「よ・・よし これで大丈夫だ!!・・ったく・・・矢吹のヤロウ・・・」
久美子は鏡に映った自分の目を見つめながら気合を入れた。
艶やかな黒髪から覗く白い首筋に・・。
絆創膏1枚。
For You
〜嵐到来〜
おかしい。
・・・隼人がおかしい。
もともと朝はそんなに強い方ではない隼人が今日に限って
(あからさまに作った)爽やかな笑みで登校してきた。
しかもニヤけた顔を隠そうともせずに早々に自分の席についてからも恐ろしく上機嫌なままである。
その様に恐れをなした3Dの連中は驚愕の表情を浮かべながら遠巻きに隼人を見ていた。
隼人が教室に入ってきたときの体制のまま固まっていた
土屋が武田の方に向きなおると恐る恐る訊ねる。
「なぁタケ・・・隼人どうしたんだ?」
「さぁ・・・?朝からずっとあの調子なんだよね・・・。」
何処となく呆れたような疲れ果てたような表情で武田もそれに答える。
「キレてる・・・とか?」
これまた恐る恐る日向が訊ねる。
「いや・・それはないと思うケド・・・あんなニコニコしながらキレるなんて器用なマネできないと思うし。」
さりげなく貶している事に気づいているのか、いないのか・・再び武田が答える。
そんな周りをものともせず未だにこやかな隼人。
(((((・・・っていうか・・・・あんな隼人・・・・)))))
「キモイ。」
((((((言っちゃった!?))))))
誰もが言いたくて言えなかった一言を
何時の間にか登校してきていた竜がサラリと言ってのけた。
「竜ー・・はよ!ってか時間的に遅刻じゃね?」
いつもなら突っかかる言葉にも反応せずに笑顔で応対した隼人に流石の竜も眉をひそめる。
「・・・タケ・・・。何アレ。どしたの?」
「知らね・・・オレに聞かないでよ・・・。」
気まずい沈黙が押し寄せた所で武田が小さく声をあげた。
「ねぇ?ヤンクミは?HR始まってるよね?」
そういえば・・・と次第に騒ぎ出す3Dの生徒。
広がる喧騒の中で『ヤンクミ』の言葉に反応して隼人が口角をあげたのに気付いたのは
隣の席についていた竜だけだった。
竜の視線に気付きこちらを向く隼人。
「竜。お前 昨日ずっと寝てたわけ?」
「ん・・・まぁ・・。寝っぱなしだったわけじゃねぇケド・・。」
「昨日俺1人でいつもの店行ったんだよね〜。」
「・・・で?」
「俺さぁ−・・・謝る気ねぇから。」
「・・・は?」
会話が成り立たないような言葉の意味を図りかねて
聞き返そうとしたところで久美子が教室に入ってきた。
「ごめんごめん!! ちょっと職員会議に遅刻しちゃって教頭につかまってたんだっ!!」
久美子らしい少し抜けたその言葉に教室は一瞬のうちに笑いに包まれた。
「ヤンクミ 遅刻したの?だっせー!」
「いやこれにはその・・・訳があってだな・・」
からかう武田の言葉に焦った久美子は反論しようとした。
「俺らにも遅刻すんなって言いてぇなら自分も遅刻しないで下パイ♪」
そんな中、ご機嫌な様子で絡んでくると共に
ニヤリと目線を投げよこした隼人に久美子は詰め寄る。
「うるさい!矢吹!だいたいお前があんな・・・っ」
そこまで言いかけたところで久美子は我に帰った。
けれど隼人はそれにかまわず楽しそうに問い返した。
「俺が・・・何?」
「い・・いや・・何でもない!なんでもないぞ!?」
慌てて首を振るその態度がかえって不審極まりない。
「なぁ〜んかあやしくなぁ〜い?」
「確実に。」
「完全に。」
「「「あやしい」」」
武田・日向・土屋の順に一言ずつ。
最後には綺麗にハモらせた三人組は人の悪い笑みで久美子を取り囲んだ。
「ヤンクミぃ〜!にゃぁーに隠してンのぉ?」
「そーそー!隠し事は良くねーぞ?」
「白状しろよ?」
右に武田、左に日向。
正面には土屋。
(マズイ・・・逃げ場がねぇ!!)
逃げ場を求めてキョロキョロとあたりを見回す動作に数秒遅れて黒髪が左右に舞う。
一瞬露わになった首筋に絆創膏をみつけた竜の表情が瞬時に険しくなる。
終始上機嫌な隼人。
不自然な絆創膏。
焦る山口。
そして 先程の会話。
全てが竜の中で一つに繋がった。
(・・・そういうことかよ・・・。)
絆創膏の下に隠されたものが容易に想像できて、竜は眉をしかめた。
―いつ?
・・・たぶん昨日。
―何処で?
・・・行きつけの店で。
―誰が?
・・・隼人が。
きっと自分の想像は外れていない。
「・・・・隼人。」
確認の意味もかねて、鋭い視線で問い掛けるものの返ってくるのは
挑発的な笑みのみで、それが益々竜の苛立ちを募らせる。
(隼人を野放しにするんじゃなかった・・・。)
思わずため息がこぼれそうになるの押さえて久美子を見つめた。
「・・・お前には負けねぇ。」
久美子から視線を外さずに竜が呟く。
「・・上等じゃん・・。」
笑顔を拭い去り真剣な瞳で答える隼人。
隼人を一瞥してから席を立ち久美子の方へ近づいていく。
去り際に残された一言。
「俺も謝る気ねぇから。」
負けず嫌いな竜らしいその言葉に思わず笑みがこぼれる。
竜の行動が予測できてさらに笑えた。
(そうこなくっちゃ♪・・・でなきゃつまんねぇし)
追求が何時の間にかじゃれ付きに変わっている武田たちと久美子に近づく。
「あ 竜。 竜も混ざりたいの?」
「馬鹿 ちげぇよ。」
じゃあ何しに来たんだと問うような武田の視線を受けながら、久美子に視線を合わせた。
「お前さぁ・・ そんなんで誰も気付かねぇと思ってんのかよ。逆に目立つんだけど。」
「何が?」
不思議そうに訊ね返す久美子に呆れ顔でため息をつく。
「何だよ!ちゃんと言わなきゃわかんないだろ?!」
「・・・それ」
言うが早いか久美子の首筋に手を伸ばし絆創膏をはがした。
予想どうり現れた紅い痕に、いち早く反応したのが武田だった。
「あーーー!!!ヤンクミ キスマークつけてる!!!!」
「「「「「「キスマーク!!?」」」」」」
3Dに大きな叫び声が響き渡った後、生徒達は凄い勢いで騒ぎ始める。
「うわマジでついてるし!」
「彼氏!?」
「ばーか 居ねぇつってたじゃん!」
「隠してたとか?」
「誰にやられたんだよ!」
久美子をよそに騒ぎは広まる。
軽く見世物状態になっている久美子の顔は真っ赤になっていて、
自分が原因であるものの隼人はこらえきれず笑い出した。
それに気付いた久美子は隼人を睨むと叫んだ。
「矢吹のバカやろーっ!!お前のせいだぞ!!」
(((うわー・・・ヤンクミそれじゃあ相手がもろバレだよ・・・・)))
一方、
隼人は自分に集まった視線の中に厳しい視線が思いのほか多かったことに気付いた。
(ふぅーん・・・。ライバル多し・・ってことか♪)
竜は未だに隼人に向ってなんだかよくわからないことを叫んでいる久美子の肩を軽く叩いた。
「小田切?どうした?」
竜の方に顔をむけた久美子に無言で竜はドアの方を指さす。
思わずつられてその方向を見る久美子の首筋に見えた痕の上をキツく吸い上げた。
「なっ//////!!!???」
竜が唇を離せば其処には先程よりも鮮やかにくっきりとした痕が残っていて。
隼人に向いていた視線が竜に集まる。
「ぜってぇ譲んねぇから。」
誰に言うでもなく、けれどはっきりと竜が呟く。
竜に肩をつかまれたままで真っ赤になっていた久美子は抗議の声をあげる。
「おおおお小田切!!!?お前 教師をからかうんじゃねぇよ//////!!」
「別に。 からかったつもりねぇよ。俺 本気だし。」
「///////!?」
あっさりと言われた言葉。
けれど久美子はしっかりと反応して、これ以上ないくらいに赤くなっていた。
時が止まったかのような静けさが訪れた。
「はいはーい!!そこまで!! 竜チャンいい加減離れて下パーイ!!!」
静寂をぶち壊したのは隼人。
自分で煽っておきながらもやっぱり我慢できなかった様子。
竜の腕から自分の方へ久美子を引き寄せた。
そのままバチバチと火花を散らしていたが、思わぬ乱入者に遮られる。
隼人の腕の中から久美子を連れ去ったのは武田だった。
そしてそのままギュッと抱きしめる。
「お おい武田////!!?」
「んー?」
「いや んー?じゃなくて!!///」
「ヤンクミ・・・抱き心地最高♪」
「いや そうじゃなくて!///」
抱きしめたまま首筋に顔をうずめる。
それを見つめる竜と隼人は苛立ちを隠そうともしない。
――教室内の温度 2度低下・・。
「ヤンクミ、授業始まってんじゃねぇのかよ?」
「授業まで遅刻したらまた怒られるんじゃねぇの?」
慌てる久美子に助け舟を出したのは土屋と日向。
「あーっ!!そうだった!!!武田っいい加減離せ!!また怒られちゃうだろ!!」
そう言われて武田は仕方なく久美子を解放する。
「お前ら授業サボるんじゃねぇぞ!!?///」
久美子は赤い顔のまま脱兎の如く教室から出て行った。
クスクスと笑い声をもらせば背後から痛い視線。
「「タケ・・・」」
振り返れば、怒る幼馴染2人。
睨まれて武田は肩をすくめた。
静と動。
対照的でいて似ている2人。
小さい頃にも【お気に入り】をとりあって似たような事があったのを思い出す。
2人が取り合いをしている間にその【お気に入り】で遊んでいるのは自分だった。
其れに気付いた2人に後で怒られるのがいつものパターン。
思い出し笑いをする武田に再び2人の視線。
一拍置いた後 再び竜と隼人の睨み合い開始。
「隼人 邪魔すんじゃねぇよ。」
「ヤダ。アレ俺のだし?やっぱお前にだけ美味しい思いさせるわけにはいかねぇっしょ♪」
「今は俺のシルシついてンだけど?」
「・・まぁ 最初につけたの俺だし?それにチューもしたしvv」
(まぁ デコチュ−だけどね。)
でも あえて言わない。
互いと周りのライバルをけん制する意味もこめて言い合いは続く。
その光景にため息をついた武田が言い放つ。
爆弾投下。
「竜も隼人も一歩リードした気になってたの?
・・・悪いけどクラスじゃ俺だけだからね?ヤンクミの番号知ってんの♪」
【俺だけ】という言葉に反応して面白いほどに2人の機嫌は急降下。
教室の温度も急降下。
思わぬ所に伏兵あり。
((((っていうか 怖いからこれ以上煽るなタケー!!!))))
仲間の切なる願いをよそに、武田は2人に満面の笑みで最近のお決まりをおくってやる。
「にゃっ♪」
ご丁寧にポーズまでつけて。
「「・・・上等じゃん・・・」」
嵐は到来したばかり。
今日も3Dは大荒れの模様。
END
お戻りはブラウザバックで;