*Attention

 かっこよくて、男前の慎ちゃんファンの方はお読みにならずにここで回れ右してください。

 読後不快な思いをされても、作者は責任を取れません。

 ご了承いただけた方のみ、どうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 眠れなかった。

 あいつが肩に置いた掌の温もりと、その時頬を掠めた髪の甘やかな香り。

 俯いた首筋にかかる後れ毛が、妙に艶っぽかった。

 一人、部屋で天井を眺めながら思い出したそんなことが頭の中を支配して・・・。

 

 輝くような笑顔を独り占めにしたい。

 彼女のあの瞳に映るのは自分一人だけで良い。

 そんな子供のような独占欲・・・それを感じるのはただ一人。

 そう初めて信じることの出来た大人であり教師である山口久美子、彼女にだけだ。

 

 うとうとと眠りに落ちたのは、もう明け方近く・・・その朝俺は、久しぶりに遅刻をした。

 

 

 僕たちの失敗

 

 

 「悪いけど4人だ。」

 

 そう宣言したのは、ヤンクミの退職が取り消され、復帰記念の課外授業で缶蹴りが行なわれた河原でのことだ。

 あそこでライバル宣言を交わす大人たちに自分の存在をはっきり見せたくて思わず口走ってしまった。

 大人たちには負けるわけにはいかないと、そんな決意も込めて・・・。

 それは後悔していないけれど・・・だが・・・。

 あのセリフをクマに聞かれたのは大きな誤算だった。

 一人に知られればもちろんいつもの仲間達に知られるのも時間の問題で・・・

 その為に、あいつ等のヤンクミに対する想いを自覚させてしまったのだった。


 それが、最大の失敗・・・。

 

 期末試験で80点以上取ったら英語教師の藤山とデートしたいと言っていた野田は、

 あっさりとその条件でのヤンクミとのデートに乗り換えた。

 結局そんな点数は取れるはずもなく、願いはまんまと却下された。

 まぁ、当然だ。


 手先の器用なうっちーはその特技を生かし、暑さを理由にヤンクミの髪を結い上げたり、

 編み込んだりとなにかと彼女に纏わり付いていたが、数学の追試が決定したことでその権利を奪われた。

 はん、ざまあみろ。


 南はといえば、自慢の筋肉を得意げにひけらかし、勝負事の大好きなヤンクミに腕相撲だの、

 サッカーのフリーゴールだのを挑んでは、運動神経抜群の彼女にまんまと負けて

 『私に勝とうなんて10年早いんだよ。』と言われ、落ち込んで暫く浮上できなかった。

 へっ、テメェは暫く穴の底に居ろよ。


 クマに至っては、ある意味被害者かもしれない。

 あいつのヤンクミ好きには恋愛感情が入っていないことは知っていたが、

 ヤンクミとのスキンシップ率の高いクマは、幾度と無く俺らの不興をかい、

 その度に大きな身体を縮めている姿はちょっと可哀相かもしれなかった。


 そしてライバル宣言した俺はと言えば・・・

  結局何にもアプローチできずに今日に至る。


 ヤンクミはあの性格のために色々やりすぎたり、一人で突っ走ったりすることが多くて、

 そのフォローに回るのは何時も俺だったけれど、そんなことは俺にとってなんのメリットにもなりはしなかった。

 その何倍ものフォローを俺たち生徒がヤンクミから受けていたから・・・。

 唯一俺が他の奴らとは違っていた特別なこと・・・ヤンクミの実家が極道の家だということを知っている・・・は、

 あのろくでもない週刊誌の記者によって暴露され、もはや秘密でもなんでも無くなってしまった。

 そのことで俺は、他のライバル達と同じ地点に立たざるを得なくなってしまったのだ。

 

 俺が、ヤンクミへの気持ちを自覚して変わったことといえば、

 必ず彼女に会える朝のHRに遅刻しなくなったこと、もちろん数学の授業はふけないこと、そんなこと位だろうか・・・。

 そうそう、夏休みに入ってからの補習も数学にだけは顔を出していた。

 俺と同じく、進学を選んだ南と野田も同じ理由で補習を休むことはなかったし、

 内山もバイトの時間を工夫したようで、俺らが補習を終えてヤンクミと帰る頃には、必ず校門前に姿を見せていた。

 高校生活最後の夏休みを退屈せずに過ごせたのも、こいつ等仲間達とヤンクミのおかげだった。

 河原でのバーベキュー然り、夏祭りの後の花火大会然り・・・

 ヤンクミが提案する全ての行事ごとに見事なまでの連携で参加し、

 盛り上げる仲間達によって、俺はヤンクミと一緒の思い出に満たされたのだった。

 

 

 そして、新学期が始まって一週間が過ぎた頃・・・。


 「おはよう。」


 いつもどおり教室に入ってきたヤンクミの様子が少しばかり変だと気付き、

 声をかけたのは気配り屋の内山だ。


 「ヤンクミーどしたの?なんかあった?」

 そう言いながら教壇に向かったのだが、後数歩のところでその歩みを止めて固まった。

 ヤンクミの今日の静かさは普通ではない。

 それを心配しての内山の行動だったのだけれど、その原因がものすごい怒りのせいだということに、気付いたのだった。

 拳を握り締め震わせていて、額には怒りマークまで見えそうだ。

 それを見た3D全員がこのところの自分達の行動を思い出し、何がヤンクミを其処まで怒らせているかの原因を探ろうとしていた。

 そして怒りの矛先が自分達に向けられているものではないことに、やがて気付いた。


 「ヤンクミ、お前何にそんなに怒ってんだよ。」

 そんな俺の問いかけに、拳を握り締めたままのヤンクミの答えはこうだ。

 

 今年の白金学院の文化祭は例年通り、9月の第4週の金・土・日で行なわれ、

 それぞれ各クラスで出し物を決め、運営することになっている。

 1日目は校内のみのことなのだが、2日目、3日目は校外の人間も多く訪れる。

 クラス単位で、展示であったり、演劇であったり、はたまた模擬店などテーマは自由に決めてよいことになっているのだが、

 毎年3年生は、演劇などをやると練習時間等の確保が難しいとの理由から、模擬店をやるのが決まりごとのようになっていた。

 俺達3Dもご多分に漏れず簡単な喫茶店をやることになっていたのだが・・・。

 今朝の職員会議での教頭の話では、今年は模擬店の利益をどこかの福祉施設に寄付することになったらしい。

 その時の教頭のセリフが

 『一学期には暴力事件などでマスコミに騒がれ、白金の評判を落としてしまいました。
 そのイメージアップのために、今回の文化祭での収益を寄付することに致します。』だった。

 そして、

 『山口先生、いいですか、3Dには何もしていただかなくて結構です。
 いや、むしろ何もしなーいで頂きたい。他校の生徒達や、一般の方々もおみえになりますからね、
 そんな場で問題行動を起こされてはこの学院のイメージダウンは計り知れません。3Dはひたすらおとなしく、
 そして静かにしていてください。それが、あなたの教師としての責任ですよ。』

 そんなセリフがヤンクミの怒りを頂点にしたのだ。

 『教頭先生、3Dだってやる時はやります。ええ、もちろん文化祭行事にはしっかり参加しますとも。
 問題行動も起こさせやしません。こうなったら、校内で一番の利益を出してやろうじゃありませんか。』

 そう大見得を切ってここに乗り込んできたわけなのだった。

 

 「お前らこんなこと言われて、黙って引きさがろうってんじゃねぇだろうな。
 いつまでも教頭にでかい面させとかねぇ為にも、ここらで教頭の鼻を明かしてやろうって思うだろ。
 な、そういうわけだから、ここは一つみんなで一致団結して・・・」

 「おーし、そういうことなら、今から計画練り直しだ。」

 「いつまでも、バカにされてばっかじゃ男がすたるぜ。」


 ヤンクミの言葉に立ち上がって、直ぐに反応をした野田と南に正直驚いた。

 今までのこいつ等なら、『別にぃ』とか『面倒くせぇ』とか言って取り合わなかったはずだ。

 見回せば内山もクマも、他のやつらも立ち上がって

 「ヤンクミ、まかせろ。」

 「ばっちり収益上げて、教頭に札束をたたきつけてやるぜ。」


 口々にそんなことを言いながら、盛り上がっている。

 俺は何もリアクションはしなかったが、協力するつもりはあったから黙って事の成り行きを見守っていた。


 「じゃあさ、ヤンクミ。俺、実行委員やってやるよ。」

 野田が手を挙げる。

 「よーし、お前ら。頑張って文化祭盛り上げるぞー!おーー!」


 「「「「「「おーーーー!」」」」」

 

 こんな感じで決まった文化祭の3Dの出し物は <カリスマホストクラブ>

 喫茶店と同じようなものだが、以外にいい提案だと思われた。

 ヤンクミは『男子校でホストクラブなんて、お客が入るのかよ。』と心配していたが、

 白金の文化祭は毎年どういうわけか他校の女子が数多くやってくる。

 赴任一年目のヤンクミが心配するのももっともなのだが、白金の七不思議といわれる現象の一つなのだ。

 それから二週間かけて、俺たちはホストに回る奴、

 裏方として客に食べ物や飲み物を提供する奴と役割を決め、準備を進めていった。

 ヤンクミはあの教頭から、

 『どうして3Dは普通に喫茶店じゃないんですか!?ホストクラブなんて学校の中でそんな・・・』

 などと案の定イヤミを言われたようだが、

 『生徒の自主性を重んじてこそ、そこに創意工夫が生まれ、やる気も出るんじゃありませんか。』

 と教師らしい反論を返して、俺らのやりたいようにやらせてくれたのだった。

 

 

 

 その日の放課後、例によって文化祭準備の打ち合わせの時のことだ。


 「ヤンクミー、お前はどうするよ?」

 野田の一言にみんなが疑問符を浮かべて二人を見た。

 「え、何がだ?」

 「お前も裏方として、模擬店でウエイトレスをやるって言うんだろ?だったら衣装っていうか服装も考えねぇと・・・
 俺たちだってスーツでばっちり決めることになってんだからよ。いくらなんでもジャージじゃまずいだろ。」


 野田のそのセリフに3Dのメンバーは納得顔で頷いていたが、俺は嫌な予感に眉を顰めた。

 お下げ髪に眼鏡、ジャージといういでたちに誤魔化されている奴は多いが、ヤンクミは実は美人の部類に入ると思う。

 色白の肌、長い睫、黒髪は彼女の性格を表すかのようにまっすぐで綺麗だ。

 そして何より、信念を持った強い瞳が最大の魅力だと思っている。

 もちろん俺が惚れたのはそんな容姿にではないけれど、

 今ヤンクミに恋愛感情を持っていない奴の多くが、その外見にだまされている可能性は高いと思う。

 だから文化祭などという、みんながお祭り気分になる時に、いつもと違った格好をさせて人の目を引くのは抵抗があった。


 「やっぱジャージじゃまずいかなぁ・・・。」

 そう言ったヤンクミに『そのままで、いいんじゃねぇの。』と言葉を返そうとしたが、

 「ヤンクミ、んじゃあさぁ、俺に任せてくんねぇ・・・・?」

 野田のセリフに負けたのだった。

 

 

 

 「野田ぁ、お前ヤンクミの衣装どうするつもりだよ。」

 いつもの仲間達との帰り道、3m程前方で内山が野田に問いかけている。

 野田は俺たちを振り返り、意味ありげな笑みを浮かべると

 「ウッチー、そのことなんだけどさぁ・・・。」

 と、内山の肩を抱いてこそこそと耳打ちをしている。

 横を歩いていた南が

 「慎・・・あの野田の態度、なんか意味深じゃねぇ?なんか企んでるみてぇだけど・・・。」

 気になるらしく耳打ちしてくる。

 「まぁいいんじゃねぇの。やらせとけよ。」

 そう言ってその場は黙って見送った。

 野田が何を考えているかは分らなかったが、いずれにせよ文化祭で収益を上げて、

 ヤンクミを喜ばせてやろうと思っていることに間違いはないだろうから、大して気には留めなかった。

 なんか拙いことにでもなったら、自分がフォローに回れば良いだけの事だ。

 そんなことには慣れているから・・・。

 

 

 

 そして文化祭まで後2日となった日の放課後、衣装合わせと宣伝ポスターのための写真撮影が行なわれた。

 ホスト役になっている奴らは全員がスーツを持参していて、俺も仕方なく持ってきていた。

 ヤンクミが裏方に回るのなら一緒にそっちをやりたいというのが本音だ。

 だが、いつもの合コンのノリで無理やりホストに回されたのだった。


 「全員着替えたら、こっちに来てくれよ。」

 デジカメを構えながら、野田が集合をかける。

 「みんな、女受けする顔してくれよ。特に、慎。そんな怖い顔してんなよ。
 南、お前笑い過ぎだって・・。うっちー・・・はまだ来てねぇか・・・。」

 喧騒の中、早々に撮影を終えた俺は、スーツ姿のまま自分の席でいつものごとく雑誌を捲っていた。

 「お待たせー。」

 言いつつ内山が教室に入ってくる、

 そして野田に耳打ちをすると自分も写真を撮ってもらうべく教壇の前でポーズをとり始めた。

 と、その時、

 「沢田はもう写真撮り終わったのか?」

 ヤンクミの声が耳元で聞こえた。


 いつの間に教室の後ろの階段を降りてきたのか気付かなかったのだが、

 俺の肩に手をかけ、自分の身体を隠すように屈んで真後ろから声を掛けてきたのだ。

 こんな仕草は、今までされたことが無かったから、正直俺はうろたえた。

 心臓が急に早く打ち始め、顔が熱を持ったのが分ったが、何とかいつものポーカーフェイスを保って

 「お前、そんなトコで何やってんの?」

 そんなセリフを吐いたのだが、ヤンクミはそれには答えず、

 「沢田ぁ、お前そんな恰好してると、いっぱしの男に見えるじゃないか。なかなかカッコいいぞ。」

 相変わらず俺の耳元でそう言った。


 動揺を抑えきれなくなった俺は立ち上がって、屈んで隠れるようにしていたヤンクミを引っ張りあげたが、

 唖然として言葉を発することが出来なかった。


 「おっ、ヤンクミ、そんなトコでなに隠れてんだよ。こっちこっち、お前の写真も撮るんだから。」

 野田に呼ばれて歩いていくヤンクミは、いつものジャージではなく

 身体の線にぴったりのチャイナドレス、しかもかなり長いスリットが入っている。

 髪もお下げではなく頭の上の方で纏められて、何かのゲームキャラのようだし、眼鏡もかけてはいなかった。

 野田が用意した衣装であることは容易に知れたし、ウッチーが遅れて来たのもヤンクミの髪を結っていたからだと分った。

 そんな彼女の姿に、クラス中のみんなも、驚きのあまり声を発することも動くこともできないようだ。


 そんな中、野田と内山だけはニヤニヤと笑いながら、ヤンクミを椅子に座らせて写真を撮っている。

 (お前らいったい何枚撮るんだよ。)

 俺はそんな、何の関係もないことを考えながら、ぼんやりとその様子を見ていた。

 驚きから解放された仲間達は、ヤンクミを囲んで口々に何か言っている。

 『以外に似合うじゃん。』だの『おっ、いい女。』だの・・・・。

 彼女も満面の笑みを浮かべ、『似合うか?』なんてそれに応えていて・・・。

 俺は直ぐにでも彼女の傍に行き、その肩を抱いて仲間達から引き離したい衝動を覚えたが、辛うじて我慢した。


 そしてその日、不満と動揺を抱えたまま帰宅した俺は、眠れない夜を過ごす破目になったのだ。

 

 

 

 

 「沢田、重役出勤だな、えぇ!?」


 翌朝、寝過ごしたことに気付いて慌てて登校したものの、到着したのは1時間目の授業も半分ほど終わった頃。

 HRに間に合わないのなら、いっそのこと午後から登校することも考えたが、

 1時限の授業が数学であったことを思い出し、慌てて駆けてきたのだ。

 教室に入るなりのヤンクミの言葉も無視して、仲間達に軽く手を挙げ、席に着く。


 「沢田!お前私のこと完璧に無視してるな。」

 いつもの彼女の文句も、自分にだけに向けられたものであるならば嬉しく思える、そんな自分に自嘲の笑みが漏れた。

 そしてその時の俺は、クラスの奴らの間に密約があったことに愚かにも気付くことが無かった。

 

 

 昼休み、昨日撮影した写真を使って野田が作成したポスターのお披露目が行なわれた。

 「ついさっきまでパソコンでレイアウトとか考えてたんだぜ。」

 苦心の作を見てくれという彼の言葉にクラス全員が野田の机の周りに集まった。

 

 <カリスマホストクラブ 3D>

 ご指名下さい。当店自慢のホストです。

 

 そんなうたい文句の下に、ホスト役が割り振られている奴らの写真がずらりと並んでいる。

 その下にはSTAFFとして、裏方の奴らの写真が、そして一番下、

 みんなの写真より少しサイズの大きいヤンクミの写真が、昨日の笑顔をそのままに飾られていた。


 ホストではありませんが、ご指名受けます

 そんな文句と共に・・・。

 

 「野田、これってさぁ・・・。」

 南が問いかける。

 「お前ら忘れてる?ここ、男子校よ!?売り上げのためには、ヤンクミにも頑張ってもらわねぇと・・・。」

 そうニヤニヤ笑って返したのだった。

 放課後、ポスターの拡大コピーを取りに行き、それをみんなで校内を始め付近に張って回った。

 それを見つけた教頭にヤンクミがまたかなりのイヤミを言われたことを、俺たちは文化祭後に知ることとなるのだ。

 

 

 

 

 文化祭初日。


 俺たちホスト役は、きちんとスーツを着るよう言われていて、窮屈に思いながらもそうしていたし、

 ヤンクミも野田の用意した衣装を身に纏い、髪も内山によって綺麗に結われていた。

 彼女は、責任上教室にずっと居ることになっていたから、俺も教室を出ることはなかったが・・・。


 「ヤーンクミッ!」

 聞き覚えのある声に振り返ると

 「結城じゃないかぁ。どうしたんだ?」

 「3Dの売り上げに貢献しに来たんだよ。今のクラスの奴らも連れてきたからさ。」

 「サンキュー、結城。」

 「ヤンクミ、また教頭先生とやりあったんだってね。
 一番の売り上げを上げてみせるって、豪語したらしいじゃん。だから、これはささやかな応援だよ。」

 結城と一緒に来たというクラスメイトは15人はいるようだ。

 「ヤンクミ、なんか今日は凄く綺麗じゃん。見直したよ。」

 「そうか?まぁ、私はどうしてたっていい女なんだけどな。」

 そう言ってヤンクミは嬉しそうに結城の頭をなでまわし、『止めてくれよ。』などと言われながらも他の生徒とのスキンシップも忘れない。

 どんな奴でも彼女にとっては、大事な生徒だから。

 今の様子を見ていれば、ヤンクミへの恋のライバル予備軍が増えたのは一目瞭然で・・・。

 俺は苦い思いを抱きながら、いつか感じた嫌な予感が現実のものになっていくのを認めざるを得なかった。


 そして、こんな事態を招いた張本人の野田の頭をひっぱたいてやった。


 「じゃあ、ヤンクミ指名で・・・。よろしく。」

 今日は暇だろうとの大方の予想を裏切り、その日、こうして結城を先頭に、

 校内でヤンクミファンを自覚する奴らの指名を受けて大忙しの彼女の為に、裏方のクマ達もやはりフル稼働状態で働いていた。

 

 

 

 文化祭2日目


 土曜日ということもあり、朝からかなりの人出となっていた。

 「慎さー、呼び込みやってくんない?いや、別にメガホン持って、声を出せってんじゃないぜ。
 ポスターの前に立ってて、『入れば?』とか『寄ってけよ。』とか言っててくれればいいからさ。」

 野田の言葉に素直に従う。

 五月蝿くて化粧くさい女の隣で、つまらない会話の相手をしているよりは、そのほうがましだと思ったからだ。

 「慎なら、ゲット率100%だもんな。」

 「任せたからなー。」

 南と内山のセリフにも、さっきの野田の言葉にも含みがあることに、俺は気付くことなく教室の表に立った。

 教室の中のヤンクミはと見れば、衣装も昨日のまま、髪も内山によって綺麗に結い上げられている。

 『動きにくいだろうから、やっぱりいつものジャージでいれば?』と、

 ライバルが増えることを危惧した俺たちの意見はあっさり無視している。

 そして、クマと共に客に提供するための、食べ物や飲み物の準備に余念が無い。

 

 昨日思いがけず多くの客をもてなしたので、売り上げで一番の成績になって、

 教頭の鼻を明かしてやろうという当初の計画も現実のものになる可能性が大きくなった。

 そのために今日ホスト役に回っている奴らも、裏方も朝から気合を入れていた。

 野田に内山、そして南は随分気合が入っているようで、俺が客に声を掛ける前から、表に出てきてエスコートしていく。

 他のホスト役の奴も同じようにかなり積極的だ。

 この分なら少々サボっていたってかなりの売り上げは期待できる、

 そう判断して化粧の匂いと、おしゃべりで居辛くなった3Dから屋上へ避難することにした。

 

 

 どういうわけか男の客が多いと気付いたのは、昼間近になる頃。

 少しの罪悪感から教室へ戻ってきた俺は、3Dの中がさっきまでの客層とまるで変わっているのに驚いた。

 ほとんどの客の相手をしているのはどういうわけかヤンクミだ。

 他校の男子学生たちの指名を受けているようで、あちこちと席を移動しながら、何組かの話し相手になっているようだった。

 もちろん女子学生相手で楽しそうに話に花が咲いているテーブルもあるのだが、

 ホスト役のクラスメイトも手持ち無沙汰そうにしている奴が見受けられる。


 「このお客達、どういう連中だよ?」

 俺は遊んでいる奴らに近づき、小声で聞いてみた。

 「あいつら、なんかヤンクミのファンみたいだぜ。退職騒ぎの時、TVを見てて興味を持ったらしい。
 極道の家の跡継ぎで、暴力教師って騒がれて、だけど俺たちの先生としてハチャメチャやってる
 ヤンクミに会いたくって来たんだと・・・。今じゃこの教室、ヤンクミのハーレム状態だぜ。」

 その時、客を送り出したばかりの南が俺の傍に寄ってきた。

 「慎、何やってたんだよ。お前、呼び込みやってくれるはずだったろ!?見ろよ、この教室。

 ヤンクミの指名客ばっかりで、これじゃあホストクラブじゃないぜ。」

 確かにこんな状態じゃあヤンクミもしんどいだろう。

 それにしても昨日からのヤンクミの人気には驚かされるばかりだ。

 ただでさえ興味のあるところへ持ってきて、昨日、今日のヤンクミは女らしく着飾っている。

 指名して話してみようと思う奴が押しかけてきてもおかしくない。

 俺はどうにも気分が落ち着かなくて、野田を睨み付けてみるが、お手上げだというポーズで答えるばかり・・・。


 「おい、今いる客を送り出したら、一旦ここを閉めるぞ。」

 イラつく気持ちでそう宣言して、

 「ヤンクミ、お前休憩だ。職員室でも行って休んでろ。」

 「へっ?」

 訳の分らない顔でいるヤンクミの腕を掴んで、引きずるように教室の外へ押し出した。

 「足、靴擦れだろ?なれないハイヒールなんか履いてるから・・・大丈夫か?
 ジャージに着替えて、いつものスニーカーに替えてこい。それで1時間は戻ってくんな。分ったか?」

 「沢田・・サンキュ。ちょっと辛かったんだ。じゃあ頼んだぞ。」

 ヤンクミが居なくなったために不満顔の指名客達に、詫びを言って引き取ってもらい、

 休憩中の張り紙をして、次の客も入れなかったため、残りの客も早々に出て行った。

 休みなしで働いていたクマ達裏方も、やっと座れるといった感じだ。


 「おい、慎。何で勝手なことすんだよ。実行委員は俺なんだけど・・。」

 「お前、周りをよく見ろよ。そりゃ、売り上げあげるのも大事かもしんねぇけど、
 ヤンクミは靴擦れ作って、足引き摺ってるし、クマ達だって休みなしで・・・ちょっとは休ませてやれよ。
 ちょうど昼だし、飯食ってからまた仕切りなおせばいいだろ。」

 「だってよ・・。」

 「野田、慎の言うとおり、ちょっと休もうぜ。大丈夫だって、今までの調子なら売り上げ1位も間違いないって。
 それに俺、ヤンクミがなんか晒し者になってるみてぇで面白くねぇ。」

 「俺も・・・なぁ、ヤンクミ指名させるの、止めねぇか?」

 内山と南にも言われてやっと野田も納得したようだ。


 それにしてもこの文化祭に対する野田の入れ込みようは特別な気がする。

 どうしてそこまで売り上げに拘るのだろうか・・・?

 確かにヤンクミが言い出したことで、俺たちもそれに乗ってはみたが・・・。

 疑問に思いながらも午後からの俺は、やはり呼び込み兼ホストで売り上げに貢献するしかなかった。

 

 

 

 

 文化祭3日目


 今日も朝からヤンクミ目当ての他校生で、3Dはごった返していた。

 昨日、いつものジャージに着替えさせてからも、ヤンクミへの指名は減ることは無かったから、

 今日はもうコスプレもどきの格好はさせなかった。

 もちろん、俺たちホストへの指名も結構あって、3Dはかなりの売り上げを上げていて・・・。

 そんな中、昨日のように教室の外で呼び込みをしていた俺に、そっとクマが耳打ちをしていった。


 「慎、今のままだと、ヤンクミとのデートの権利、他の奴に取られるぜ。
 売り上げの計算は、客を最後に送り出した奴に点けるってことになってるみてぇだから・・・。」

 「はぁ?なんだよそれ、いったい何の話だ?」

 「この前野田がヤンクミに約束させたろ!?クラス売り上げ1位を獲得できたら、ホストで売り上げNo.1の奴とデートするって・・・。
 だから、みんな必死なんじゃねぇか。野田なんて凄くリキ入ってるぜ。慎はいいのかよ?」

 「いいのかよって・・・。おい、クマ、その約束させたのって何時だ?」

 「うーんと・・・文化祭の1日前じゃなかったか?そうだ、久しぶりに慎が遅刻した日だ。あん時の朝のHRの時だよ。」


 (野田の野郎・・・俺を出し抜くつもりか?南もウッチーも俺には内緒かよ。)

 そっちがそのつもりなら、俺も今からしっかり稼がせてもらう。

 ヤンクミとのデート権なら、少々無理してもいただかねぇ訳にはいかねぇだろ。

 

 それからの俺は、かなり強引かと思われる方法で頑張った。

 自分でリアクションせずともヤンクミとのデートが転がり込んでくるのだ。

 どんな手を使ってでも手に入れるべきものだろう?

 それは他のライバル達でも同じだろうけれど・・・。

 そして無事文化祭は終わった。

 

 

 土・日曜日を使った文化祭だから、当然振り替え休日も発生する。

 だが、白金のシステムは変則的で今年は火・水曜日が代休日となっていた。

 

 

 

 月曜日の朝。


 待ちきれないといった風で早々と教室に集まった俺たちは、

会計を担当していた明智と織田の登校をじりじりした気分で待っていた。


 「遅せぇぞ!」

 「で、昨日の結果はどうだったんだよ。」

 「ホストNo.1は誰になった?」


 ようやっと現れた二人に待ったなしで質問を浴びせているのは、内山と南、そして野田。

 その他、ホストをやった奴らは、成績が気になって仕方がない様子だ。

 俺も当然そのうちの一人なのだが・・・あくまで冷静を装って、自分の席で気のない素振りで返事を待つ。


 「それが、あの・・・昨日、終了時間ギリギリまで客を入れてただろ?
 だから、集計する前にヤンクミに金を渡しちまってさ。んで、その時一緒にその・・・個人成績を記録したノートも、
 間違えて渡しちまって・・・。ごめん。だから、ヤンクミ来ないとなんも分かんないんだわ。」

 結局朝のHRにヤンクミが現れるのを待つしかなかった。

 

 

 「みんなー、おっはよー!」


 そんなヤンクミの上機嫌な声を受けて、3Dメンバーは自分達の目的が達成されたことを知った。

 「お前ら、やったぞ!文化祭の模擬店部門、売り上げNo.1は我々3Dに決定だ。みんなご苦労さん。
 まさか本当に教頭の鼻を明かしてやれるとは思ってなかったから、もう、今朝の気分は最っ高だよ、ありがとう。」

 そう報告しながら一人一人に握手を求めて回るヤンクミの満開の笑顔は、

 俺たちをも笑顔にしたけれど、気になるのは個人の売り上げの方で・・・。

 誰がヤンクミとのデートをゲットできたのか、それが気になって仕方が無い。


 「なあ、ヤンクミ、昨日売上金と一緒に渡したノートなんだけど・・・今どこにあんの?」

 「あぁ、あれか?あの個人別に売り上げ金の書いてあるやつ・・・ここにあるけど?」

 「あー、それそれ、返してくれよ。集計するんだからよ。」

 「集計なら私がしといてやったぞ。ちゃんと個人別に集計して、トータルの売り上げも計算しといたからな。
 しかしこれだけ細かくよくチェックしたもんだな、明智も織田も数学もこれくらい頑張ってくれれば・・・。」

 「いいから、かせよ。」


 ヤンクミの言葉なんかまるで無視して、野田がノートを取り上げる。

 そして、結果は・・・。


 「なぁ、この間のデートの約束のことだけど・・・費用は私持ちっていうやつ。あれってさ、私が一番だった場合ってどうなるんだ?」


 能天気なヤンクミのセリフに、全員がその場に固まった。

 そんなことはまるで想定していなかったから・・・。

 だが、この3日間のヤンクミの人気ぶりは誰もが認めるものだったのだ。


 

 「すげぇ、売り上げの三分の一はヤンクミじゃん。残りは・・・野田と、慎が同じくらいか・・。

 南とウッチーもいい線いってるぜ。で、その他大勢って感じだな・・・。」

 「やったー。やっぱ俺が一番じゃん。ヤンクミとのデート、ゲットだー!」

 野田が拳を作って差し上げながら、飛び上がらんばかりに喜んでいる。


 (野田のヤロウ、俺に内緒にしてやがったくせに、ヤンクミとデートなんて絶対ぇ認めねぇ。)


 「野田、お前肝心なこと忘れてるぞ。一番はお前じゃなくてヤンクミだ。だから、デートもなし。OK?」

 「そうだ、そうだ。ヤンクミとの約束は売り上げが一番の奴とデートするってことだったんだもんな。
 ヤンクミ一人でデートなんて意味ねぇし。この約束はなかったってことで・・・。みんなもそれでいいよな。なぁ!」


 「「「「もっちろんさー!」」」」

 内山の声に揃って答えるクラスメイトたち。


 「えーーー、そんなのありかよー。俺、あんなに頑張ったのにぃーー!」

 野田の悲痛な叫びも誰も聞いてはいない。


 (抜け駆けしようとするからだ、この落し前はきっちりつけさせてもらうからな。)

 がっくりと頭を垂れ、椅子に座り込む野田を睨みつける俺の前にふと影が射す。

 見上げれば、ヤンクミがさっきのノートを見ながら野田の隣に立ったのだった。


 「野田、今回は実行委員ご苦労さん。それに売り上げも、私の次だけど凄いじゃないか。・・・だから、ご褒美だ。」

 そう言って屈みこみ・・・『チュッ・・vv』

 頬に彼女からのキスをもらった野田は、立ち上がると満面の笑みでヤンクミを抱きしめている。


 「ヤンクミ、サンキュー!俺、頑張ったもんな。んじゃ、俺からもご褒美だ。」


 言うが早いか、ヤンクミにキスしようとする。

 狙っているのはその柔らかそうな・・・唇か?


 周りのみんなが唖然とする中。

 

 「痛えぇぇ・・・!」

 

 ヤンクミに耳をこれでもかというくらい左右に引っ張られて、野田が悲鳴を上げる。

 次の瞬間には内山と南が両腕をとり・・・そして、俺の拳が鳩尾に決まった。


 そこへヤンクミの決めの一言。

 「バカヤロウ!私にキスしようだなんて、100年早いんだよっ!」

 言うが早いか教室を出て行く。

 顔が紅く染まっているように見えたのは、気のせいだろうか?

 

 

 そんなヤンクミを見送っていた俺たちに、何処からともなく聞こえてきたセリフ。


 「100年早いってさ・・・。」

 「やっぱあいつ、いい女だし・・・。」

 「ヤンクミってさ、やっぱ手強いよな・・・。」

 「ライバル多すぎっつうの・・・。」

 「っつか、お前もかよ・・・。」

 

  俺と内山、南とで顔を見合わせて頷きあう。

 「野田、今回はちょっとやりすぎたみてぇだな。」

 「抜け駆けしようだなんて、姑息なこと考えてんじゃねえよ。」

 「それより、ライバル増やしてどうすんだよ!!」


 「「「お前のせいだからな!」」」

 俺たち三人に責められ、野田は肩を落として、小さくなった。

 この後、野田に対してどんな報復がなされたのかは内緒の話だ。

 

 

 

 こうして今回、野田のヤンクミ捕獲(?)作戦は、ライバルを山のように作るという最悪の結末付きで終焉を迎えた。

 それに野田は、ただ一人、彼女からのご褒美のキスを貰って、実行委員を買って出ただけの価値はあっただろう。

 でも・・・。

 「ヤーンクミvvv あれ?居ないのか・・・じゃ、また来よ・・。」

 ほらまた、ヤンクミの引力に引き寄せられ、捕獲された奴が一人・・・3Dに波紋を残していった。

 

 こうして俺たちのライバルは日毎に増えていく。

 それと共に、俺の眠れない夜も・・・。

 

 

 END

 

 ◆有希の心の支え、師匠!いえ神様!夢百合様から慎視点の久美子総受けssですー!!

 ◎夢百合様からのコメント

 これを読んでくれた皆様、最初に謝ります。ごめんなさいです。(土下座)
 特にかっこいい、男前の慎ちゃんが大好きな方は、お怒りで肩をフルフルと
 震わせておられることと思われ・・・・。
 書いてるうちから逃げたくなったのですけど、企画第一回目から逃亡したら
 もう此処には来られないぞと、そればかり考えて書き上げました。
 
 久美子姐さんは最高に可愛くって、みんなのマドンナ(?)みたいな
 そんな感じを目指してみました。
 総受けを書くのは私にはまだ無理でした。
 脱兎!!
 
 ◎有希乱入長コメント
 
 久美子総受け万歳ーーー!!>< こんちくしょう・・エグエグ(嬉泣)
 久美子姐さんが皆から愛されている姿を拝むのが最高に好物・・いえ好きな私v
 もう心臓が潰れそうなくらいに嬉しくて、読み終えた時はガッツポーズでしたよ!! し・か・もv 
 慎ちゃん視点というのが美味し過ぎる展開!2度も美味しいとはこのことを言うのでしょう(キッパリ)
 3Dがホスト・・・スーツ姿・・・・有希っち飛んで飲みに行きます!!!お代はナンボじゃ?(決意)
 チャイナ姿の美しすぎる久美子姐さん・・・スリスリスリットがーー!!ブッ(鼻血)
 髪の毛を結ったのがうっちーなのかぁ〜羨ましいゼェ(ズピッ)殴。
 ・・それにしてもぉv野田っちてば、今回の企画は美味しい役ばかりの展開ーー!!
 この企画を大喜びしているのは、何気に野田クミ好きさんだったりして(笑)
 でもね、久美子総受けの中にある、慎クミへの愛が伝わるところなんかは私的に大感動でした><
 
 
 有希の心の支え、大好きな夢ちゃんへv
 
 夢ちゃーん(抱きっ)創作本当にお疲れさまでした〜〜!!
 大難産の中でやっっと生まれた久美子総受けss!!有希っち、こんなにも嬉し&感動な事はありませんっ><
 この世に生をうけた子供の立会いをしたかのように、また一つ素敵な小説が生まれたことに
 そしてpurelyの初企画という場でお披露目させて頂き・・エグエグ、本当に有難う〜〜!!!
 皆さんと企画話しがチャット中に持ち上がって、ココまでくるのに月日が経つのはあっという間でしたねv
 凹んだり、泣いたり、笑ったり、暴走したり、そんな有希をいつもいつも優しく支えてくれて有難うです〜!!
 まるで、女房を優しく支えてくれる旦那様のよう・・ふへへ。それは夢ちゃん、貴女です(勝手に)
 これからも末永く宜しくお願いしますです(チュ)・・・・あっ!夢ちゃんから頂いたプレゼントは有希の宝物ですv
 アレがあるからこれからも創作もサイト運営も、へっちゃらサー!(エッヘン)
 
 
 
 
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