夕暮れのほんの少しの一時を、サクラと彼女と過ごす日々も確実に流れ、

   「卒業」とういう節目は刻々と近付いていく。

   一人静かに心を覗けば、早いようで、長い月日の痕が・・

   くっきりと残されているようだった。

      

   ・・そう・・

   コレは心の中にある、月日の痕。

 

 

    心次第・U

    

   

   確かあれは・・

   秋の風が冷たく感じるようになった頃のこと。

   いつものようにサクラとじゃれながら、夕暮れのほんの一時を過ごしていた。

   サクラを通じて知り合った2人の小学生女の子達も、学校帰りにココへと立ち寄り会いに来る事がある。

   皆に囲まれ可愛がられ・・愛されるサクラ。

   まるで彼女のようだと重ねて見たことも、あの頃少なくはない。

   けど、彼女は何処にいても教師な訳で、空がオレンジ色になる頃には彼女達に帰宅を優しく進める。

   そんな彼女の何気ない仕草も行動も、笑って見るのが好きだった。

   
   今日は久しぶりにその無邪気な彼女達の笑顔があったからか、夕暮れの風がいつも以上に穏やかに感じる。

   俺は以前から彼女に・・いや担任の彼女だからこそ

   話を持ちかけようと決めていたことを、今日こそはと単刀直入に切り出した。
 

   内 「進路のことだけど・・」

   ヤ 「・・?」

   内 「俺・・・・就職希望。大工になりてぇ」

   ヤ 「・・・・・。」

   内 「・・・・・。」

   ヤ 「・・・・・そうか」

   内 「か、勘違いすんなよ!!別に家のこととか、母ちゃんのことで決めた訳じゃねぇぞ!」

   ヤ 「何も言ってねぇじゃん」

   内 「なっ・・ならいいケド」

    
   言葉に詰まった俺に小さく笑い立ち上がると、夕焼けに向かって大きく一つ背伸びをする。

   解かれた長い髪の毛がオレンジ色に染まり、そのしなやかな後姿に眩しくて思わず目を細めた。

    
   
   ヤ 「お前は、あの時みたに投げやりで物事を決めたりしねぇって知ってるよ」
     
   
   吹く風のようにサラリ言われた言葉・・

   クシャリと己の髪の毛を掻き毟る指先に力がこもった。
    
   
   
   初めてやってみたい事が出来た。・・やりたいと感じた。

   母親の為が一つも入っていないと言えば嘘になるかもしれないが、本当にやってみたいと思ったんだ。

   周りからすれば哀れみを買うそんな進路かもしれないが、彼女にだけはどうしても分かって欲しかった・・。

   だからその言葉を、背を向けて言ってくれて心底良かったと・・・・顔を埋めた膝の中で安堵した。


   ヤ 「・・大工かぁ」

   内 「おう」

   ヤ 「まっ、お前なら頑張れんだろ」

   内 「・・チェ。他人事だと思いやがって」

   ヤ 「へへへ。でもさぁ・・・」

   内 「?」

   ヤ 「皆、自分の道へと進んで行くんだよなぁ・・」

   内 「ずっと・・3Dやってるわけにいかねぇじゃん」

   ヤ 「あはは、そりゃそうだ^^ お前も何処かへ行くのかぁ?サクラ〜〜??」

    
   「よしよし」と今日も3Dで連発するようにやっていた彼女の癖を、犬レベルなのかと苦笑させられたが

   夕日に染まった彼女の笑う横顔は、切ないほどに哀しい色をしていた。
  

   皆が何かを抱え、これからの未来に彷徨い、悩み、イライラして・・・・

   
   ・・・ただ上手く生きれなくて・・・

   
   それがいつの間にか3Dという形あるモノになっていたのかもしれない。

   本当は彼女のように何かを答えてくれる、そんな温もりをずっと皆が探していた。。。。

    
   ―俺も。

   ―そしてそれは彼女自身も。

    
   
   その日、俺は初めて彼女の心の中を見たような気がした。

   直ぐ傍にある、哀しく笑う涙色した小さな背中を抱きしめてやりたいとも思ったが・・

   心の中にある月日の痕がそうはさせなかった。

  
   だから卒業後を思う寂しさだけでも・・と思っていた甘い考えは、

   また打ち明けられない想いとして、心の隅に置き直した。

    
   

   その日、暮れ風が優しく冷たく吹き抜ける中、 

   彼女は最後に付け加えるようにして、俺の心にまた一言言葉を深く植え付けた。

   「お前らしく生きていけばいいから」・・・と。

   尚もサラリと言われた彼女の言葉に、胸は痛いほどに響いたけど

   そんな時も冗談や馬鹿ばかり言って、俺もまたサラリと風と共に笑い飛ばしたけど・・さ。
    

    
   

   彼女の必死の努力と、俺の必死な想いは通じ・・・・・・・その数ヵ月後。

   菱山工務店という職場に俺の内定が決まることになる。

   誰よりも喜んでくれたのは、担任の彼女と大事な仲間達と・・そして母親だった。

   物を与えられるよりも、その事が俺には最高の祝いのようにも感じ・・

   学生服を脱ぐその日が間近になったことを、改めてまた感じた瞬間でもあったのだった。

 

 

 

 

 

   あれは2月に入ってすぐの頃・・毎年必ずやってくるバレンタインデー。

   今年もまた3Dにとっては一大イベントだと言うかのように色めき立ち、

   高校生活最後の最大な行事だと無理やり名目付けては、

   間近に迫ったその決戦の日の為に合コンの回数が増えだした時期でもある。

   
   
   ・・・サクラが、サクラが居ない!!

   
   久しぶりに顔を出した合コンの真っ最中に鳴り響いた携帯電話の向こうから聞こえてきた声は、

   今までにない彼女の悲痛な叫び声。 身体は考える事無く立ち上がっていた。

   
   内 「悪ィ!俺帰るわ!・・・あ、コレ返すっ!」

   
   カシャン!と、テーブルに響いた音の正体は伊達眼鏡。

   唖然とする普段はありえない奇妙な身なりをした面々を残し、俺は慌ててその場を後にした。

   無意識に置いたソレはその場の空気を台無しにするには十分だったようで・・・・

   後を盛り上げるには並並ならぬ努力と苦労があった事実を、俺は後日嫌味なほど聞かされるハメになる。

 

  

   内 「・・・ハァハァ。馬鹿!アイツが勝手に遠くへ行くことなんかねぇよ!」

   ヤ 「だって・・今まで一度もそんなこと無かったのに・・っ」

   内 「ホラ!探すぞ!?」

   ヤ 「探すって・・何処探せば・・いいんだよぉ・・」

   内 「んなのテキトーでいいんだよっ!アイツが行きそうな場所、片っ端からあたんだよ!」

   ヤ 「で、でも・・見つからなかったら?・・どうしよう、内山!!」

   
   混乱する彼女に歩み寄り、両肩に手を添え一つ大きく深呼吸する。

   指先からは不安と緊張が入り混じった熱が漏れるけど、何とか冷静さを保って、彼女の心に響くように一言。

  
   内 「大丈夫。俺が保障するから」

  
   
   あの時、何故そんな言葉が冷静に零れたのか・・・正直「保障」なんて出来るはずがなかった。

   第一彼女が取り乱していなかったら、逆に自分が一番に取り乱し混乱ていただろう。

   俺を冷静にさせたのは、あまりにも哀しげで不安一杯な顔色をさせる目の前の彼女を見ていられないという・・

   ・・・そんな心の弱い自分がさせたモノ。

   ただいつも、一人誰にも頼らないで、気付かれないようにして、卒業を寂しく笑う背中を・・・

   これ以上小さくさせたくなかった。・・・ただそれだけ。


   

   

   2人必死で探し回たけど、サクラの姿は見つからなくて・・・

   こんな場には何かのお決まりのように降り出した残酷な雨のために、

   俺達は一度アパートに戻る事にした。

   
   ―クゥン。

   
   サクラとの初めての出会いを思い出させるその弱い泣き声に無意識に傘を放り投げた。

   アパートの階段の下、震えるように座っていたサクラの姿。

   身体全身の力が抜けて、走り寄ったサクラの前で崩れるようにして二人その場でしゃがみ込んだ。

   
   ―あぁ・・そうか。

   頭を抱えた。

   
   サクラは自分の居場所がココなのだと初めから知っていたのだ。

   ・・・雨が降る、こんな日は尚更に。

   
   俺達がサクラをちゃんと見ていなかっただけなのかもしれない。

   心の拠り所とし、全ての逃げ場としてサクラを利用していただけなのかもしれない。

   そう思うと苦しくて、心が痛くて・・・

   雨に打たれて震えるサクラを、きつく抱きしめてやるほか何も出来なかった。

   
   そんな中、降り注ぐ冬の冷たい雨が、二人の涙を綺麗に流してくれているようだった・・。

 
   
  

   サクラの傍で傘を差しながら立っている女性に気付くまで、暫しの時間が必要だった。

   その存在を認めて慌てて立ち上がり、手の項で目元を拭う。

  
  

   内 「あ・・・コイツ俺の犬で・・」

   大家 「何してたの!?駄目じゃないこんな所にほっといたらっ!!」

   内 「すみま・・」

   大家 「ずっとココに座って離れなかったのよ!エサをあげても全然口にしないし・・可哀想じゃないの!」

   内 「は?」

   大家 「あそこ・・。ホラ、アパートの敷地内の隅っこだけど・・・・・あなた責任持てる?」

   
   目の前の大家が言っていることの意味を理解するまでに、これまた暫しの時間を要する。

   最初は険悪な顔色を覗かせていた大家が、傘の中で静かに微笑んだ。
   

   内 「ぜ、絶対責任を持って面倒見ます!絶対に迷惑はかけませんから・・だから」

   ヤ 「あ、あたしからもお願いします!コイツ口は悪いし見かけはこんなナリしてますけど、言ったことは必ず責任持つヤツなんです!」

     「「お願いします!!」」

   
   大家 「住民の皆さんに絶対に迷惑なんてかけることのないようにして下さいね」

   内 「それじゃ・・」

   
   大家 「言った事は責任持って下さいよ。春彦君」

   ――あ。

   内 「・・・・・・・・ありがとうございます」

   大家 「何言ってんだい!あたしに敬語なんていつ覚えたんだい^^」

   
   ・・そう。この人は・・・

   一人外で母親の帰りを待っていた幼少時代の俺に、喋り相手になってくれたり

   おやつを与えては寂しさを開放してくれるなどした、とてもよく知ったおばちゃんなのだ。

   いつの頃からか余所余所しくなり・・・

   また外見で決め付ける人間がココにも居るとばかり勝手に思い込み、自己嫌悪になっていた。

   大人から向けられる全ての瞳を拒絶する事・・

   その方法こそが、あの時の俺の唯一の逃げ場だったから。

  
   ・・でも今は・・

   チラリと横目で見れば、サクラをきつく抱きしめて、泣き笑いに花を咲かす彼女。

   
  
   内 「・・・・・・・・・。」

 

   人間の心というものは本当に分らない。

   コントロール出来る技を神様は与えたのではなかったのか?

   
   何故か知った自分の歯痒い心と、その事実に泣きたくなるような日のことだった。

 

 

   

 

 

   ヤ 「お前に初仕事を与えるv」
  

   残るは卒業式だけとなった・・・そんな日。

   まさか彼女がアパートを訪ねて来るとは思わなかった。

   母親に叩き起こされ玄関の扉を開けると、そこに立っていたのは怖いほどに期待に瞳を輝かせた彼女の満面の笑み・・・

   「お疲れ」と一言軽く言ってから 開いたドアを無意識に閉め直した。

   ・・・勿論、阻止されたが。
   
   そして彼女の大ファンでもある母親からは、背中をありえないほどの力で押され、

   休みの日の朝の光が眩しい外の世界へと、俺は引きずり出された。   
   

   内 「・・ハッ?」

   ヤ 「じゃーん」

   
   彼女が指差したのは、アパート敷地内のサクラの今の住処でもある小さなスペース。

   そこに何処から集めてきたのか、材木やペンキや工具一式が山積みのようにして置かれている。

  
   内 「何コレ?」

   ヤ 「家で使っていないものを貰って来てやったぞ」

   内 「運ばせた・・の間違いだろ?」

   ヤ 「ま、まぁそんな事はどうでもいいんだよ!ホラ!サクラの小屋作るぞー!お前の記念すべき大工初仕事だv」

   内 「・・・・・・・・。」

  
   ・・・この女にはホント敵わない。

   

   ヤ 「ん?」

   内 「日当でるワケ?」

   ヤ 「見習いに払う金はねぇな」

   内 「タダ働きかよ」

   ヤ 「恩師に何を言うか」

   内 「まだ恩師じゃねぇじゃん」

   ヤ 「あ!・・まだ少し早ぇな♪」

   内 「早ぇよ」

   ヤ 「お?何か怒ってんのか?」

   内 「うっせ!」
   

   ケラケラ笑い飛ばす彼女に、ツンとした俺だったけど・・・・・

   その脳天気丸出しな相変らずの無邪気な笑みに、自分もまたつられて一緒にただ笑った。

   いや、不器用な俺には笑う事しか出来なかっただけかもしれない。

   

  

   日が傾き空がオレンジ色に染まり始めた頃に、ソレは出来上がった。

   俺の記念すべき初仕事がサクラの家作りというのも、考え方によっては本望なのかもしれない。

   単純な事にも、出来上がった頃にはそんな風な考えになっていた自分。

   上出来とは言えない、その小さな小さな家の前にしゃがみ込み

   喜ぶサクラを二人黙って見つめる中、自分自身に苦笑した。
   

   
   内 「終わったなー」

   ヤ 「おう♪」

   内 「・・・。」

   ヤ 「・・・。」

   内 「し、しっかしさ〜あの3Dが卒業なんて、信じらんねぇよなぁ」

   ヤ 「全てあたしのお蔭だな〜♪」  

   内 「・・・お前なぁ。そういうこと自分で言うなよ」

   ヤ 「これから何度でも言い続けてやるから、覚悟しとけよなv」

   内 「へ〜これからねぇ・・」

   ヤ 「おー。これからずっとなー・・」

   内 「ふーん」

   ヤ 「・・・・・。」  

   内 「・・・・・。」

   
   会話がいつものように続かない。

   彼女は必死で何か言葉を探しているようだった。

   そしてそれは俺も同じこと。

   らしくない・・

   今日の担任と、一生徒。

   

   内 「なー」

   ヤ 「んー?」

   内 「サクラの散歩行かね?」

   ヤ 「えっ?」

   内 「・・・・。」

   ヤ 「・・・・行く」

 

   彼女が買ってきたサクラの新しい桃色の首輪と、散歩用の桃色の綱。

   親バカの気持が今なら痛いほどに理解出来るかの様に、サクラにはそれがとても似合っていると感じた。

   
   内 (卒業か・・。)

   
   少し前を歩く彼女の背中を見つめながら、一度瞳を閉じてみた。

   

   心の中にある月日の痕が、この夕焼けの鮮やかな色のように鮮明に蘇る・・。

   神様から授かったその技で、いつか「あの日の哀しみに感謝」などとする時がくるのだろうか。
   
   今日見上げた夕暮れの空の溢れる輝きや想いを・・そんな風に感じ

   思い出となるような日が、いつの日かくるのだろうか。

   

   瞳をゆっくり開けると・・・

   不思議な瞳をしたサクラの視線がぶつかり、小さく笑って見せ・・そして少し前を歩く彼女の横に並んだ。

   尻尾をふらつかせてはチョコチョコと歩くサクラの後を、二人のゆっくりとした足取りが追いかける。

   静かに流れる雲を時折り見上げては、沈黙になる度言葉を捜す頭の片隅で、

   何故からしくない事をばかり考えてしまう俺。

   
   ヤ 「内山ー」

   内 「んー?」
   
   ヤ 「この空みたいに染まるなよな」

   
   隣で同じように流れる雲を見上げながら歩く彼女からの、

   今にも夕闇の中へと消え入りそうな言葉に一瞬驚いた。

   
   内 「心配ねぇよ」

   
   ・・本当は・・

   
   今はまだ思い出にしたくない・・

   何故なら、傷つくことが出来ない、そんな自分がいるから。

   そう。本当はこれが、俺の心の中の答えなのかもしれない。

   でも彼女からの、その言葉を受けて深く思った事。

   背伸びばかりする俺を、風に吹かれて優しく笑い飛ばすに違いないけど・・・

   どんなに街や人や・・・そう、世界が変わっても

   彼女にだけは今日の俺に戻って・・会いたい

   
   内 「あのさ〜」

   ヤ 「んー?」

   内 「今まで一度も言ったことねぇから言うけどさ〜」

   ヤ 「うん?」

   内 「俺、お前のこと好きだよ」

   
   何かの聞き間違いか?

   そんな風にして彼女の足取りが止まり、俺を物珍しいモノでも見るかのような瞳を向ける。

   
   ヤ 「ふぇ?」

   内 「サクラと一緒ぐらい」

   ヤ 「・・・・・。」

   内 「・・・・・。」

   ヤ 「あたしはサクラと一緒かよ?」

   内 「俺にとっては最大級な褒め言葉だけど」

   ヤ 「ほ〜う。そりゃあ、有難いことで」

   内 「でもいつか・・・いつか俺が偉くなってさ、自分の家なんて建てれれるような、そんな日が来たら・・
      コイツが走り回れるような庭も作ってサ・・・したら、そん時は・・」

   ヤ 「うん?」

   内 「ヤンクミも住ましてやるよー♪」

   ヤ 「ハァ? お前なぁ〜ソレじゃあプロポーズみたいだろうが?」

   内 「あ・・!・・・そうか」

   ヤ 「そうだよ」

   内 「まぁ、いいじゃん」

   ヤ 「ふっ(笑)まぁ、いいか」

   内 「いいのかよ!?」

   ヤ 「考えててやるよ」

   内 「は?」

   ヤ 「・・・・何だよ?」

   内 「・・・・・・。」

   ヤ 「・・・・・・。」

   内 「ソッチこそ・・」

   ヤ 「ん?」

   内 「今のその言葉忘れんなよ」

   
   先を急ごうとするサクラが、綱を小さな身体で必死に引っ張っている。

   そんなサクラに、「悪ィ悪ィ」と小さく謝っては、また歩き出す彼女。

   今日の夕日がいつも以上に目に沁みるのは・・・・・

   眩しさだけのせいじゃないようだ。

   
   内 「卒業式泣くなよ」

   ヤ 「ダ〜レが泣くか」

   内 「お前が泣いたら、俺マジ泣けるから」

   ヤ 「お?」

   内 「な、なんだよ?」

   ヤ 「お前でもそんなこと言うのな?」

   内 「うっせぇ!前見て歩け!前!」

   
   「怖い人でちゅねーv」と何故か赤ちゃん言葉でサクラに話しかける彼女。

   呆れ笑いにほど近いモノが俺から零れたが、俺の心は今日は至って穏やかだ。

   ―考えててやるよ・・・か。

   彼女からの思わぬ言葉を心で呟いて、小さな幸せの吐息が零れた。

 

   

   辿り着いた先は、サクラの前の住処。

   俺達の月日の痕が残っている場所・・原点。

   サクラは此処が落ち着くのか、慣れた木の下の自分の特等席に腰を下ろした。

   それに任せるように俺達もその場に腰を下ろし、いつもと変わらぬココから見える沈む夕日を只静かに眺める。

 
   内 「人間の心ってさ・・・わかんねぇよな」

   ヤ 「ん?」

   内 「ホントわかんねぇ」

   ヤ 「・・・・・・。」

   内 「・・・・・・。」

   ヤ 「お前もたまには難しい事考えるんだな?」

   内 「うっせ」

   ヤ 「でもサ・・確かに分からないけど・・」

   内 「?」

   ヤ 「心に逆らって生きていくのは・・めんどくせぇじゃん」

   内 「そういう問題かよ」

   ヤ 「そういう問題だろ。人間素直に心任せに・・・・心次第♪」
 

   ―――心次第。
  

   内 「今の言葉・・」

   ヤ 「ん?」

   内 「いつか後悔するような時がきても・・責任取らねぇからな」

   ヤ 「・・後悔なんてするかよ」

   内 「お前さ・・何でいつもそうやって言い切れる訳?」

   ヤ 「だって、あたしはいつも心次第だから。・・・今のこの時間も心次第に生きてるからナ」

   

   今は届かなくてもいいんだ。

   そんな二人でもいい。

   今はただ・・

   彼女求める、自分の想いを愛してやりたいから。

   

   内 「俺・・仕事頑張るから」

   ヤ 「おうv・・・・・・・・会いに行くからなー♪」

   内 「・・・」

   ヤ 「サクラに」

   内 「サクラかよ」

   ヤ 「一緒のことだろーv」

   内 「まぁ・・楽しみにしてマス」

   ヤ 「それで宜しい」

   内 「チェ、先公ぶりやがって」

   ヤ 「へへへ」

   内 「・・・・。」

   ヤ 「あたしは幸せだよ」

   内 「は?」

  
   ヤ 「こんなにも哀しいのに、この夕焼けが綺麗に見えるからサ」

  
   内 「・・・・。」

   ヤ 「・・・・。」

   内 「・・・・・意味分んね」

   

   俺とサクラと彼女が過ごした、ほんの少しの夕暮れの一時を・・

   いつか不と思い出してくれる位でいいから・・今は噛み締めたいんだ。

   今の彼女との二人の時間を。

   

   変わらぬ景色に涙が出そうになるような、そんな未来を楽しみにしよう。

   その時初めて、今日彼女が言った「幸せ」の意味も解るだろう。 

   ・・・そう、誰よりも輝いた明日を掴むためにも。

  

   内 「ヤンクミー」

   ヤ 「んー?」

   
   今は傷つく事ができない臆病な自分がいるのも事実。

   でも今は・・・

   ただ叶えられない夢を見て眠ることが出来る、今のそんな自分が・・

   ・・・・幸せだから。

   

   ――諦めに似た笑みが一つ夕闇の中へと消える。

   
   卒業を迎えても、心のおもむくままに・・・

   彼女を好きな俺であり続けたいと思う。

   
   
   内 「よろしくなぁ」

   ヤ 「何が?」

   内 「これからもずっとサ」 

   ヤ 「・・・・・。」

   内 「・・・・・。」

   ヤ 「・・・・・・・・ヒック」

   

   俺の言葉に彼女は泣いたけど・・

   俺は落ち着いて彼女の涙を見ることが出来たと思う。

   それに本当はその言葉は、自分に言い聞かす為に出たモノだったのかもしれないから。

   彼女を想う心を誤魔化して生きるのは止めようという、終止符。

   
   ・・だけど・・

   彼女にとっては本当は、どうしようもなく欲しくて欲しくてたまらなかった・・

   生徒からのその一言。

   誰もその言葉に気付いてやれなかったんだ。

   「ありがとう」よりも、「これからもよろしく」

   簡単で、最も難しい言葉。

   彼女に特別を感じた生徒なら、それは尚更に。

  

   乾いていた心には染みるには十分な訳で・・

   やがてそれは涙となる。

 

   夕闇の中に二人重なった影。

   

   初めて触れた彼女温もりは、卒業を明後日に控えた・・夕闇の中。

   震えた肩をゆっくりと引き寄せ抱きしめると、初めて触れるその温もりは

   只、静かに一生徒の胸で泣き続けた。

 

   その黙って抱きしめた腕の中に仕舞った・・

   溢れんばかりの気持や想いを、コントロールするのはやめよう。

   己の心に全て任せてやろう・・

   心の向くままに・・

   

   

   

 

 

   内 「サクラ〜今日あたりアイツ来るかなぁ?」

   
   そして俺の新しい生活が始まった。

   今日も俺の帰りを待つ可愛い奴が、小さな小さな家の前で俺を出迎えてくれた。

   
   夕闇に誓った生き方を、俺は迷わず今進んでいる。

   正しいのか、間違っているのか・・

   その答えが解けるのは、馬鹿な俺の頭ではいつの事になるか見当もつかないけど・・

   心に逆らって生きていくのは・・・・・そう彼女が言ったように・・

  
    ――めんどくせぇじゃん?

   
  
   

   内 「サクラ、俺お前好きだよ。でもサ・・」

   ――クゥン。

   内 「悪ィけど2番目な」
  

   

   自分の心に正直に。

   そう、全ては心次第に・・・。

  

  

   END

 

 

   ◎管理人・有希からの長コメントと、最後の最後の挨拶。 ←閉鎖するみたいじゃんか(汗)

    
   
切ない〜〜〜っっ。と、自分で先にツッコミを入れますね(汗)
   祭りのトリがこんなにも切ないssで宜しいんでしょうかぁ・・シュン。←旬?(コラ、どさくに紛れて)
 

   読んで頂いたら分ると思いますが、今回は今更の3話を土台に置いて創作をしてみました。
   3話から卒業にかけてのお話しとなります・・・えぇ、そりゃあもう長々と今回も病気が出ましたよ。。え?悪い?←開き直り。
   テーマの「捕獲」はサクラの探すところと、「暴走」はウッチーの切ない心の葛藤と・・・いうことで?(聞くな)

   久々に書いた内クミの新作を競作企画という場でお披露目出来て、最高に幸せに思っています><
   
   え〜っと、子犬「サクラ」の名前の由来ですが…(以下省略)笑。←多分分るでしょう。
   
   そして・・えとえと。コレ気付いた人が居たら凄いんだけど…実はこの作品、
嵐の二宮君が夏コンで歌った「夢」を
   
私的にイメージして創作に活かした箇所が多々あります。日記にも以前から書いていたんですが、
   この曲でイメージssが書きたかったので、ソレをもココで一人勝手に夢を叶えさせて頂きました(自爆)
   まぁ、私的ですから分らないでしょうと思います・・はい。 でもイメージイメージと呪文のように繰り返し今回頑張りましたよ、マジで。(脳内)
   イ
メージssの勉強を兼ねた自己満足ということで流して頂けたら幸いです(汗)
    
   実は完璧にHAPPY ENDにしない内クミを書くのは、有希っち、初めての事なんですよね。←普段は無理やりですから。
   企画が弟2弾・3弾と開けそうな勢いでしたら、この続編を書いていくことは間違いと…
   …えぇ、まぁ、うん、このままでは済ませられないというか、はい、多分。(ォィ)
    
    
   ◎競作企画を通じて創作の楽しみや、ごくせんファン同士の交流・・そして何より一番は、今では少なくなってしまった
   皆々様のごくせん魂の熱が更に熱く上昇してくれることを祈ります。(永遠にv)
   そしてこの企画に参加して下さった方や、素敵サイトの管理人様に、本当に感謝の気持で一杯です。 
   心から有難うございましたm(__)m
    
   皆々様から温かい拍手と、メッセージを、企画に参加して下さった方々へ宜しくお願いしますvv
   (拍手ボタンはないですよ、気持気持)爆。

   てか、今日は珍しく真面目だなぁ、ココの管理人。(笑)

    
   ◎でわでわ、最後の最後にもう一言v

    
   「おつかれさま〜〜〜!!」    

    
   あぁ〜〜!!無事に終わって良かったぁぁぁぁ><
   正直怖かったですよーーーーー!!!
   もうもう!どうなるかと毎日毎日、不安で不安で、胸が押し潰されそうでした!!!><うわ〜〜ん!!(有希っち、本領発揮)
   こんちくしょーう!企画に万歳だぜぃ・・・エグエグ。 これだからGOKUSEN はやめられねぇぇぇーー!!

   ごくせんに万歳ー!! 感無量ーーー!!!

   ☆弟1回・久美子争奪戦 purely競作企画!! これにて無事終了!お開きですー!☆ 
   参加者様も、お客様も、少しでも楽しんで頂けたのならこの企画は大成功と言えるでしょう!(そう思いたい)←願望。
    
   最後までお付き合い本当に、心から有難うございましたっ。お題は私の愛でv m(__)mペコリ。

 


   
  
     
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