「暇・・・。」



 矢吹隼人はやる気なさげに一人で歩いていた。
 
本来ならば、今日はいつものように遊んでいるはずだった。
 
 ところが突然タケが例の桃女の女とデート(もどきね もどき)、日向はバイト。
 つっちーは挙動不審にそそくさと帰っていた。(絶対 女だとみた。まさかこの間の中坊・・・?)

 そんなこんなで一人また一人減り・・・、。
 極めつけは竜の一言。


 『俺ねみぃから帰るわ。』

 そんなわけで一人になってしまったが家に帰る気にもなれず暇を持て余していた。
 気が付けば馴染みのCAFE de ROVNEの前まで来ていた。

 

 「暇だし・・・ちょっと寄るか・・・。」

 

 呟きながらドアをあけた。



 

 〜For You〜




 足を踏み入れて、ふと店内に目を向ければ見慣れた神出鬼没な担任の小さな背中。
 こちらに気付かずに幸せそうにパフェを食べる姿はまるで子どものようで
隼人は無意識に頬が緩めていた。
 そのまま気付かれないように彼女の真後ろまで行き、唐突に声を掛けた。

 

 「何してんの?お前」
 「何ってそりゃパフェ食って…っやっ矢吹?!」

 

 バッと勢いよく振り返る久美子の姿に小さな笑い声をたててから軽く手を上げた。
 そしてそのまま隣りの席へと掛ける。

 

 「お前なぁ〜急に人の背後から出てくんじゃねぇよっビックリするだろうがっ!」
 「いやお前に言われたくねぇんだけど。」
 
 「…。」
 「なんだよ。」
 
 「いや…。…あれ?お前今日1人なのか? あっ! もしかして置いてかれ…」
 「
は?馬鹿じゃん?ちげぇし。」
 
 「…お前 人の台詞は最後まで聞けよ…」

 

 呆れ顔でつぶやく久美子をあしらいつつ飲み物を注文した。

 

 

 「それにしてもホントに珍しいな。1人なんて。」

 

 まさかみんなにドタキャンされたなんて言えない・・・。

 

 「…いつも一緒なワケねぇだろ。1人ん時くらいフツーにあるっつぅの」

 
 「そういう意味で言ったんじゃねぇよ。ホラ、お前の周りには…こう…
 自然と人が集まるというか…引きつけられるというか…慕われる人間だからな。矢吹は。」

 

 楽しそうに言いながら久美子は矢吹の頭に手を伸ばし勢いよくかき回した。

 

 「ヤメロ。セットが崩れる。」

 
 久美子の手のぬくもりが無性に照れくさかった。
 照れ隠しにグラスの中身をかき混ぜながら話題を変えた。

 

 「そういやお前4月からも黒銀にいられることになったんだって?」
 「そうなんだよっっ!!良かったぁ…蕎麦屋の女将にならなくて。」
 
 「…あの時は悪かったな…口滑らせて…」

 
 さり気なく放たれた嫌みに少しムカついたけれど
 
目の前の久美子が本当に嬉しそうな顔で笑うから毒気が抜けた。

 
 「まったくだ。今度から気をつけろよ?!」

 
 「わぁーってるって。っていうかお前も一般人が使わねぇような言葉ポロポロ出すなよ。
 折角4月からも決まったっつうのにバレたら意味ねぇだろ。」

 「?!それってアタシのこと心配してくれてんのか?お前やっぱり優しい奴じゃないかっ!」
 
 「ちげぇよっ!…まだカリ返してねぇのにお前がクビになったら困るから…それだけ!」

 

 顔を背けたけれどほんのり朱がさした頬は
 しっかりと見られていたようで忍び笑いが耳に届いた。

 

 「…なに笑ってンだよ」

 
 不機嫌そうに呟くも久美子の笑みは消えない。

 

 「いやお前もカワイイとこあるなぁって思ってさっ」
 「可愛いとか言われても嬉しかねぇよ」
 
 「褒めてるんだぞ?!」
 「あっそ…」

 

 再びパフェを食べ始めた彼女をなんとなしに見つめているうちに、彼女に声をかけた理由を思い出した。

 

 「なぁ・・・。」
 「ん?なんだ?」
 
 「・・・祝ってやるよ。」
 「は?」
 
 「祝ってやるっつってんだよ。教師続けられる事になったんだし?進路決定祝いっつぅの?」

 

 グラスに目を落とし
 『まぁ・・。世話になってるし。』
 と付け加えた。

 
 「お前・・・!!いや でも そんな・・・生徒に祝ってもらうわけには・・・」

 
 久美子は二つに結わいた髪を弄くりながら首を振った。
 しかし 白い小さな手はしっかりと隼人の方へ差し出されていて、その様がとても彼女らしくて笑いがこぼれた。

 
 「お前 言ってる事とやってる事がちげぇんだけど・・・。」
 「いや だってくれるモンは貰っとかなきゃだろ!?・・で?なんだ?奢ってくれたりとかするのか?!」
 「ダメ。俺は金欠なの。ってか生徒に奢らせんじゃねぇよ! ・・まぁ いいや。そんなんよりもっと良いものやるって♪」

 

 良いモノと聞いて目を輝かせる久美子の、まだ差し出されたままの手を引きよせる。
 


 不意を突かれてバランスを崩し自分の方に倒れかかってきた久美子の額にキスを落とした。


 

 

 「っ・・・//////!!!@★×&%#$!?」

 

 

 ふと彼女の顔を見れば面白いほどに真っ赤に染まっている。
 額を押さえたままパクパクと口を動かすだけで
 いまだに言葉を発する事が出来ない久美子に向けてニヤッと笑って見せた。

 

 「デコちゅ−くらいでそんなに騒がないで下パイ♪」
 「おまっ・・・大人をからかうんじゃねぇよ!!!」
 
 「まぁまぁまぁ・・・♪」
 「あのなぁ・・・って・・・祝いってこれだけか!?」

 

 思わずこぼれた本音に久美子はハッとした様子で口を押さえたがすでに遅く、隼人は目を丸くして久美子を見ていた。
 そのままお互いにしばらく固まっていたが、久美子が言い訳するよりも早く隼人は立ち直ったようで、
 悪戯ッコのような笑顔で久美子の顔を覗き込んだ。

 「あれれぇ〜?デコちゅーだけじゃ足りませんか?山口久美子セ・ン・セ?」
 「馬鹿////!!そうじゃねっっ・・・・!?」

 

 言いかけた久美子の言葉は隼人の行動で遮られてしまった。
 隼人は久美子の耳元に唇を寄せ、低い声で囁く。

 

 

 「もっとシてやろうか・・・?」


 

 反応できずにいるのを良い事にそのまま首筋に唇を押し当てー・・・・・。


 

 

 ―ぐいっ!!

 

 「痛ぁっ!!?」

 

 髪を(一応手加減して)一房引っ張った。
 体を離し、痛みから少し涙目になっている久美子の目の前にピースを突き出した。

 「期待・・した?」
 「してない///!!っていうか痛いじゃないか!何するんだ矢吹ぃっ!!!」

 

 怒りからか恥ずかしさからか顔を真っ赤にしたまま怒鳴る彼女に向けて、お決まりのピースと言葉。


 「じゃぁね〜♪」

 

 残された久美子はしばらくあっけに取られてボーッと隼人の背中を見つめていた。

 

 「あっ・・おい!コラ矢吹ーっ!!」

 

 

 慌てて怒鳴るものの、一度手を軽く上げただけで隼人は振り返る事も立ちどまることもなく、
 ドアの向こうに消えていった。

 まだ熱の残る顔を両手で押さえて自分の席に座り直した。

 

 「・・・あれ?・・伝票・・・」

 

 

 さっきまであった筈の伝票がない。
 久美子は触っていないし落ちたら音がする。
 残るはさっきまで自分の横にいたー・・・。

 

 「金欠の癖にムリしてカッコつけやがって・・・・//// 馬鹿・・//」



 呟いた言葉はパフェの甘ったるいクリームと一緒に飲みこまれていった。





 

 

 

 「あちゃー・・・やっぱ 痛いわ; パフェなんて高いもん食いやがって・・・。」



 軽くなった財布を見つめてブツブツ文句を言いながらも隼人の顔には笑みが浮かんでいた。
 きっと彼女は首筋に赤い華が咲いている事に気付いていないだろう。
 彼女はいつ気付くだろうか?3Dの奴らは?親友達は?

 

 そして―・・・アイツは?

 

 「一歩リード・・・ってね♪」

 

 

 ―悪ぃな 竜。 ケドお前が悪いんだぜ?

 

 アイツはきっと今日眠気を理由に誘いを断った事を後悔するのだろう。
 いつもは冷静だけど実は負けず嫌いな幼馴染の心底不機嫌そうな顔が容易に想像できて、笑いがこみ上げた。



 

 きっと明日は3Dに嵐が到来だ・・。



 

 END




 

 

 ■稀サマよりコメント。
 サイト開設おめでとうございます!
 駄作ですが、心をこめて書きましたので(あ あと愛だけなら溢れてますよ!笑)
 貰ってやっていただけたら光栄です。
 ステキなサイト様が増えて本当に嬉しいです!楽しく通わせて頂きますね!