お互いの乱れた、熱い吐息と体に感じた熱。
白く柔らかい肌に開放された、絡みつく様な長い髪。
耳に今でも残る彼女の甘い声。
瞳から幾度も流れる透き通った涙……その味。
普段とは違う、震えた指先で触れられた己の髪。
お互い無意識で付けた、幾つかの赤い痕。
そして。
何度も彼女の耳元言った言葉は、人生で初めて使った・・・
深い愛の言葉。
「・・愛してる・・」
優優。 前編・記憶
あの日は確か…
秋小寒に振り出した雨が三日三晩冷たく深々と降り注いでいた。
今考えると、卒業と言う節目が近付くにつれ、焦る自分と戦いをしていたのかもしれない。
進路や将来の夢。
これから先に待ち受ける未来に、一人悩みムシャクシャする毎日が続いていた。
『 白金の沢田じゃん 』
仲間達と別れ家路を辿る中、聞き覚えの無い何処か挑発的な呼びかけに足が止まり、視界から傘を少し上げた。
投げ掛けられた声に視線をやれば、3Dに引けを取らないぐらいの、数人のガラの悪そうな同年代らしきグループ。
自分自身、自覚が無いが、白金学院の沢田慎と言う名は、地元では少しは有名らしい…。
本人はその事に全く興味は無いが。
相手にするのもめんどくさくて・・
そう、シカトすれば済んだ事だったんだ。
『 場違いな極道の担任の生徒だってな〜!そう思うと少しは同情するぜ! 』
傘を振り投げ、気が付いたら一人に殴りかかっていた。
結局、人気の無い所に連れて行かれ、後はフクロ叩きの始末。
時折、前を通り過ぎる他人の足音は、止まる事を知らず足早に過ぎて行った。
数人の去って行く足音を濡れた地面でうずくまり聞きながら・・・・・
「何やってんだか・・。」
真っ黒の空から降り注ぐ、冷たい雨を顔に受けながら、一人苦笑しながらそう呟くと切れた口の中から鉄の味がした。
びしょ濡れになった体と、ボロボロに傷ついた重い体を引きずるように、
何とかマンション近くの公園まで辿り着いた時、不意に背後から呼び止められる。
聞き慣れた・・・弱々しい声。
ヤ 「さ・・沢田・・?」
一瞬、声が出なかった・・。
振り返り立って居たのは、心から愛しく思う彼女の姿だったが、その姿は自分に負けないくらいびしょ濡れだったから。
けど、何より驚いたのは、彼女が泣いていたから。
雨のせいでは決して無い、その濡れた瞳。
慎 「・・何かあったのか?」
ヤ 「それはコッチが聞きたいよ・・何やってんだよお前は。 卒業式前なんだぞ・・。」
側に歩み寄り濡れた手で、俺の頬の傷に優しく触れる彼女の表情は酷く悲しい顔。
「卒業」
彼女の口から、この言葉を聞かない日は、あの頃ほとんど無かった様に思う。
慎 「言いたくねぇ。てか・・お前こそ何やってんだよ。」
ヤ 「あたしも・・言いたくねぇよ。」
全身濡れているせいか普段より更に、か細く華奢に見えるその体。
しばらくお互い黙って重視したが、何だか居ても立っても居られなくなった俺は、彼女の腕を強引に引きマンションへと足を進めた。
ヤ 「い、痛いってば!!沢田!?」
ドアを荒々しく閉めると彼女が大きく体を震わせた。
押さえが利かない体は、電気も点いていない部屋の中、彼女を強く抱きしめていた。
突き放されても仕方がない行動だったけど、その冷えきった華奢な体は抵抗もなくただ震えていた。
ヤ 「な、何か・・あったの・・か?」
震えた体に震えた声。
それでも俺の事だけを気にかける彼女が何だかとても痛々しくて・・
抱きしめたまま首を何度も横に振るしか出来なかった。
雨の音と、お互いの胸の鼓動がやけにリアルに感じる中
「頼むから話してくれよ・・じゃなきゃ俺が変になる。」
願いを込めて静かに耳元で言った言葉は、何とも情けない声だったと思う。
少しの沈黙の後、彼女が肩で一つ深呼吸をした。
その温かい息が、少しの安堵を俺に与えた。
ヤ 「ただ・・何だか無性に寂しくて、悲しくなったりする時ってあんだよ。自分でも分からない行動取ったりする時って本当にあんだなァ・・。」
慎 「・・うん。分かるよ。・・すげーよく分かる。」
ヤ 「何だか、お前なら・・そう言ってくれると思ったんだ。」
「だからココに来た」とは彼女は言わなかったけど・・
現に今、俺に抱きしめられたまま、その気持を話してくれた。
その事実が泣きたくなるくらい嬉しかった。
そのままの体勢でどれ位の時間が流れたのか・・・。
二人の髪や衣服から落ちる水滴の音が、静かな部屋には大きくて。
混じって聞こえる雨音と、胸の鼓動。
それらを耳を澄ませて聞いていた。
そんな中彼女が静かに言った言葉・・・
いつも彼女の夢だと語るその言葉は、俺にとってはもっとも聞きたくない言葉。
ヤ 「もうすぐ、お前らみんな・・卒業しちまうんだな・・」
静かに消える様に言った彼女の言葉に胸が詰まり、もう止める術など持っていない俺は、言葉の途中唇で塞ぐしかなかった。
彼女の体が一瞬強張り俺の腕をきつく握ったけど、何処か力を失くした体は、そのまま黙って腕を背中に回した。
ソレが答え。
ソレが真実。
抱き合ったまま意味も無く二人静かに泣いた。
気付けば淡いシーツの上で切ない感情を抱いたまま・・・・
二人だけの世界へと溺れていた。
そんな二人を、濡れたくもりガラスの向こうからカチカチと差し込む外の灯りが、
時折り二人をリアルに映し出していた・・。
普段は弱い所など欠片も出さない二人が、偶然に出会ってしまった・・夜。
甘えたり、人に頼ったり出来ない不器用な二人が、寄り添い夢中で体を求めた。
彼女が俺にどんな感情を抱いているのかは深く考えなかった。
考えたくなかったのかもしれない。
けど、俺の胸にある熱い想いを彼女の体全身に植え付けるように、深い愛の言葉を耳元で何度も囁いた。
それに答えるように、彼女の瞳からは幾度も涙が頬を伝い・・・・ソレを唇で何度も拭った。
・・・誰も知らない夜明け・・・。
『優優。』とした表情で眠りについた彼女を愛しくいつまでも見ていた・・。
差し込む鮮やかな外の照明はいつの間にか消えて、久しく見せた太陽の光が部屋に薄く差し込んでいた。
何だか肌寒くて目が覚めると、彼女の温もりは腕の中にはなく、夢か幻でも見ていたのかと考えさせられた。
けど・・枕に薄っすらと残こされた甘い香りが現実を語り、
何より、鏡に映し出された胸元に残された赤い痕が、昨晩の出来事を深く物語っていた。
テーブルの上には一枚の書置き。
毎日、黒板に書かれる整った綺麗な彼女のその字を、見間違える訳がない。
残り少ない卒業までの時間を大切にしてほしい。
これからの、お前の未来を大切にして欲しい。
あたしも大切にしたいんだ・・。
だから、ごめん。
PS.遅刻すんなよー! 素晴らしい担任 ヤンクミより。
慎 「全部忘れろって事かよ・・・・。」
それが彼女の決めた事。
彼女が出した精一杯の答えだった。
彼女らしい内容の文字と伝えたい想いは、俺の胸に衝撃を与えるには十分で
担任と言う言葉に、また彼女が遠い存在なのだと深く教えられ、
当たる所の無い俺には、置かれた手紙を握り潰し部屋の隅に投げ付ける事しか出来なかった。
淡いシーツの上での彼女の一挙一動が頭から離れない。
胸の中で眠りについた優優としたあの表情。
そう、彼女は俺を一晩でも男として受け入れてくれた・・。
それは事実。真実なのだ。
壁に貼られた3Dの集合写真。
たしか、彼女の部屋にも同じも物が飾ってあったその写真。
皆の中心であどけなく笑う彼女を見つめながら、彼女が出した答えを理解する事を心に決め
・・・封印する・・・
自分自身、心に決めた事を何度も何度も理解させた、悲しく笑が込み上げた。
あの時、あの時代。
彼女を奪う勇気も、無理やり手に入れる勇気も、引き止める力も言葉も俺には持っていなかった・・。
何より彼女を困らせたり悩ませたりする事だけは、死んでも嫌だったから。
彼女には何時も明るく優しく微笑んで欲しいと願い・・
その願いこそが、俺なりの彼女への精一杯の愛し方だったから。
普段と変わらず数学の授業に間に合う様に学校へと登校。
朝からシャワーを浴び、乾ききっていない髪の毛が秋風に触れてとても冷たかった。
内 「し、慎!?どうしたんだよー!?その怪我??」
人より少し気が荒い親友の彼の言葉を先頭に、仲間達が一番後ろの俺の席を囲む。
殴られ、貼れた顔をした俺を見て、さすがに仲間達の動揺と苛立ち、そして何より心配を大きく受けたけど
深く何も答えず、「らしくねぇよな」と静かに笑い言うと、
何か色々察知する物があったのか、仲間達はそれ以上深く聞いてはこなかった。
それが彼らなりの心配りだと深く理解し、深く感謝した。
ヤ 「沢田ー!遅刻するんじゃねぇって、いつも言ってんだろうが!!・・たく。」
普段と変わらぬ日常の光景。
相変わらずの俺に向けての彼女からの檄。
変わった事と言えば、彼女の髪が下ろされていた事。
首筋に付けた深く現実を物語る痕を隠すためなのだと、すぐに察知した。
ヤ 「あー…っと、それから、沢田ー!」
慎 「うっせぇよ。・・朝から大声出すな。」
ヤ 「そ、その、保健室ちゃんと行けよなっ!」
慎 「・・・・・あぁ。」
「よし」と一つ頷き微笑む彼女が訳もなく憎らしかった。
その日から変わった彼女の髪形を、何も知らない生徒は面白可笑しげに疑問を投げ掛けたが
たまには良いかなと思って」とか「イメチェン」と彼女は笑って答えた。
俺の視線は全く合わせる事無く。
彼女が元の髪型に戻した時、彼女の首筋に付けた痕は消えたものだと、痛い程理解させられ
それと同時期に、俺の胸元に付いた痕も消えて無くなった・・。
それはあの日の夜も何も無かった様に。
普段と変わらぬ日常。
その事を境に、俺からも少しずつ気持の切り替えが出来た。
バカな会話にバカな教室の騒ぎ。
ボケる彼女への俺からの鋭いツッコミ。
時間が合えば彼女も一緒に登下校。
時には学校外での遊び・・何も変わらない日常が少し安堵にも思えていた。
相変わらずの課外授業としての缶蹴りの合間や、進路について、彼女に相談の話しをする時など二人の会話は何故か川原でが多く
穏やかに流れる川のせせらぎを、二人黙って眺める事がとても好きだった。
月日は確実に流れ、考えた末に俺はアフリカへ行く事に決めた。
その手で抱いた確かな温もりを夢に変え、新たに何かを見つけ、掴みたかったのかもしれない。
その時も誰よりも一番喜び、精一杯のエールを俺に与え、背中を押してくれた彼女に、今も深く感謝している。
桜の蕾が目立ち始めた、卒業式の朝。
俺は高校生活で一番早く登校した。
誰も居ない教室。いつもの自分の席に座り教室全体を見渡した。
いつの間にか増えた落書き、3Dの独特な匂い、相変わらずの間違えた漢字、そして彼女の教卓・・。
全てを頭に焼き付けた。
荒々しく職員室の扉を開けると、予想通り彼女以外のセンコーが既に出勤していた。
何事かと不快な顔付きをするセンコーの面々の側を通り過ぎ、教頭のデスクの前まで来て足を止める。
口を引きつらせた教頭が、今までの仕返しに殴られるとでも思ったのか、身構えたから思わず苦笑が零れた。
慎 「あんたの事は今も好きじゃねぇ。」
猿 「!?」
慎 「けど、あの時アイツを助けてくれたから・・感謝はしてる。3Dの連中も言葉にはしねぇけど、きっとな。」
「それだけ・・」と付け加え、唖然とする面々に悪戯な笑みを残し、生徒が目立ち始めた3Dへと戻った。
その後、職員室では驚く内容の会話が交わされていた事を、俺は知らない。
川 「沢田慎・・ええ男や。本間に。」
藤 「山口先生も罪な女よねー。」
岩本 「そうじゃなァ、あの沢田を教頭に礼を言わすんじゃからのぅ。」
大山 「手にいれるかどうか、賭けしてたのにつまらないですー。」
鷲尾 「皆さん方!?な、何と言う事をーー!!問題発言ですよ!!」
安藤 「あ、あのぉ、私は賭け勝ちですからね・・。」
校長 「私は負けですね。あー…残念。」
鷲尾 「こ、校長までッ!? き、教頭!!何とか言ってやって下さいよ!!」
猿 「沢田は・・いつかまたココにやってくる。間違いなく手に入れに白金に戻ってくるさ・・そういう男だ」
愕然とする一人の男を除いた、その場に居た全員が心から優しく暖かく・・
そして少し寂しそうに笑ったのは、職員室の中だけの内緒の光景。
卒業式も無事に終え、別れの時間は刻刻と容赦なく流れた。
予想は出来ていたが。
俺達を見送りに校門まで来た彼女は酷く落ち込み俯いたまま、今にも大粒の涙が零れ落ちそうな表情。
もしも彼女が笑ってサヨナラを言っていたなら、コレを言わなくて済んだのに・・
そう苦笑し一つ大きく深呼吸した。
慎 「お前はこれからも俺達のセンコーだよ。これからもずっと・・一生な。」
瞬間。
俯いた顔は、声の主である俺を濁りの知らない強い瞳で真っ直ぐと見た。
・・
そう。
この瞳に魅かれ、彼女を心から信じ、好きになった。
皆も・・。
俺も。
街や人や季節が変わっても、彼女にだけは変わらないでいて欲しい。
それが俺の願いであって、夢でもあるから。
潤んだ瞳が俺を見て微笑んだ。
あの時、彼女の瞳には俺はどう映ったんだろう・・。
皆が彼女に手を振り挨拶をする中、俺は一度も振り返らなかった。
二度と着る事の無い学生服の背中を、彼女はこれからの未来、幾度も繰り返し送り出すのだ。
だからその行動は、俺なりの精一杯の彼女へのエールであり、今までの感謝の気持。
不器用な行動だった。
ヤ 「沢田ーー!!帰って来たら・・一番にあたしの所に顔見せに来いよなーー!!」
慎 (でっけぇ・・声)
突然、後ろから投げ掛けられたバカ元気な叫び声に一瞬足が止まりかけたが
何だか安堵が胸に込み上げ、背を向けたまま静かに笑って・・・それから
卒業証書が入った筒を空高く上げる。
それが、彼女と交わした高校生活、最後の会話。
慣れた通学路、横で歩くいつもの4人が俺の清清しい心境とは全く正反対の顔付きで覗き込む。
何処か言いにくそうに、だけど何かを質問したそうな・・
分かりやすいその仕草を見せる仲間達に思わず苦笑が零れた。
内 「何であんな・・つまんねぇ事言ったんだよ?慎が言う言葉じゃねーよ!」
こういう場合は必ずと言って良いくらい彼が重い口を開く。
何気によく気が付き、勘が働く彼は、口は悪く勘違いされやすい所があるが、とても心優しく暖かい存在。
慎 「今までアイツの生きがいが俺達だったんだ・・。
いきなり明日からアイツの生徒じゃない何てさァ、何だかアイツには重過ぎて壊れちまう気がしてさ。
それにアイツには色々借りがあったけど、コレで少しは返せたかもしれねぇし。」
立ち止まり、「これでいいんじゃねーの?」と言う様に、仲間の顔をグルリと微笑しながら理解を求める。
内 「だからって・・俺には分かんねぇよ。分かりたくもないっつーの!」
何処か投げやりに気に言う彼に揃って3人も同感と言う顔付きをさせた。
彼らにはこの恋について話した事が無かったし、まして聞かれもしなかったけど、ソレは彼らなりの優しさだと知っている。
いつも何気に見守り、彼女とたまに2人で話す機会がある時などは、その場を壊さず、周りを引っ張っていた事も・・知っている。
慎 「それが仁義・・人情ってもんだ・。その事はアイツに教わった中の一つだから。」
俺の言葉に黙り込み、揃って大きく溜息をつく仲間達からは、れ以上の深い追求は無かった。
まだ咲かない桜の木の蕾を見上げ、ある朝の彼女との会話を思い出す。
朝の挨拶の息は毎日とても白かったけど、彼女が側に居ると不思議と暖かかった。
『 沢田、桜が咲いたら皆で一緒に見ようなっ。あたし桜大好きなんだ♪ 』
『 ・・・アホ 』
『 ん?何か言ったかー? 』
『・・別に。見ような・・桜。』
4月になれば新しい生徒を受け持った彼女は、時間に追われた毎日が戻って来るのだろう。
その頃には、彼女が大好きだったこの桜の木々も満開を迎える・・。
慎 (学習しろよ・・。桜が咲くのは4月だっての。)
近い未来、この通いなれた桜並木を、彼女が子供の様に駆けるその姿と・・
遠い未来、彼女と新たな再会を思い描き・・
そしてまた、この場所に立てる事を深く願った。
3月のとある日。
卒業と言う節目を迎えた青年は、晴れ渡った済んだ青い空と、新鮮な空気に触れながら
『優優。』とした気持で、愛する彼女が愛した桜の木を見上げていた。
まだまだ弱く光り輝く太陽と、何処か春の香りがした柔らかい風が、そんな彼のこれから待ち受ける未来を祝福している様に
仄かな光風となって、彼に優しく触れ与えていた・・。
慎 (あれから・・もうすう3年か)
デスクの上の書類や荷物を整理しながら、昔の懐かしい記憶を思い出していた。
まだまだ色褪せる事の知らない鮮明な切ない中にある、何処か優しい記憶。
コッチに来て後悔は一度もした事は無い。
けど、会いたさはつのる一方だった。
電源を入れたままのノートパソコンに昔からの仲間の一人である、野田からの一通のメール。
クマの店での宴会の最中の場からだろうメールと確信し・・
相変わらずの面々らしい行動の仲間からの届くメールにはいつも心和らぎ穏やかにさせてくれる。
件名 激上手!!
南がまた女に振られたー!(激嬉)
自棄酒くらってる南に足止めくらってんだよー!助けてくれぇ(叫)
てか、クマの店の新作ラーメン本気で上手いしーー!!
慎にも食わせてやりたいぜー!←自慢
野田
カタカタと一文字一文字深い意味を込めながら、その宴会の場にメールを返信する。
この内容を読んだ時の彼らの反応を思い描くと、自然と笑みが零れてくる。
件名 一応報告。
もちろんソレは奢りなんだろうな?
て言うか、絶対奢れよなァ、俺の帰国祝い何だから。
来週やっと帰れる。
帰るよ・・あの街、白金に。
皆には色々感謝してる。マジで。
長かったけど、やっとあの女に撤回しに行けるよ。
卒業式でのあの言葉も、今までの事も全部・・ケジメをつける。
今度こそ二人一緒に満開の桜を見上げたいから。
慎
件名 奢り上等!
遅せーんだよ! うっちー
待ちくたびれたぜよん。 野田
俺みたいに失敗すんなよぉ(泣) 南
ヤンクミ上等 クマ
PS.一応とは何事だー!!(激怒) 帰ったら覚えとけよー!!
予想通りのすぐさま返ってきた仲間達からのメールを見て
「少しは学習してんじゃん」
一人静かに笑いながら呟いた。
煙草に火を点け大きく溜息混じりの煙を吐く。
慎 「・・早く会いてぇ。」
デスクに飾られた写真は、今も変わらずあどけなく笑う愛しい彼女の存在。
光風に触れながらあの日描いた未来に立つためにも
遠く離れた場所に居る彼女を想い
そして
・・・封印を解く・・・
心に咲いた恋の花は、今も君の香り。
咲く事の知らない恋桜は、今も満開の時期を静かに待ち続けている。
NEXT
「優優。恋桜」に続く。