「お父さんの分からず屋!もう知らない!」
「待ちなさい、なつみ!」
「なつみ!」
思い出作ろう大作戦!!
「…で?」
「出てきちゃった。しばらく泊めてね、お兄ちゃん。」
にっこりと微笑みながら言われた言葉に、頭を抱える沢田兄。
ややあって気を取り直し、説得を試みる。
「そのうち迎えが来ると思うけど」
「帰らないもん。」
ごそごそとベッドの上に這い上がるとクッションを抱えるなつみ。
てこでも動かないぞ、と言ったその様子にちょっと呆れつつも、やはりそこは妹。
甘やかしてしまう。
「…まあ、いーけど…」
「ありがとー、お兄ちゃんならそう言ってくれると思った♪」
ごんごんごん!
けたたましいノックの音。
「え?も、もう?!」
なつみが焦ったようにクッションを抱えなおすと、沢田がため息をつく。
「いや、あれは違う…」
そういいながら確かめもせずにドアを開ける。
「来ちゃったvv」
そこにはやはり予想通りの人物。
「…入れよ」
「おっじゃまっしまーっす♪…あれ、なつみちゃん?」
「え、…や、山口センセイ?」
なつみは沢田と久美子の顔を交互に眺め、やがて天使の微笑みを浮かべる。
「やっだあ、お兄ちゃん、そうならそうと言ってくれなきゃvv」
「「は?」」
「あたしは別に二人のこと、反対したりしないよ?むしろ大賛成だし♪山口センセイみたいなお姉さん、欲しかったんだー、嬉しい♪」
一人ではしゃぐなつみに、沢田が再び頭を抱える。
「…なつみ、おい…」
「いいんだってば、隠さなくって。あたしは二人の味方だからね!」
それまで話が全く見えていなかった久美子がようやく理解したらしい。
顔を真っ赤にして説明を始める。
「ななななつみちゃん、それ、それ違うって。あたしは別に沢田と…その、つ、つつ
つき合ってるとかそんなわけじゃなくって、その一人暮らしが鍋で栄養不足にしようかと」
(お前、それ説明になってねぇって…)
全く役に立っていない久美子に呆れ、沢田が代わりに説明しようと口を開く。
「…あのな、なつみ」
「照れない照れないvv」
ピンポーン
インターフォンの音が鳴る。
沢田の表情が厳しくなった。
「…なつみ、お前バスルームに隠れてろ」
「!…分かった。」
「それで」
自分のケイタイを渡し、二言三言何か伝えると、ドアへ向かう。
ピンポーンピンポーン
せわしなく鳴らされるインターフォン。
なつみの靴を隠すと、鍵を開ける。
「…はい」
「私だ」
「!…親父…?!」
そこに立っていたのは沢田父。
まさか本人が来るとは思っていなかったのだろう、沢田が驚いている。
「なつみが来ているだろう。連れて帰る」
「…来てないケド」
「そんなわけはない。…邪魔するぞ」
沢田を押しのけるように入ってきた沢田父が目を見開く。
「や、山口先生?!あなたここで一体何を…!」
「え、あ、こ、こんにちは!」
とっさのことにどうしていいか分からず、とりあえず挨拶をする久美子。
「こんにちは、じゃないですよ、先生。生徒の家に、それも男子生徒の家に女性教師が一人で来るというのは一体どういうことです?」
「え、あ、う」
「ことと次第によっては、教育委員会に諮らなければならなくなりますよ」
もう言葉もなく慌てている久美子。
意味不明の動作を繰り返す彼女を背にかばい、沢田が一言つぶやく。
「…もうすぐうっちー達も来る。…たまたまこいつが早く来ただけだから」
「見え透いた嘘をつくんじゃない!大体、お前、先生をこいつ呼ばわりとはどういうことだ!まさか、お前達」
ばたん!
「ちぃーっす、慎、来たぞー!」
「うぃーっす」
そして皆が沢田父を発見して固まる。
「お、親父さん…?」
そして沢田父も固まる。
そんな姿を見て、沢田がニヤ、と笑って言う。
「…嘘じゃねーだろ。」
「…何で、お前ら来れたんだ?」
確かに。
誰もが思うことを、聞く久美子。
「はぁい、私がさっき、お兄ちゃんに言われて電話しましたー」
挙手して答えるのはなつみ。
「…さっき、バスルームに行くとき何か話していたのはそれか…」
「うん。さすがお兄ちゃん、こうなることまで見越してたんだね。」
結局、沢田父は『今日のところは帰るが…また来るからな』と言って帰った。
やはり沢田を疑って(?)しまった、という弱味があるため、それ以上は強くいえなかったらしい。
「…ところで、ヤンクミもなつみちゃんもどうしてここにいるんだ?」
「あ、俺もそう思った」
内山の素朴な疑問に南も相槌を打つ。
久美子が口を開くより前に、なつみが言い出す。
「お父さんとケンカしちゃって…それで、家を飛び出してここに来て…山口先生にも来てもらったの。」
「え?な、なつみちゃん?!」
久美子が驚いて聞き返すが、「いいから」というようになつみがウィンクをしてくる。
その様子を見ていて沢田が諦めたようにため息をつく。
「なんでケンカしたの?」
野田が聞くと、なつみは思い出したように、悲しい表情に戻り、俯いた。
「『お友達と旅行に行きたい』って言ったら…だめだって…」
「へ?」
「そのお友達が今度引っ越して行っちゃうの。だから、卒業旅行も兼ねて、一泊旅行に行きたいっていったの。そしたら…」
「ダメだって言われたんだ」
黙り込んでしまったなつみの言葉を久美子が続けると、俯いたまま頷く。
「けど、オヤジさんの気持ちも分からないではないなぁ…こんなに可愛いんだから、どこで悪い虫が付くか分からないもんな」
野田が腕を組んで自分の言葉にうんうん、と頷いている。
「南、言われてるぞ」
「って、俺かよ!お前だろ、内山!」
「あたし、何も悪いことしようなんて思ってない。ただ、お友達と思い出が作りたかっただけなの。
だから、泊まるホテルも、日程も、全部言うからって約束したし、ちゃんと電話も入れるからって言ったのに…」
ぽた、と雫がなつみの瞳から落ちた。
「…まあ、確かに親父さんの気持ちも分かる。だけど、なつみちゃんがこれだけ色々
考えて譲歩してるんだから、許してやってもいいんじゃないか?…よし、じゃ、あたしが一緒に行って話してみるよ!」
(…止めた方が…)
誰もがそう思った。けれど、なつみは喜んで一緒に帰っていった。
「大丈夫かよ、おい…なぁ、慎…」
「さぁな。」
「…まあ、待つしか出来ないけどな。」
果たして。
2時間後にはすごい勢いで走ってくる音。
「…ダメだったらしいな…」
「ああ」
がんがんがん
それでも一応律儀にノックをしてくるが、返事を待たずに入ってきた久美子が、玄関先で仁王立ちで叫ぶ。
「…あンの、くそ親父がーーーーーーーーー!」
地団太を踏みながら悔しがっている。
「いや、ヤンクミ、一応、慎のお父上なわけで」
「慎ここにいるし。」
「落ち着け落ち着け。よーしよしよし」
「こ、このお菓子美味いぜ、食う?」
皆がそれぞれ宥めて座らせる。
沢田が黙ってコーヒーを淹れて来ると久美子の前に置く。牛乳たっぷりのカフェオレ。
そのカップをがっと掴んで一気に飲む。
「わっ、バカ、ヤンクミ、火傷する!」
野田が慌ててその手を押さえるけど間に合わず。
しかし、当の久美子は平然と飲んでいる。
4人の不思議そうな視線が沢田に集まる。
「…こいつのことだからどうせ一気飲みするだろうし、牛乳あっためなかっただけ」
「さすが慎!」
素直に感心するクマ。
しかし、他の3人はちょっと浮かない表情。
そして全く気づいていない久美子が「ぷはっ」といいながらカップを置く。
「それにしても…あの親父…人の言うこと聞こうとしやがらねぇ…」
少し落ち着いてきたらしく、ため息をつくと沢田の肩をぽんぽん、と慰めるように叩く。
「お前も大変だったんだなぁ…なつみちゃんもかわいそうに。兄妹揃って家出したく
なる気持ちも分かるな、うん。…まあ、『沢田病』ってことで。」
「「「「『沢田病』?」」」」
「うぉっ、びっくりしたっ」
すぐ後ろから四人があげた声に驚いて振り向く。
「なんだよそれ…」
呆れてため息をつく沢田をよそに、のこる5人はなつみちゃんのことで旅行のことで、真剣に話し合っていた。
「ところで、どーすんだよ、ヤンクミ」
「交渉決裂だったんだろ?」
「諦めるわけにゃいかねーだろ!なつみちゃんのあのケナゲな表情と涙を無駄にしてたまるか!」
握りこぶしを作って久美子が力説。
「もちろん、協力してくれるよな?な?…内山?」
(名指しかよ…つか、お前、それ近づきすぎ…)
胡坐をかいて座っていた内山の真横、顔を覗き込むようにして話しかける。
上目遣いに「なっ?」と念押しされると、知らず知らずのうちに赤面している内山。
「…わかったよ」
視線をそらしてぶっきらぼうに了承の返事をする。
「そっか!やっぱり内山、頼りになるよなー!あたしは嬉しいぞ♪…南?」
「え、俺?!」
くるん、と方向を変えて満面の笑み攻撃。
「お前も協力してくれるよな?」
(やべ、可愛い…)
「南?」
「う、…わ、分かったよ…」
「そうか!そうだよな!な!野田?」
「はいっ!」
(う、こ、今度は俺っ?)
正面に座っていた野田のスカーフをきゅ、と引っ張って顔を近づける。
「…な?」
(何が『な?』だよ!…うわ、睫毛長…!)
横から伸びた手が久美子の手首を掴み、野田のスカーフから手を離させる。
その手の持ち主はいわずと知れた沢田。
「…で?何すりゃいいんだ?」
ため息交じりの一言で、全員協力決定。
野田、クマは否応無しに引きずり込まれることになった。
「それはこれから考えるんだろ?」
「「「「「は?」」」」」
「頼りにしてるぞ、沢田!お前が一番親父さんの情報を手に入れやすいんだし、一番頭いいんだしな!」
(どういうことだよ、おい…)
呆れて何も言えなくなった5人の前で、極上の笑顔を振りまく久美子。
それだけ一気に言うと、すくっと立ち上がり、こぶしを突き上げる。
「じゃあ、『なつみちゃんの想い出作り大作戦』、頑張るぞ、おー!」
携帯電話が振動して、着信を知らせる。
(大人しく待ってられねぇのかよ…全く。)
ちょっとばかり毒づいて沢田は通話ボタンを押す。
「…はい」
『こちら作戦本部、様子はどうだ?』
「は?…お前、何言って…」
『いいから!様子はどうだ?』
「…予定通り。親父は今都内のホテルで講演中。」
『お前、もう少し感じ出せよ。せっかくあたしがだなぁ…』
「…以上、報告終わり」
ぶち、と通話を終了させると沢田は大きくため息。
「ヤンクミ、なんだって?」
「…」
クマの問いに、なんとも答えようがなくて、沢田はまたため息をつく。
5人は沢田の実家の近くで様子を伺っていた。
あれからあーでもない、こーでもないと色々久美子言うところの『作戦』を考えてみたが、
どれもこれもなつみが帰ってきてからひと悶着ありそうな案ばかり。
(…まあ、どうやったって分かっちまうんだから仕方ねーだろ。)
日にちもない、いい案が出ない、という切羽詰った状況の中、久美子がキレた。
「…こうなったら、仕方ない。…やるぞ」
「何を?」
「…言わずと知れた…強行突破だ!」
「「「「却下」」」」
一刀両断。
「なっ、…お、お前ら、あたしはお前らの教師で」
「教師が誘拐犯人じゃまずいだろーが!」
結局、上手くいくワケない、と思いつつも百万が一の可能性に賭けてたてた計画は、
@親父さんの留守を狙い、慎がクマを伴い、家の中へ入る。
Aヤンクミをなつみの部屋の中に引き入れる。
Bその後、なつみを外へ出し、旅行へ行かせる。
C部屋は内鍵をかけ、親父さんが何か言ってきても「お父さんなんか知らない!」とヤンクミが声を作って追い払う。
D次の日、旅行から帰ってきたなつみとヤンクミが入れ替わり、作戦完了。
(つか、本当無理…)
それでも、こんな無謀な計画にすら付き合ってやろうと思ってしまう自分が恨めしかった。
そのとき、また携帯がふるえ、着信。
ディスプレイには『野田』と友人の名前が出ている。
「…はい」
『作戦進行具合いかがでしょうか、オーバ?』
「は?」
(…お前もかよ…)
『もしよろしければそろそろ行きましょうか、オーバ?』
少々付き合ってやらねば終わらないようだと判断した沢田は諦めの境地に入った。
「了解、作戦開始」
『了解、ご武運を祈る、以上、通信終了』
ツーツーツー
「…行くぞ、クマ」
「お、おう」
そして沢田は家へと向かって歩き出す。
案の定、警備員が近寄ってきて、沢田の顔を判別すると表情を和らげて通してくれる。
久しぶりに実家の玄関に入ると、沢田母が出てきて驚く。
「慎!どうしたの、突然」
「…親父は?」
「今出かけてるわ…どうしたの、いつもこんな時間に家にいないの知ってるでしょ」
さすが母親。
何か気づいたらしいが、ここで動揺しては作戦(お粗末なものではあるが)がふいになるので、落ち着いて答える。
「…そうだったな…なつみは?」
「部屋にいるわ」
「…じゃあ、なつみの顔見て帰る」
「分かったわ。じゃ、お茶でも持っていくわね」
「いらねー…すぐ帰るから。」
「そう…」
あまり時間はない。
そう判断して少しだけ足を早めると、2階へと階段を昇り、なつみの部屋をノックする。
「はい」
「なつみ?」
「…おにいちゃん?!」
部屋に入ると素早く窓を開け、外の様子を伺う。
壁の向こう側で手を振っている野田を発見すると、クマに合図する。
クマが学ランの前ボタンをあけると、そこにはロープが隠されていた。
「なつみ、急げ。時間がない。」
「…ありがとう!きっと来てくれると思ってたよ、お兄ちゃん!」
幸いにも中庭の警備員が今日はいなかった。
合図をすると野田、ヤンクミが塀を乗り越えてくる。
荷物となつみをロープを使って下ろすと、代わりにヤンクミが登ってくる。
なつみは野田、南が塀の両サイドからフォローして外へ出した。
そのとき。
携帯に着信。『内山』という文字が表示されていた。
「はい」
『慎?やべぇ!親父さんがそっちに向かった!そろそろ着いちまうぞ!』
「!マジかよ?おい、ヤンクミ、急げ!親父が来る!」
「げっ!」
焦るとロープを登るのは難しい。
帰って時間がかかってしまった久美子を引き上げると、沢田はクマにロープを持たせ、部屋を出ようとする。
「…あとはお前が頑張れよ、ヤンクミ」
「おう、まかせとけ!」
ドアが開いた。
そこに立っていたのは沢田父だった。
「?!山口先生?!…慎!お前…」
「ちっ…」
「!」
「これは、…どういうことです…?なつみ!?」
沢田を押しのけるようにして部屋に入ってくると、部屋の中を見回す。
「…こういうことですか。最近の教師は子供の家出にも手を貸すんですか?」
「あ、いえ、家出ではなく…」
「親父、これは俺が」
「黙れ慎!お前は一体何を考えているんだ?!山口先生、この間も申し上げたはずです。
もうこれ以上なつみを悪い道に走らせるのは止めていただけませんか?」
それを聞いて久美子が、キレた。
「『悪い道』?…悪い道、ってなんなんだよ!子供が、てめぇの判断でやろうとしてること、
何から何までだめだって親が決めちまうのがいい道なのか?」
「なつみちゃんはな、親父さんが心配してるんだ、ってことも、闇雲に反対してるんじゃねぇってことも、ちゃあんと分かってるんだよ!
だからちゃんと親父さんが心配しないように、色々考えてたじゃねぇか!
なつみちゃんが悲しいと思ってたのは、旅行にいけないことだけじゃない、親父さんが話を聞いてくれないことだったんだ!
きっちり向き合って欲しかったんだよ!だったら、その気持ちに応えてやるのが親じゃねぇのかよ!
話し合いもしねぇで、ただダメだの一点張り、そんなのが『いい道』なのかよ!」
「な…」
沢田父が絶句する。久美子はその目から視線をそらさなかった。
「…あんたは、何を怖がってる?子供達が自分のいうことを聞かなくなることか?
それとも、…自分から離れていくことか?そんなの当たり前じゃねーか。
子供だって一人の人間なんだ。成長すりゃ自分の意思ってもんがあるんだ。
いつまでの親の言うことだけをはいはい聞いてるわけにはいかねぇ。いつかは親から離れていくんだよ。」
「その子供の成長喜んで、ちゃんと向き合ってやれってんだ!」
その場にいた誰もが言葉を発しなかった。
沈黙が流れていく。
「…どうしたの?」
沈黙を破ったのは、階下から何か起こったのかと来た沢田の母親だった。
久美子が、はっとして姿勢を正す。
それから、言いづらそうに、でもはっきりとした声で言う。
「でも、確かに、なつみさんを旅行に行かせてしまったのは行き過ぎの行為でした。
それはお詫びします。処分も受けます。だけど…認めてやってください。
帰ってきたら、話し合いをしてやってください。…お願いします!」
そうして、頭を深く下げたあと、家を飛び出していった。
リビングに戻り、上着を投げ出すと、ネクタイを緩める沢田父。
入り口のところにもたれて、沢田は黙ってその様子を見ていた。
そのまま振り向かずに、つぶやく。
「本当に面白い教師だな」
「…ああ。」
「ああいう教師もいていいのかもしれないな。…まあ、あんまり大勢でも困るがな」
ソファに深く腰掛けて、目を閉じる沢田父。
「…怒ってねぇのかよ」
「ん?」
「なつみは旅行に行っちまったんだぞ」
「…許可は出してある」
「は?…それどういうことだよ!」
詰め寄る沢田に、ちろ、と視線を送ると再び目を閉じる。
「夕べ、母さんとなつみに一晩かけて説得された。…おかげで眠らせてもらえなかったんだぞ」
「なら、なんでそう言わねぇんだよ!おかげでこっちは結構苦労したんだぞ!」
「まあ、そう怒るな。…なつみに内緒にしておいてくれ、と頼まれたんでな」
「は?」
「なんでも『思い出作り』だそうだ。中庭の警備員も今日は休みにしてくれ、と言われていたので休ませた」
沢田の頭になつみの笑顔が浮かんだ。
(なつみ…お前、俺達で遊ぶなよ…)
「それにしても」
沢田父が眠そうに額に手をやりながらぼやく。
「うちの子供達は、どうしてこう家出したがるんだ…お前も、なつみも…」
めったにない父親の弱音にちょっとばかりいたわりの気持ちが生まれる。
「『沢田病』なんだと」
「ん?なんだと?」
座りなおして沢田と視線を合わせる。
「…あいつが、…山口が言ってた。」
「………ふ、『沢田病』か、…は、はははは、それはいい!はははは!」
大声で笑い出した父親にあっけにとられて見つめる沢田。
しばらくして笑い止んだ沢田父が、沢田の視線に気がついてひとつ咳払いをする。
それでもその顔に浮かんでいるのは、久しく見たことの無い穏やかな笑顔。
その表情がいたずらっ子のように変わる。
「なら、そのうち私もかかるかもしれんな。…そうだ、そうしたらお前のアパートにでも行くか。」
「来んな」
外へ出ると、皆が待っていた。
「おい、慎、今ヤンクミかっ飛んで行っちまったけど…大丈夫だったのか?」
「あいつ、ハンパねー早くて…追いつけなかった。悪ぃ。」
南が息を切らせながら言う。
「大丈夫だ。なつみのことも何とかなった。…ヤンクミ追うぞ。あいつ今ごろ自己嫌悪の真っ最中だから、安心させてやんねぇと」
その言い方に皆が固まる。
「…何だよ」
「なあ、慎、お前」
それ以上言えなくて言葉に詰まる内山に肩をすくめてみせる。
「…だーっ!やっぱりかよ!」
「慎、それはないっしょ!」
「あー、もう!俺たちにまで内緒にするワケっ?!」
そして何も分かってないクマはきょとんとしている。
「悪ぃ。…それより、追うぞ」
「ごまかすなって!おい、慎!」
走り出した沢田が、5メートル先で振り返る。
「…なぁ。ヤンクミ1番に見つけたやつ、特典付けねぇ?」
「「「へ?」」」
「今日一日、あいつ独占。それと、落ち込んでるのを慰める役。後から見つけたやつは、見かけても黙認すること」
その言葉を聞いた瞬間、3人の脳裏に都合のいい映像が流れた。
公園で、河原で、夕闇迫る街角で、自分が彼女を見つけたときの様子を思い思いに思い浮かべ、
自分の世界に入ってしまう。
(「ヤンクミ、…探したぞ…」なんて、横に座って肩抱いちゃったり)
(「南…」とか潤んだ目で見られちゃったり)
(ひょっとしたらすがり付いて貰っちゃったり?!)
「「「のったー!!!…って、もういねー!」」」
「…やっぱりここか」
屋上。
目を閉じてベンチに寝転がっていた久美子が、声に驚いて起き上がる。
いつものようにポケットに手を入れて立つ人影を見つけ、ばつの悪そうな様子でその人物の名前を呼ぶ。
「沢田…」
何か言いたそうにもじもじしている久美子に、沢田がからかうような声をかける。
「そこ、俺の指定席なんだけど…ひょっとして、俺のこと考えてたとか?」
「なっ」
真っ赤になる顔がその答。
「へぇ、そうなんだ」
久美子が起き上がって出来たスペースに腰を下ろす。
「ななな、なに言ってんだよっ、だ、大体他にもベンチあるのに、どうしてここに座るんだっ!他行け、他!」
「お前が他行きゃいいだろ」
「い、行くよ!行けば」
いーんだろ、と続くはずだった言葉は腰に回された沢田の腕に遮られる。
「…嘘だ。行かなくていい。」
横抱きにされた形の久美子が、近すぎる顔にますます赤くなる。
「お、お前、顔近いっ」
ほとんど悲鳴に近いその台詞。
「…そうか?…じゃ…」
さらに顔を寄せ、唇を掠め取る。
何が起こったかわからない、という表情の久美子に、笑って見せる。
「もっと近づけてみた。…感想は?」
必死になって街中を、河原を、思い当たるところを走り回る3人が神社で鉢合わせ。
「いたか?」
「いや、こっちにはいなかった」
「…じゃあ、あとは…あ!」
「「「学校!」」」
PPPP♪
3人の携帯が同時にメールを受信する。
わたわたとそれぞれの携帯を見て、へたり込む。
『発見。本日解散。慎』
「…やられた…!」
「っくしょー!」
「ちぇー、慎のやつ…美味しいとこ持っていきやがって…」
PPPP♪
再びメール着信。三人ともが不機嫌なままそれでも確認する。
そして声を合わせて
「「「ふざけんなーーーーーー!てめ、慎ーーーーーー!」」」
『あと、今日から俺のもんだから。もう手ぇ出すな』
そこへクマ到着。
「お、いたいた!さっき慎からメール入って、ヤンクミ見つかったってよ!」
明るく言うクマに、三方向からツッコミが入る。
べし、ばし、びしと小気味のいい音とともに、情けなさそうなクマの声。
「…な、なんだよぉ…」
(悪いな、クマ)
メール送信を終えると、大体のいきさつを予測して、心の中で詫びる。
「メール?珍しいな、誰にだ?」
「…単なる連絡事項。先帰るってな。」
そう言って久美子に手を差し出す。
「ん?なんだ?」
沢田はため息をつくと、ぽそりと言う。
「手」
「ん?」
「…手ぇ出せ」
言われたままに差し出された手を取ると、歩き出す。
真っ赤になりながらも文句を言わずに付いてくる久美子に、満足げに笑う沢田。
(捕獲完了。…以上、報告終わり)
END
◆サイト持つ前からの大の大の大のお友達でもあり、そして妄想の神様でもありますー♪(うふ)
たかむら
さや様から慎クミssですーvv(でも久美子総受けチックv)
◎たかむら さや様からのコメントです。
遅くなってごめんなさいー(涙)私なりに、テーマを消化してみたつもりなのですが、いまいち消化不足かも。
それでも頑張って書いたので、どうかひとつお納めくださいませ。
個人的に沢田父…というより西岡さんが好きなので、ちょっと出ばらせてみました。
てへ。
一番暴走しているのはきっとワタシ自身でしょう。誰か止めてー(泣)
最後になりましたが有希ちゃん、いつもいつもありがとう!多謝!
◎有希乱入長コメント
さすが妄想の神様ーーー!!このドラマ以上に作り上げる「ごくせん」の空気よ〜!映画みたいーーっっ。><
大本命の慎クミを軸に何気に久美子総受けモードを引っ張り出すなんて、凄い技ですよね〜〜!!(感涙)
てか!この豪華メンバーにまず仰天ですよね@@☆ 一人一人しっかり個性が文の中から感じ取れるし、
何よりもその場その場のワンシーンが鮮明に頭の中に浮かびます。
沢田ファミリー〜〜くぅぅぅ、いい味出しまくってるよ>< 妹に甘い慎ちゃんも最高に可愛いしさぁぁvv(げへへ)←変態。
三人称で書くのは初ということで、かなり苦労したようですね(涙)。そして一番悩んだのが、父に対する
慎ちゃんの最後の一言・・・うんうん(頷いて)この一文にさやちゃんが、何時間も悩み創作にどれだけ愛と想いを込めたのか…うぅぅ。
もうもう本当に胸一杯、満タンに伝わりましたよーー!!慎クミへの愛&ごくせん魂を最高なほど堪能させて頂きました!!
妄想の神様、大好きなさやちゃんへv
うわわ〜ん!さやちゃーん、創作本当にお疲れ様でしたーー!!(抱きっ)
今回は難産の末の末に生まれたssということで…もう有希は何てお礼を言ったらいいのか(感涙)
このpurely初企画を一緒に考え立ち上げて頂き、そしてこんなにも素敵なssを掲載させて頂けることがまだ夢のようです。
サイトを持つもっと前…。さやちゃんと初めて巡り合えた日の事を昨日のことのように思い出します。(美しき思い出)
あの時、あの時代も、優しくて温かいお言葉の数々を創作する有希に与えてくれて・・エグエグ。どれだけ救われたことか><
今現在、当サイトが存在するのも、投稿を鬼の様にさせて頂いていた自分へ、さやちゃんを始める方々からの
温かい感想やエールがあったからこそです。勇気100倍だね!本当に有難うー!!昔から何一つ成長しないこんな有希ですが、
これからも皆様に少しでも喜んで頂ける作品を残せるように頑張っていきますので、どうか仲良くして下さいねv