一月ともなれば、夕暮れ時にはすでに闇の中……
白い白い吐息が、闇に一瞬の色を添える。
天を仰いでもぶ厚い雲に邪魔され、月の光も星の瞬きさえも見る事は出来ない。
「寒いなぁ〜……まだ、五時だってのに真っ暗だし……あ〜やだ、やだ。早く帰えろ」
真っ白な息を吐きながら、久美子は羽織ったコートの襟を立て足早に帰路を辿る。
自宅へと一心不乱に歩いていた久美子の歩みが、分岐点の手前で不意に止まる。
それは、自宅と懐かしい職場とを結ぶもの……
右の道を行けば、暖かな自宅へ――
左の道を辿れば、今はもう通うことのない懐かしい場所……『白金学院』へ――
そして――後ろを顧みれば、もう既に通いなれた新しい通勤路……『黒銀学院』へ――
久美子は小さく息を吐き、夏も冬もなく絶えず豊かな水を吐き出し続ける噴水のふちに腰掛ける。
手袋を嵌めた手で、冷たくなった頬を包む。
いつも……そう、いつもこの場所で立ち止ってしまう。
見つめる先は、決まって一緒――座る角度も、無意識にその方向へと向いてしまう。
――『左』へと――
「……まだ、そんなに時間は経ってないのに、何だかず〜っと昔の事のような気がするなぁ〜あの道通ってたの……」
手の指を組み、掌を反すようにグッと前へと肘を伸ばす。
「……ヤンクミ?」
「っ!!??」
背後から掛かった声にビクリと身を竦め、恐る恐る振り返る。
「……なんだ……小田切じゃねぇか、どうした?? こんな時間に、こんな所で??」
「……それは、俺の科白……しかも、『こんな時間』って、まだ五時だぜ??」
久美子へ声を掛けたのは『小田切 竜』
――久美子が赴任した先での新しい生徒だ。
「あっそっか、まだそんな時間だっけ、いやさぁ〜こうも暗いとさ、時間を錯覚しちゃってさ」
まいったねとお決まりの笑顔で返す久美子。
「へぇ〜……で? お前は、ここで何してんだよ」
「ん〜? ちょっとな……浸ってた」
いつも明るい久美子の顔が、一瞬寂しげに曇る。
「ここをさ、ま〜っすぐ行くと……前の職場があるんだ……」
道の先を指差し、小さく小田切に笑い掛ける。
「……白金?」
「そう、あたしが初めて教師になった場所……」
それももう、無くなったけどなと呟きながら、
寂しげに切なげに『白金』があった方に視線を投げる。
「……戻りたいんだ? 『白金』に――……」
「う〜ん……まぁ、戻りたく無いって言ったら嘘だけど、でもまぁ今はさ、黒銀に居られるし、お前等と居るのも楽しいし……
教師として居られるだけで、十分――それ以上は、贅沢ってなもんだっ!」
それはまるで、自分に言い聞かせるかのような響で、
小田切は不快そうに眉を顰める。
「……ふ〜ん。まぁ、俺には関係ないけどな」
「いや……そりゃそうだけど、もっとこう〜言い方とかないか??」
「知らねぇ……じゃあな」
小田切はチラリと久美子を一瞥した後、踵を返し歩き出す。
「おっおうっっ! 気ぃ付けて帰れよっっ」
また明日なぁ〜と大きく手を振る久美子には答えず、
黙々と先程より尚濃く彩られた闇へと姿を消す小田切。
そんな小田切を見送り、久美子は短く息を吐く。
「……さて、あたしも帰ろうかな」
もう一度だけ『左』へと視線を向ける。
もう、あの場所へは帰れない――
時は止まる事を知らない――
過ぎ去った時は戻せない――
日の終わりが闇に包まれるのを――
止める事が出来ないように――
END
〜有希乱入コメント〜
うきゃーーー!!!ごくせんA、初の素敵な作品を頂いちゃったーーーっっっvv
同盟&チャット&オフ会参加のお礼だってサ・・・プレゼントだよ・・えぐえぐ(嬉泣)
あわわ、麗ちゃん!!お礼を言うのは、私の方ですよーーーーっっ!!
いつも可愛がってくれて本当に有難うゴザイマス><
切ない中にある、竜の見え隠れする複雑な気持に座布団10枚ー!!!
え?これは、竜→久美でしょう。うん、そうだ、きっとそうなのだv←無理やり。
夕焼けとか、夕暮れとか、個人的に大好きなので、そこにもキュンとなりました★
麗ちゃーん、この度は素敵ssを本当に有難うございましたm(__)mペコリ
愛を満タンかんじました、本当に有難うーーーっっvv ごくせん万歳!!
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