時の轍

番外編 決意









※シンクミベースですが、二人は登場しません。悪しからず。





「南君、私の向こうに誰を見てるの?私は・・・私は、南君のいったい何なの?」

またしても振られた。

こんなことに慣れっこになっても仕方が無いのだが、なんだかなんの感慨も浮かばない自分に無性に腹が立って・・・。





いつだって恋をしていた。

高校時代から、仲間達にナンパ師だの女好きだのと言われ続け、その通りの自分を貫いてきた。

この一年で付き合った女は、もう片手では数えられない。

けれども、卒業後どんな女と付き合っても真剣になれない自分を感じてもいて・・・。




さっき別れた女とも、知り合ったのはどこだったかも忘れてしまった。

ただ長くてストレートな黒髪に、かつての担任の姿がダブって見えて、興味本位で声を掛けた。

明るくてよく笑う彼女を、自分は確かに好きだった筈なのに・・・。



喧嘩のきっかけは、今日の待ち合わせ場所に現れた彼女が、髪を栗色に染めパーマをかけてきたことに『何で、パーマなんかかけたんだよ』と、文句を言ったことにある。

似合っていたし、明るい笑顔はそのままだったのに、手を振り駆けてきた彼女に最初に掛けた言葉がこんなセリフで・・・怒るのも当たり前なのだけれど・・・。

嫌だったのだ。

ストレートな黒髪は、自分の一番のお気に入りだったから。



それからの俺は、なんとか彼女の機嫌を取ろうとしたけれど、並んで歩く栗色の髪に違和感を覚えてからは、投げやりな気持ちも芽生えていて・・・。



「南君が好きなのは長くてストレートな黒い髪なんでしょ!私じゃなくて・・・きっと私に誰かの面影を重ねて見てるんだわ。」

そんな彼女のセリフに、図星を突かれた気がして・・・。

「だったら?だったらどうだって言うんだよ!?」

そんな台詞が決定打となって、そして、彼女とはそのまま別れた。

今までで最悪の別れ方だったと思う。

けれども、お蔭で自分の本当の気持ちに気付いたのかもしれない。

認めたくなかった、目を背けていた本当の気持ち。





そんな想いを抱えたまま、フラフラと夜の街をさまよい歩く。

通いなれたゲーセンを覗いたり、カラオケ屋の前を歩き回るうち、懐かしい感情がこみ上げてきた。



そういえば白金学院に通っていた頃、『繁華街パトロール』とかで教頭や鷲尾に捕まって、ヤンクミに迷惑かけたっけ・・・。

あの頃は、追いかけられるのも一種のゲームみたいな感覚で楽しめた。

そう思えたのも、信頼できる仲間たちとヤンクミのお蔭だった。

ヤンクミが、高校生活最後の一年間を有意義で思い出深いものにしてくれた。

それは3Dの奴らみんなの共通の思いだろう。



ふと見れば、あそこにもここにも何らかの思い入れがあり、そしてそこにはいつもヤンクミの笑顔があったのだ。

そうだった・・・。

認めたくなかっただけだ、気付かない振りをしていただけだ。

自分はいつも彼女を求めていた。

恋愛対象にはなりえないと思い込んでいただけで・・・さっき別れた彼女だって、そのことに気付いていたのに・・・。

だから今まで、何人の女と付き合っても長続きしなかった。



(はぁ〜〜、俺って本当にバカ。救いようのねぇバカ。今頃自分の本心に気付くなんて・・・遅すぎだっつうの。)





ヤンクミと慎が付き合っていると、それを知ったのはつい最近。

クマの店で、久しぶりに野田と会った帰り道、たまたま遭遇したヤンクミの喧嘩シーンを、面白がって見物と洒落込んだ。

ところが、当のヤンクミは風邪だったのか、高熱を出して倒れる寸前で・・・野田と二人で彼女を運ぶ羽目になったのだった。

病院も閉まっている時間だったから、困って悩んだ挙句思いついたのが慎の部屋。

直ぐ近くにあると、そう思い出したから・・・。

背中にしょった彼女の身体が熱くて・・・でも、あまりにも華奢で軽いのに驚いた。

心配で、早く運ばなければと義務感も感じていたが、何時までも彼女の重みを感じていたいとそんなことも思ったかもしれない。



慎の部屋に到着した時、いつものように仏頂面でドアを開けた彼が、思わず『久美子』と呼びかけた、その言葉の響きが・・・。

甲斐甲斐しく彼女を介抱する、その優しげな瞳と手の動きが・・・。

慎の、彼女への想いを如実に表わしていた。

ヤンクミの方も、慎の部屋に居ると認識した途端、安心したように眠りに落ちていった。


そんな二人に驚かされたのも事実だが、間に流れる穏やかな空気を羨ましいと思ったのも正直な気持ちだ。



学生時代からヤンクミを想い続けていた慎。

それを自分たちに見せることなく、ヤンクミのフォロー役に徹していた。

どんな言葉でヤンクミを口説いたのか、詳しいことは教えてはくれなかったけれど、慎の想いが届いたのは、やはり彼の努力の賜物だろうと思う。





ふと立ち止まり見上げた先は、以前しょっちゅう入り込んだ慎の部屋。

(なぁ、慎。俺、ヤンクミのこと女に見えるんだわ。ってか、多分惚れてる。気付いたのもついさっきで・・・遅すぎかも知んねぇけど、なんかそれに気付いたらさっぱりした。)

見上げた窓に二つの人影が見えた気がして、なんだか胸の奥に痛みが走った。

けれども、それも今は心地よい。



ヤンクミを取り合って、慎にライバル宣言でもかましてみるか・・・。

それとも、その気持ちを踏まえて新しい恋人でも探そうか・・・。







歩き出した顔には、笑みさえ浮んで。

これからどんな恋愛が待っているのかは、自分にも、誰にも分からないけれど。

でも・・おそらく・・これからする恋は本物。

これからはナンパ師とも、女好きとも呼ばれることはないだろう。







                           End