バイトを終えて帰路につく。
太陽が沈みはじめて、橙色に染まる風景。
伸びる影・・・。
家のすぐ近くまで来て、ふと目をやれば、
ドアの前にアイツがいた。
夕焼けの頃、宣戦布告。
その時の光景が、何となく目に浮かんで思わず苦笑した。
つーか、ついてこなかったのが不思議だ。
アイツ等だって、俺の気持ちには気付いてるはずだし。
「慎たち・・」
「ん?沢田がどうしたってー?」
「不思議がってなかったか?」
「おー。おー。『何でだっ!?』って聞かれたぞ。 しっかし、どうしてあんな必死に聞いてきたのかな〜?」
疑問符を頭に並べているヤンクミを横目に、俺は心の中で深く溜め息をついた。
いくらなんでも鈍すぎだろ。
ヤンクミが必死さを感じているのだから、それはもう、あからさまな態度だったろうに。
鈍さもここまでくれば、賞賛モノだよな。
・・・・ある意味。
「慎やウッチーたちは一緒に来なかったのか?」
俺とヤンクミが二人きりになるのを、黙ってるとは思えない。
あいつ等が俺の事をよく知るように、俺もあの二人の事は何でも知っている。
考えも行動も、そして仲間だからといって容赦しないという、あの二人の性格も。
「おっ!?やっぱクロも会いたかったか?」
「・・・・・ハッ?」
「いや〜アイツ等は一緒に行くって言ってたんだけどさ。 もう、暗くなってきてたし、
今日のところは、あたし一人で来たんだ。 あんまり遅くなっちゃ、親御さんも心配するだろうから」
サラリと説明する彼女の嘘も偽りも混じっていないその言葉に、
言葉が上手く出ない俺は、眉を少し顰めた。
そんな俺に対し、彼女は何を勘違いしたのか・・・
『もっと時間があるときに、ゆっくり会いにくるよ。アイツ等。』 と。
俺がダチに会えない事を、残念がってるように思ったらしい・・・。
あの時の確執がなくなったのを感じ取ったらしい目の前の相手は、
いかにもソレに付け足すようにして、嬉しそうに、笑って言った。
あ〜〜〜。やっぱ鈍い。
そりゃ、会えないのは、残念と言えば残念だけど、
ヤンクミが関わってるなら、話は別。
好きなオンナと二人きりなら、それにこしたことはない。
それに、ヤンクミが思ったとおり、あのイザコザは解決して、
今は、アイツ等と連絡を取り合ってるし、偶に会うこともある。
だから、さっきの問いは、ダチとして残念だったワケではなく、
恋敵として疑問に思ったからなんだけど。
ソレを説明するとなると、俺は勿論、慎たちの想いまで伝えなくてはいけないので、
ヤンクミの考えを否定する事はせず、俺は曖昧に頷いた。
コーヒーでいいかと聞けば、
砂糖とミルク入れてもらえれば、と返ってきたので、
どの位入れるか、また聞いて。
俺はブラックで。
二人分のコーヒーを持って、ヤンクミの向かいに座って。
お互いに他愛ない事を話す。
最近あったこと。 自分の近況。
言葉を交わして思った事は、コイツにとって俺は『生徒』でしかないという事。
直接、勉強を教わっているワケではないけど、これから先も教わる事はないけど、
ヤンクミにとっては、俺は慎たちと一緒で、『一生徒。』
『男』
としてみてはいない。
・・・みてたら一人で、ヤンクミ曰く『遅い』時間に、此処に来るワケがない。
まあ、1〜2回しか会ってない俺を、こうやって気にかけてくれるのは嬉しいんだけど。
その想いの根底は、俺が望むモノとは違っていて。
ソレが少し切なかった。
・・・・・コーヒーがいつもより苦い・・・・・。
「?おーい、クロ?どうしたんだ?ぼーっとして。」
考えに耽っていた俺は、そんなヤンクミの声にハッとして、我にかえる。
「あ〜〜〜。何でもねぇよ。」
そう言って誤魔化してみるけど、まだヤンクミは不思議そうな顔をしていて。
慌てて話題を探す。
「っっ、そういやお前、見合いしたんだって?」
咄嗟に出た話題は、先日聞いた衝撃のニュース。
コイツと、どっかの学校のセンコウの見合いについて。
「んなっ!!何でお前が知ってんだよ!?その事!」
今にもコーヒーを噴出しそうなった口元をかろじて止めて、
途端に顔を真っ赤になったヤンクミは叫んだ。
「ん?この前、ウッチーに電話した時に聞いたんだよ。」
んでもって、少し凹んだ。
コレは言わないけど。
つーか、マジ焦ったし。
自分の気持ちを伝えてもないのに、他の男のモンになっちまうなんて・・・
・・・・冗談じゃねえ。
つっても、今、伝えてもフられそうな気がする。
『生徒』という位置にいる今、は。
・・・・・あー。
やべぇ。
なんかまた凹んできた。
ヤンクミに目をやれば、未だに頬を少し赤らめて
『ったく。内山のヤツ・・。』とかブツブツ独り言を言っている。
ふと、ヤンクミの左手を見る。
薬指、結婚指輪をはめる指を。
最初から断るつもりだったらしいし・・
『3Dの奴等を全員揃って卒業させる!』と、張り切ってる今は、そんな事ほぼ絶対ないんだろうけど。
・・そう・・
この強くて真っ直ぐな瞳で言う、彼女の言葉に二言はない。
それはみんな信じてる。
3Dメンバーも、あいつ等も。
そして俺も。
もし、あの見合いが進んでたいら、
『結婚』が決まっていたら、
今頃コイツのこの細い指には・・・・
幸せの象徴でもある指輪が、キラキラと眩しく光っているのだろうと考える。
んで、ムカついた。
考えただけでこうなのだから、実際に起こってたら、こんなんじゃ済まなかったろうな。
俺以外の誰かが、ヤンクミのこの指に、ある意味、所有印ともいえる指輪をはめるのなんて
多分、許せないと思う。
・・・・いや、今の俺に『許せない』とか言う権利は無いんだけど。
と、ここまで考えて、こんなにもヤンクミにハマッてる自分に気がついて苦笑する。
けど、しゃーないよな。本当の本気で、マジに惚れてんだから。
あ〜、こんな俺。
コイツに会う前からすれば、考えられねえ。
でも、あの頃の自分より、今の自分の方がよっぽどいいと思う。
そう思えるのは、やっぱヤンクミのお陰なわけで。
人間、変われば変わるモンだ。
「おい、クロ。本当にどうしたんだ?苦笑いしたかと思ったら何かニヤけてるし。」
そう言ったヤンクミは、これまた訝しんだ表情をしていた。
「なあ、ヤンクミ。左手出して。」
ヤンクミの疑問には答えないで、自分の要求を口にする。
『何で?』って顔しながらも素直に出された左手を、優しく手に取って。
「・・・・・・・・・・・・。」
今はまだ、この指に指輪を贈れる立場にはいないけど
そう遠くないうちに、絶対その位置までいくことを決心して
彼女の左手薬指に、口づけを落とす。
何が起こったか理解出来ない彼女は、金魚のように口をパクパクさせていて。
予想通りの行動をしてくれる、ホント分かりやすい、愛しい目の前の女に
悪戯な笑み半分、真顔半分で、俺は言った。
『近いうちに絶対俺のモンにするから、覚悟しとけ』
所有印とまではいかないけど、
愛しい彼女へ、指輪代わりの宣戦布告。
とりあえず。
目下の所、俺が覚悟すべき事は
『生徒』の枠から抜け出す事と
この後、多分耳まで真っ赤に染めたヤンクミに、小突かれる事。
END
■五月雨刹那様から、黒クミssです!!2本目v
◎刹那様からのコメント
ここまで読んで下さって、有り難うございます!(一礼)
テーマの『指輪』に(自分なりに)そって書いてみたら、なんだか『結婚』のほうにも、ちょびっと触れてますね;;
てかコレ、イラストが頭に浮かんだんですけど、絵は描けないので(泣)
ss書いてみました。が、ssも難しいですね(汗)
自分は読み専だなと痛感しました(うわ)でも楽しかったですvv
最後に@
企画に参加させて頂いて有り難う御座いました!!
◎有希乱入コメント
クローーーーーーvv でかした!(ぉぃ)
この後の2人を想像しただけで、ムフフな気持になれます><v(最っっ高に幸せー!)
てか、ホントに初書き!? 初書きでココまで書けるって・・・ヤバイ、私心底凹んできたんだケド;;
夕焼けを見ると切なくなってしまったりするのですが、クロの恋する純情な想いに涙しそうになりました><
だからラストのクロの決意と、宣戦布告には、拳をギュウっときつく握りしめて胸が熱くなりました〜!
2本も読ませて頂いて、私幸せです!!><v お祭りの後半をスタートさせるのに、これまた素晴らしい作品ですね!
久美子総受け、そしてクロのフルコースを味わった気分ですv へへへ、デザートは自分の妄想ってことで(笑)
刹那ちゃんへv
ふふふ、クロ好きーvの、刹那ちゃんが抱くクロへの愛を、ワタクシしかーと!感じ取りましたよ@@ニヤリ。
夕焼けとか、1本目の梅雨合間に晴れた日とか、何て言うか・・・空をイメージしたss、私も最近ハマってますv
だからアレンジとレイアウトをさせて貰ってる時もイメージが凄くしやすくて、その場でそのシーンを見ているような
気持になれて、凄く楽しかったですv うへへvちなみに1本目の写真(素材)は前回でもそうだし、
お気に入りだから何回か使ったことがあるんですv 刹那ちゃんのssのイメージにもピッタリ合ったので今回も選びましたv
刹那ちゃんにも気に入って頂けると良いんですが・・(汗)
いつもチャットやメール、そして時には無理やり生電話(笑) お相手して頂き本当に有難うございますー!!
お若いのに、そのしっとりと落ち着いた優しい雰囲気が小説にそのまま出されていて、
刹那ちゃんの人柄にさらにドキドキとトキメキを覚えましたv(笑) うへへ、これからもどうか宜しくお願い致しますv
この度は当サイト競作企画に参加して頂きまして、本当に有難うゴザイマシタ!!!