六月といえば。
Bridal Panic
数日間続いていた、梅雨特有のじめじめとした天気とはうって変わったような、ある晴れた日。
此処、白金学院3年D組は、いつもと変わらぬ一日を過ごしていた。
日常と化した喧噪の中、大きな喧嘩や厄介事も無く、放課後を迎えようとした3Dの生徒達。
そんな彼らに、とある騒動を引き連れてきたのは、
何を隠そう彼らの担任であり、数学教師でもある、山口久美子。
−−−生徒の内、何人かにとって実は想い人でもある、そう通称ヤンクミ、その人であった。
◆◆◆
キーンコーンカーンコーン・・・
授業終了の鐘の音と共に、ヤンクミの声が教室中に響く。
ヤ 「はーい。じゃあ、今日の授業はここまで。お前ら、騒ぎ起こすんじゃねぇぞ!」
そんな彼女の声を聞いているのか、いないのか。
3Dの面々はそれぞれ帰宅すべく、鞄に荷物を早々と詰め始めていた。
それはいつもの五人組−−内山、野田、南、クマ、そして慎も。
放課後の予定をどうするかなどを話しながら、教室を後にしようとしていた。
川 「ヤンクミー!終わったー!?」
そんな中、教室に響いた関西弁の聞き慣れた声に、
皆の視線がドアの前で立つ、養護教諭の川嶋に自然と向けられた。
その後ろには、英語教師の藤山も控えている。
ヤ 「あっ!川嶋先生、藤山先生。終わりましたー!荷物もココに持ってきているので、もう行けます!」
川嶋の問いかけに答えながら、ヤンクミは荷物を持ち慌しく扉に向かう。
「なになに、ヤンクミー。」
「静香ちゃん達と出掛けんのー?」
職員室に向かう間もなく帰宅しようとする、そんないつもと違った行動を取る担任に、
何か察知するものがあったのか、無かったのか・・
生徒達は何とは無しに問いかける。
そして、その質問に答えたヤンクミの台詞こそが、普段通りに終わったであろう彼らの放課後に
一石を投じる爆弾発言だったのだ。
ヤ 「おうっ!今からウエディングドレス見に行くんだよ!」
・・・・・はい?
その一言に尽きただろう、その瞬間の彼らの様子は。
呆気にとられている3Dメンバーをよそに、爆弾発言を落とした当の本人は
川嶋・藤山の二人と共に行ってしまったのだった。
その5分後・・・
「えええぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!??」
「どーゆーコトだよっ!!??」
「ウエディングドレスって!?」
「ヤンクミ、結婚するって事かっ!!?」
「まさかっ!?んなコト、ありえねーって!?」
「んでも、ハッキリ言ってたし・・」
「ってか、マジかよー!!?」
誰が何を言っているのか判別出来ない程の絶叫が、
3Dの教室に響き渡ったことは言うまでもない。
◆◆◆
あっけにとられている時間が約5分。
混乱した状態が、更に約5分。
彼らが、やっと我にかえったのは・・・・
ヤンクミ達が出て行ってから既に10分以上経過していたので、
勿論、彼女達はとっくに学校を出ており、何処に行ったのかは確認すら出来なかった。
とはいっても、ヤンクミの爆弾発言の確認を、明日にまわせる程、
落ち着いていられるそんな余裕のある彼らではなくて。
まぁ、落ち着いていろという方が無理な話なのだが。
先程のヤンクミの台詞は、彼女に恋愛感情を抱いている人間
−−−彼らの中にも何人かいるが−−− にとっては、自分達の失恋を確定させるモノでもあり、
『センセイ』として彼女を慕っている3Dメンバーにとっても、もしかしたら
彼女が学校を去ってしまうかもしれない可能性を含んでいるモノだったのだから。
此処にヤンクミはいない。
しかし、すぐに確認したい。
となれば、やるべき事は一つ。
内 「と、とにかくヤンクミ探そうぜっ!!」
そう。
内山の言うとおり、まずは当事者のヤンクミを探し出し、真相を聞き出す事だ。
野 「ウエディングドレス見に行くって事は、その辺の店じゃないっしょ・・。」
南 「つっても明日も学校あんだから、そんな遠出しないだろ。」
内 「近場でウエディングドレスがおいてある所っていったら・・・。」
慎 「・・・・・・ヤンクミが前に見合いしたホテル。」
それまで黙っていた慎の的確な台詞に、他の者は其処だと確信する。
慎の言うホテルとは、前にヤンクミが教頭の妻により持ち込まれたお見合いで、
英翔学園高校の教師と会った場所だ。
確かにあのホテルは結婚式場も兼ねており、様々なウエディングドレスも見られるようになっていた。
−−−思えばあの時も、彼女が寿退職するかもしれないと多少、不安になったが、
其れと今とでは、訳が違う。
あの時は、自分たちを含む周りの人間にからかわれて意地になったヤンクミが、
『しっかり会って、その上で断ってくる。』 と、
引き受けたのだが、今回はそういった類の情報は全く入っていない。
にも関わらず、ヤンクミ本人が、『ウエディングドレスを見に行ってくる。』 と言ったのだ。
しかも嫌そうな素振りは見せず、寧ろ楽しそうに・・・。
もし、ヤンクミが結婚するとして。
もし、其れが強制なモノではなく、ヤンクミ自身が望んだモノだとしたら。
自分たちには止められない、止める権利を持ってはいない。
其れが、どんなに自分たちにとってキツイものだとしても・・・。
かといって。
放っておいても事実が変わるワケではなく。
反対に杞憂に終わるかもしれないのだから。
確認は、早いにこしたことはない。
ので。
「んじゃー、ヤンクミ探し出して、問いつめっぞー!!!」
内山・野田・南の見事にハモった掛け声を機に、3Dメンバーは勢い良く教室を出ていった。
◆◆◆
ヤンクミ達がいるであろう場所が確定された訳ではないので、
念のために何人かに別れて探す事になった。
一番居る確率が高い、例のホテルへは、慎・内山・野田・南・クマの五人が向かう。
と、そこへ。
内 「・・・っ!!おい!あれクロじゃねぇか!?」
一悶着あったが・・・
今では昔のようにダチとして付き合っている黒崎が、五人の前を歩いていた。
黒 「ん?・・おー、ウッチー!それに慎たちも。どうしたんだ?んな慌てて。」
振り向いて、黒崎は言った。
会うのは久々だし、色々と話したい事もあるのだけれど、そんな暇は無いのでただ一言、告げる。
慎 「ヤンクミがウエディングドレス見に行くっつーから、探してんだよ。」
黒 「・・・・・・・・・・は?」
言われた黒崎といえば、先程の3Dと大差ない反応で。
内 「っつーワケで、俺ら行くから。また今度な!」
一つ違うところは
黒 「ちょっ、待て!俺も行く!!」
騒ぐ前に、五人に同行する事を決めた事だった。
◆◆◆
それから少し走って。
いつもの五人+黒崎は、一番疑わしきホテルへ到着した。
訝しんだ視線を向ける受付を、うまく誤魔化して中に入って。
それなりの広さがある一階のロビーを、流石に走ってはマズイので、急ぎ足で見て回る。
・・・・・・と。
野 「あっ!いた!ヤンクミ!!」
野田が、少し中に入った所にある、何着ものドレスがある大きな部屋に
ヤンクミ・川嶋・藤山の三人がいるのを見つけた。
南 「ウソっ!何処に!?」
野 「ほら、あそこ!」
ク 「何処?・・あっ!本当だ!!」
六人が目を向けた先には、笑顔で、自分にドレスを合わせているヤンクミが、いた。
◆◆◆
次の日。
ヤンクミが見つかった事。
六人が目にした事。
杞憂で終わってほしかった不安が、的中してしまった事。
他の場所を必死になって探していたクラスメイト達には、目の当たりにした光景に呆然としながらも、
何とか冷静さを保った慎によって、残酷とも言える事実が電話によって伝えられていた。
そんな彼らが醸し出す雰囲気は、とてつもなく暗く、3Dの教室は、普段からは考えられない程、静まっていた。
その静寂を破ったのは、
バッターーーン
もちろんこの人。
「みんな、おっはよー!ほら、席に着けー!!」
騒ぎの原因でもあるヤンクミの登場と、朝の挨拶だった。
「ヤンクミっっっっ!!!!」
「おはよー!っじゃなくて!」
「どういう事だよ!?」
さっきまでの静けさとはうって変わって、騒がしくなる教室と3Dメンバー。
勿論、慎や内山、野田、南にクマも例外ではなく、ヤンクミに詰め寄った。
内 「ヤンクミ!マジでどういう事だよ!?」
南 「てか、いつのまに、そんな事になってんの!?」
野 「また見合い!?」
慎 「つーか、相手の男、だ・・」
♪♪♪♪♪〜〜〜
眉間に皺を寄せて、不機嫌そうに顔を歪ませた慎が言いかけた台詞を遮って
ヤンクミの携帯から、お馴染みのメロディーが流れた。
ヤ 「はい、もしもし・・って黒崎!?」
電話の相手は、昨日もその場にいて同じく呆然とし、3D同様・・・
というよりは、ヤンクミに恋心を抱いている慎や内山たちと同じ様に、
気になって仕方がなかった、黒崎だった。
ヤ 「一体どうしたんだよ?こんな朝っぱらから!?何かあったの・・・・」
黒 「相手、誰?」
ヤンクミの問いを遮ってまで発せられた言葉は、ひどく簡潔で。
ヤ 「は〜?相手って・・・?沢田たちといい黒崎といい・・お前ら一体何言ってんだ??」
黒崎の問い、つまりは3Dからの問いかけに対するヤンクミの答えは
『さっぱりワケが分からない』という表情だった。
ヤ 「なんか、みんな、すっっごい焦ってるし。相手って、何の相手だよ?」
野 「あ〜〜〜。だ〜か〜ら〜、ヤンクミのけっ・・・」
川 「ヤンクミ〜?おる〜?」
誤魔化す風ではなく、本当にワケが分からないらしいヤンクミに戸惑いながら、
更に問いつめようとした野田の言葉を、これまた遮ったのは
開けっ放しだったドアから顔を覗かせた、養護教諭の川嶋だった。
ヤ 「あ。川嶋先生、おはようございます。何か御用ですか?」
川 「おはよう。んで、アンタ昨日、ハンカチ落としたやろ?何か知らんけど、ウチの鞄に入ってたで?」
ほれ、と渡されたのは、綺麗にアイロンがけされたハンカチ。
ヤ 「あ〜。わざわざ有り難うございます。」
川 「ええって。それより、アンタら何騒いでんの?」
突然現れた川嶋に呆気にとられていた野田たちは、その一言で我にかえる。
野 「あっ!そういやキクノちゃん、昨日ヤンクミと一緒だったよな!?」
南 「じゃあ、川嶋は、もう知ってたのか!?」
川 「?知ってたって、何を?」
慎 「ヤンクミの相手だよ。」
川 「相手って?」
ヤ 「お前ら、本当にさっきから何の事言ってんだよ?」
内 「だからっ!ヤンクミの結婚相手だよっ!!」
ヤ&川 「・・・・・・・はあっ!?」
内山の叫んだ言葉に、今度はヤンクミと川嶋が呆気にとられた。
ヤ 「けっ、結婚って!!お前ら何言ってんだ!?んな事あるかっ!!///」
川 「そうやでぇ。結婚するんはヤンクミじゃなくて、ウチ。」
真っ赤になりながら否定するヤンクミと、自分を指さしながら、あっさりと言い放った川嶋を前に
3D全員と電話の向こうの黒崎は、叫びすらあげられないまま、固まった。
開いた口が塞がらないとは、こういう状況を言うのだろう。
内 「って、ちょっと待て!!川嶋が結婚すんのかっ!?」
川 「そvめっちゃいい人なんやで〜v裕太も懐いてるしvv」
惚気のようにも聞こえる台詞に唖然としながら、更に問う。
南 「だって、ヤンクミもドレス合わせてたじゃん!?」
野 「そうだよっ!黒崎も見たよな!?」
ヤンクミの携帯をひったくって、電話の向こうの黒崎に聞けば
返ってくるのは肯定の返事。
慎 「・・・なんで、お前までドレス合わせてたワケ?」
ヤ 「だ、だって。折角だしさ!///やっぱ憧れるだろ、ウエディングドレスって!///」
多少、呆れた様に聞いてみれば、なんとも微笑ましい返事が返ってきて。
ク 「じゃ、じゃあ。ヤンクミは結婚しないんだな?」
ヤ 「当たり前だろ!?あたしには、お前らを全員揃って卒業させるっつー、でっかい目標があるんだからなっ!」
『だから、結婚なんて、あたしにはまだ早い!』 と、はっきりキッパリ言ったヤンクミに対し、
『人騒がせなっ!!』と胸中で叫び、3D全員と黒崎は一斉に肩をおとし溜め息を深く零した。
その零れた溜息は、安堵の溜め息だったのか・・
それとも心底呆れたものだったのか・・。
本人達にもさえも分からなかっただろう。
ふと、ヤンクミに目をやれば、
ヤ 「式は来月でしたっけ?」
川 「そうやでv是非来てなv」
ヤ 「はいっ!モチロン!!」
と、自分の事のように笑って喜んでいて。
彼女がドレスを身に纏う日は、どうやら、もう少し先になるようだ。
ある晴れた日、騒動を引き連れてきたのは・・
またもや我らが愛する担任。
これから卒業までの期間、一体何度振り回してくれるのだろう・・・と
生徒の誰もが心の中で小さく呟き、小さく笑ったのだった。
END
■五月雨刹那様から、久美子総受けssですーー!!!!
キャー!刹那ちゃんも、2つ書いて下さったんです〜!!!(嬉泣) まずは1本目v
◎刹那様からのコメント
ここまで読んで下さって、有り難う御座います(ペコリ)
初のごくせんssです。
初めてなのに、こんな素敵な企画に参加させて頂いて、すっごい感激ですv
そして、色んな意味で(ぇ)ドキドキです;;
えと、一応久美子姐さん総受けを目指しました。そして、消化不良に終わりました(痛)
『初めてのssだし、やっぱ総受けでしょっ!』と意気込んだはいいものの・・・
何か微妙な感じになってしまって・・・(汗)
しかも、勝手に川嶋先生、結婚させました。
篠原さんは?と自分でも思いましたが、そこはスルーしました(ぉぃ)す、すいませんです(滝汗)
では。企画に参加できて、とても嬉しくて楽しかったですvv
どうも有り難う御座いました!
◎有希乱入コメント
久美子総受け万歳だーーーーーーーー!!!!!(嬉泣)
皆から愛されている久美子姐さんを見るのが大好きなワタクシv
嬉しくて嬉しくて初め読ませて頂いた時は、思わず頬擦りしたくなっちゃいましたよ〜!←危
皆の必死な姿がとても微笑ましいです〜v 「いいワ〜v」と一人連発でしたよぉv
てか、こんなにも美人で、素直で可愛い先生が担任なら、男なら誰も放うっておく訳がないね・・うんうんv
てか、そう考えると、久美子総受けは寧ろ基本?ふへへへ(暴走)←殴
初書きで不安が一杯なのに、クロまで登場させてくれた、刹那ちゃんを、
とりあえず、今は抱きしめたい気持で一杯な私なのでした。(ヤメレ)笑