今までの先公と、同じだと思っていた。
今までの先公と、何が違うんだと。
他の先公と同じだ。
どうせ、自分の事しか考えていない。
どうせ、世間の事しか考えていない。
きっと、たぶん、いや、
間違いなく今までと何ひとつ変わらないんだろう。
なのに…。
アイツは違った。
なんでだか、知らないが。
他の先公とは、違った。
俺らに、全身で挑む。
俺らに、全力で進む。
俺らを、卒業させてやるんだと。
そうやって、いつの間にか当たり前の顔をして。
俺の世界に入って来た女。
そうやって、いつの間にか俺の心を占める女。
こんな先公、どこを探してもいねぇよな…。
春風の恋
緩やかに。それでも、確実に春を匂わせる風。
その風に優しく吹かれながら、この道を歩く。
もうすぐ、この見慣れた景色も見れなくなる。
それは、卒業というものため。
本来は嬉しい行事になるはずだろう。
それでも、俺は何故か素直に喜べなかった。
卒業すれば、もう黒銀に来る必要はなくなり。
そう、山口に毎日で会う理由がなくなるから。
珍しく一人で登校していた竜は、そこまで思い少し苦笑した。
こんな風に思う日が来るなんて、誰が予想しただろうか。
山口、俺らの担任教師で。
教師のくせに、まるで生徒のようで。
いつも明るく、賑やかで、俺らを想っている。
そんな山口を、気が付くと目で探していた。
そんな山口を、気が付くと目で追っていた。
そんな山口を、気が付くと…。
「お!小田切じゃねえか!どうした?今日はひとりなのかぁ?」
ついさっきまで考えていた相手がいきなり現れた。
いや、普通に誰でも驚くんじゃねえのか?
「なんだよ、俺ひとりで登校する事だってあるだろ。いつもいつも揃ってるワケじゃねえんだし。」
そんな内心を見せないように答える。
「そっか、そうだよな。じゃあ、ついでだ!一緒に行くか〜。」
さっきまで、他のメンバーを探してキョロキョロしていた山口は。
俺の言葉に納得したようだった。
そして、俺の返事も気かないままに。
ちゃっかり俺の隣に来て、その歩調を合わせる。
ったく、こっちの気持ちも解れよな。
なんて、絶対に言えない。
それでも、他のヤツもそうしてるのか。
などと、まるで嫉妬に似た感情が生まれる。
山口は、ひたすら何かを話している。
俺は、内容も聞かずに相槌ばかりを繰り返す。
そう、コイツといると調子が狂うのだ。
コイツが口にする男。
コイツが口にする生徒。
コイツの口から出て来る名前に、何故か、ムカつく。
コイツの口から、俺の名前は出ないのかと…。
ひとしきりしゃべっていたが、腕に付けられた時計を見た瞬間。
コイツの顔色が変化した。
「ヤベ!職員会議…!」
いつものように、うっかり(すっかり)忘れていたんだろう。
「それじゃ、また学校でなぁ。遅刻すんなよー!」
言いたい事だけを、言い残して。
山口は、学校へと走り去る。
ひとり残された竜。
彼は、そんな山口を微笑しながら見送る。
そして、彼女が見えなくなっても。
じっと立ち止まり、想いに耽る。
ひとり、道の真ん中で佇んで思う。
なんで、山口が気になるのか…。
なんで、山口ばかり想うのか。
なんで、山口ばかり目で追うのか。
それの解答は、非常に簡単で。
たまに、非常に難解。
それでも、良いかと竜は思う。
いつか、きっと、必ず。
これは何かの感情。
なんとなく、解っているけれど。
もう少しだけ、時間が欲しいんだ。
もう少しだけ…。
そう想う竜、それでも良いと感じる竜。
いつもより少し高く、少しだけ青い空。
その空に、いつもより眩しく輝く太陽。
大地には、春の香りを乗せた風がふわりと吹く。
そんな景色を背負い、竜は少しだけ微笑む。
そして、足を進める。
未来へと、彼女へと…。
END
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