した。
確か今日のような、残暑が残るこんな蒸し暑い日。
消毒液とコーヒーの香りがした。
事実、俺はあの当時そうだったように思う。
彼もそうなのだろうか。
正直、額に貼ったその姿形は決して同じとは思えないが。
彼の一言で、何故か友人達からは気まずい空気が零れる。
―――分かりやすい奴等。
内 「行こうゼ。」
どうやら、彼等のリーダー的存在は、内山春彦。
彼のようだ。
静寂を取り戻した保健室。
彼らが出て行って間もなく、昼休みを終えるチャイムが校内に鳴り響いた。
NEXT
意味がサッパリわかりませんな;←殴
思いっきり、書きたい放題でやってます。
リハビリ中なんで良い刺激になるかもv
こんなステキな影の共同企画を立ち上げてくれた、お友達に改めて感謝だワvv
てか、ウッチーらぶでごめーん(笑)
早速、引っ張り出しちゃった、うふv
さて。
久美子総受け突入だな。
争奪戦ばっちこーい。