秘密

 





 
 ふと目に入った動くもの。

 それは、ドアの陰に隠れながら、こっそり手招きをするヤンクミの姿。




 
 ―ん?

 ―なんだ?

 ―俺?




 
 何となく自分を指さしジェスチャーで問うと、ソレに大きく答えるようにして

 うんうん、と頷く彼女。
 

 その顔は人差し指を唇につけ、シーっという 『秘密』を意味するおまけ付き。




 
 
 
 学食でいつものメンバーと昼食を済ませた俺は、

 みんなに何も悟られないように、そっと席を立った。


 

 「野田ぁ、トイレでも行くのかー?」
 
 


 すかさず声をかけてくる南に、背筋が一瞬ピンと伸びたが、


 「・・・あぁ、ちょっと。」
 
 

 冷静に短く返事をして、振り向かずそのまま歩き出した。


 
 

 胸の鼓動がどんどん早くなる。

 
 

 ヤンクミが・・・

 慎でもウッチーでもなく、

 俺だけを呼び出した。
 
 
 

 ・・・なんで?




 ヤンクミの退職騒動以来、俺はアイツから目が離せなくなっていた。

 ついつい、目がヤンクミを追ってしまう。

 隠し撮りした写真のコレクションもだいぶ増えてきた。
 
 

 そう、自覚した時は既に遅く・・


 出るのは溜息。

 頭を抱えた自分。
 
 


 ライバルはかなり多いけど・・・今のこの状況、

 もしかして、これって

 抜け駆けできるチャンス・・・・・・到来?





 

 「なんだよ。ヤンクミ」


 

 うるさいくらいにドキドキと鳴り響く心臓を、誤魔化すよう

 相手にぶっきらぼうに聞く。

 

 「シーッ・・・静かに!他の奴らに聞かれたら、恥ずかしいんだよっ。 とにかく、コッチコッチ」


 

 強引に腕を捕まれて連れて来られた場所は、屋上。

 くそ暑いせいか、幸いにも(?)そこには誰の姿もなかった。


 

 だからぁ、いったい何なんだよっ。いきなりっ。俺、みんなを待たせてるんですけど?」


 

 いまだ捕まれたままの左腕の重みが、

 ちょっと嬉しい。


 

 「まぁまぁ、落ち着けっ!・・・実はな、野田。おまえに折り入って頼みがあるんだ」


 

 「何、今度は何をやらかそうっての?」

 「みんなには内緒だぞ。二人だけの秘密だ」

 「秘密?」

 「そう、秘密」
 
 

 ・・・・秘密・・・・


 
 
 「・・・オッケー!・・・で?」

 

 秘密という言葉に、さらに胸の鼓動がうるさくなる。


 
 「・・・あのな、笑うなよ。私らしくないのは充分分かってるんだから。

 でも、おまえならこういう事、よく知ってそうだしおまえにしか頼めないんだよ!」
 
 
 

 訴えるように、必死な瞳で見上げられる。

 「あのサ・・・」

 「うん?」

 「話が全く見えないんですけど?」

 「あ・・・いや・・・、あの、つまり・・・ゆ、指輪を買うのに付き合って欲しいなと思って」

 「・・・は?・・・指輪?」

 

 よほど恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして、声がだんだん小さくなるヤンクミ。

 よくよく話を聞いてみると、静香ちゃんと川嶋との会話で

 
 
 『あんたさぁ、女なんだから、もう少しオシャレくらいしたらどうやの?』

 『そうですよ。アクセサリーなんてどうです?指輪とかネックレスとか』

 『いやぁ、でもあんたのセンスだったら、とんでもないことになりそうやわ』

 『それもそうですね。』

 『『あはははは・・・』』

 と、笑い飛ばされたらしい。

 ヤンクミの性格からして、こうまで言われちゃ黙ってられないと言うことだろう。

 

 ・・・単純。

 でもヤンクミらしいか。


 そんなトコロも可愛く思ってしまうのだから、俺って・・。
 

 

 静かな屋上に零れ落ちた溜息。
 

 

 「私、こういう事詳しくないし、野田ならそう言う可愛いお店、知ってると思ってさ。

 ・・・ちなみに、あまり高いのは買えないんだけど・・・」

 

 「給料日前だし?」

 「・・・はい」


 「ぷっ、あははは・・・。しょーがねぇなぁ。分かったよ。俺が何とかしてやるよ」

 「ほ、ほんとか?助かったぁ〜。・・・これで川嶋先生達に・・・ぶつぶつ」


 どんな理由にせよ、彼女が俺を頼ってくれている。

 

 その事実が嬉しくて、嬉しくて・・・

 思わず頬が緩む。


 

 「なんだよ、野田。笑うなって言ったじゃねーか。おまえなら・・・と信じていたのに・・・」


 頬をふくらますヤンクミ。

 可愛い〜と思いながら、あることを思いついた。
 

 
 「あのさ。じゃ今度、指輪買いに行くの付き合ってやるよ。 で、とりあえずは、これ。」

 

 最近買ったばかりの小指にはめたシルバーのリングを外す。

 

 「おまえにやるよ。・・・手出して」




 俺に言われるまま、何がなんだか分からない、と言う表情で

 その小さな右の掌を素直に差し出した彼女。

 

 右手かぁ・・・残念。

 でも、ま、いっか。

 

 ヤンクミの手を優しく取って「コッチ」と笑みを浮べながら、手の平を下にし

 外した指輪を、その細い指にはめる。

 

 

 選んだ指は薬指。




 
 「なぁ、ヤンクミ。結婚式みたいじゃね?」

 

 覗き込むようにして彼女に言うと、

 ボッと音が今にも聞こえてきそうな程に、彼女の顔が赤くなるのが分かった。

 

 

 「・・・ブカブカじゃん・・・」

 

 かろうじて、そう返すヤンクミ。


 

 「・・・いいのか?ホントにもらっても?」

 「いいんだよ。あげたかったんだから。・・・でも、大事にしろよな」

 「うん。・・・私、指輪もらったのって初めてなんだ。」

 「そりゃ、光栄だねー。」


 「大切にするよ!」
 

 彼女の満面の笑みと、透き通るような声と同時に

 耳に聞こえてきたのは、お昼休みの終わりを告げるチャイムの音。

 

 「うわ!やば・・・次3Dの授業じゃねーか!先行くけど、おまえもあまり遅れんなよ!」

 

 教師らしい台詞を残し、ヤンクミはバタバタと走って行く。

 
 「分かってるつーの!」

 

 彼女の背中に投げかけた言葉とは正反対に、

 慌しく走り去って行く彼女を、笑みを浮かべながら悠然と見送る。

 

 

 

 ・・・ん?

 



 
 屋上の出入り口のドアノブに手を伸ばした彼女が、不意に立ち止まる。


 

 「野田・・・あ、ありがとな!」




 

 

 ・・・何かと思えば・・・。

 やべぇ。

 


 

 一言付け加えた彼女は、俺の返事も待たずに、あっという間に走り去ってしまった。

 

 広い屋上に取り残された俺はと言えば、

 緩んだ口元を押さえてても、「ククククッ」と零れる幸せの笑み。
 


 つーか。


 
 俺・・・抜け駆けできたのかな?

 でも、あの指輪をはめたヤンクミを見て、ライバル達がどう反応するか・・

 

 すっげぇ楽しみ!

 

 

 頭に浮かんだライバル達の反応を悪戯な笑みで浮べながら

 ゆっくりと教室へと続く階段を下りていった。

 

 

 夏休み前の、俺とアイツのちょっとした秘密の時間。。。
 
 
 
 

 END
 
 

 ■ユウコ様から、野田クミssですーーvv

 ◎ユウコ様からのコメント

 初ノダクミ、やってしまいましたv
 有希ちゃんにアドバイスをもらい、何とか書き上げましたが
 はたして、野田クミ好きさんの御眼鏡に適うでしょうか・・・
 でも、私にとっての野田クミは一番「可愛い」カップルなので、書いててとても楽しかったです。
 ウッチー、ちょっとした浮気を許してねんv

 ◎有希乱入コメント

 か、か、可愛い…vv 野田クミ好きーサンv好きさんお待たせーーーっっ!!!!
 う、内クミしか書かない!てか書けないのか?(笑)で有名な、あ、あのユウコちゃんがっっ!!
 この企画の為に、初で野田クミを書いてくれましたよぉぉーvv(嬉泣)万歳!!><v

 キャー!野田っちってば可愛いくせに、やっぱ何処か強引で萌えだワv 
 わたくしヌケガケって響き大好きなの、ムフフv ←めちゃ好きそー。(笑)
 久美子姐さんも相川らず鈍いんだけど、真っ直ぐすぎて…んもう、可愛ぇぇー!!!!(叫)
 野田っちのハートは完璧に久美子姐さんのモノなのねぇぇーvv(鷲掴み?)素敵っっ><v
 「すっげぇ楽しみ!」…わ、私も、すっげぇ楽しみですーーーー!!!!!←殴
 ぎゃー!!後日談を是非ともお願いしたく…ユウコちゃま@@くすっv

 ユウコちゃんへv

 祝・野田クミ初書きーーーー!!!!!(万歳!)浮気大歓迎ですv←殴
 ユウコちゃ〜ん、野田クミ可愛い〜可愛すぎるよ〜〜ニヤニヤ。(頬緩みっぱなし)
 てかホントに初書き!?前々から野田クミを押してたように、説得力のある素敵ssです!
 アワワ、有希はほんの少し触っただけですよ^^;; てか、足手まといだったような・・;;
 いや〜でも人様の小説は何でこんなにも触ってても楽しいのでしょうか、うへへv
 コチラこそ素敵な時間を今回もまたまた有難うゴザイマシタv
 さすが癒しの姫と呼ばれるだけあって、今回の小説もたくさんの癒しを与えて頂きました><v
 そして昔から変わらない、そのユウコちゃんの存在にいつも救われていますv(蘇る美しき思い出)
 これからもどうか宜しくネv今回も当サイトの競作企画に参加して頂き本当に有難うゴザイマシタv

 

 

BACK?