謝/始





 まさかこんな事になるなんて。

 

 守ってあげたくなる様な年下の可愛い子、

 大人な年上の色っぽいおねーさん(両方限度有るけど)に同い年の女子コーセー。

 恋愛対象の範囲は広かったのに。



 女1人に狭まっちまった。

 ありえねー。

 まじで。

 まじで?

 勘弁。

 でも、もうどうしようもねぇ。



 昨日、退学処分を取り消されて。

 「お願いします」

 頭ん中、ずっと聞こえる。切れ切れに、ぐるぐる回る。

 

 「もっと観ていきたいんです」

 苦しいくらい、嬉しかった。

 

 コイツの必死さがのしかかってきて。

 でもそれは今まで先公に対して感じた事が無い「信じてもいい、信じたい」という感情が産まれた。

 とても重たかったけれど素直に嬉しかった。

 俺に、俺達に対して「理解したい」と思われるのが気持ちよかった。

 

 その後、教室で胴上げなんかされて。

 嬉しそうにこっち見上げてる顔とか見て、もう駄目だった。



 その日の放課後は嬉しくて3-Dの何人かで遊んだ。

 次の日・・・今日、いつも通りの学校を前と少し違う感じで過ごした。

 

 それから放課後、隼人たちと別れて俺は1人で教室に残った。

 校内のざわめきが大分落ち着いた頃、ゆっくり校門へ向かう。



 

 アイツ、まだ帰ってねーよな?

 校門に寄っかかって、待つ。

 寒っみぃな、オイ。

 幾つか眼の前を足音が通り過ぎたかも知れない。

 ぼーっとしてよく分かんねかった。


 

 「土屋?」

 



 この声だけ、待ってた。

 立ち上がって座り込んでいた事に気が付いた。

 目当ての担任が駆け寄ってくる。

 

 背、ちっさ。

 や、俺がちょっとデカイにしても。

 うん。小さく見える。

 

 「どした?何してんだこんなトコで」

 

 見上げてくる眼に負けた。(負けたって何だよ)

 まともに目の前の顔、見れなかった。


 

 「オマエ・・・待ってたんだよ」

 「私?こんな時間までか」

 

 声、出ねぇ。から、頷いた。

 ついでに暗くなってんのにも今、気が付いた。

 俺の手が冷たいのにも。


 

 「いつから待ってんだよ。寒かっただろ」

 「別にどってコトねーよ」

 

 

 やっと出た声に焦った。ナニ?俺、微妙に怒ってねえ?

 俺ってば、もっと素直なコじゃなかったの?


 

 「もう、8時回ってんだぞ?」

 「え、うそ」

 

 目の前の変な女教師は溜め息を吐いて歩き始めると俺を振り返った。

 

 

 「取りあえずラーメン食べにいくか?奢るからさ」

 

 俺は黙って楽しそうに歩く山口の隣を歩いた。

 

 

 

 何度か来た事があるラーメン屋の暖簾を潜る。

 こっちが何か言う前にカウンターの向こうから声がした。

 

 「お、ヤンクミ、いらっしゃい!」

 「よ!クマ」

 「いらっしゃい!」

 

 俺にも愛想のいい声が飛んできた。

 2人で適当な席に座ると直ぐにカウンターの中にいたなつっこい笑顔が

 水を二つ持ってきてテーブルに置いた。


 

 「私、チャーシューメン。土屋は?」

 「俺もチャーシュー」

 「ヘイっ。チャーシュー二丁ね」

 

 直ぐに、なつっこい笑顔はカウンターの向こうに消えた。


 椅子に座って、どう切り出せばいいかカウンターの中を見ながら考えてたら声がした。

 

 「今日は・・・・」

 「ん?」

 「矢吹達と一緒じゃなかったんだな」

 「ああ・・・まぁ・・・」

 

 

 何で俺、歯切れ悪ぃの?

 

 

 「チャーシュー二丁、お待ち」

 笑顔とチャーシューメン二人前がテーブルの脇に居た(?)

 「お、美味そうだな。よし、食うぞ土屋」


 ホッとした。ん?助かった?惜しかった?

 分かんねーけど、まだ言うチャンスは有る。

 取りあえず、割り箸に手を伸ばした。

 

 「いただきます」

 幸せそうな顔だな、オイ。

 

 「いだたきまっす」

 つられて言っちまったよ、オイ。

 

 まあ、ここのラーメン美味いからいいか。(何がよ)

 一口目を口に入れた時。

 

 「うお!?」

 

 声がした。

 吃驚して声の出所見たら。

 


 「ぶっ」

 

 

 右手にラーメンの麺はさんだ箸、左手に蓮華を持って、白く曇った眼鏡をかけた担任教師。

 


 「笑わすなよ!」

 吹き出しちまったじゃんよ!

 

 「何だと!?ちきしょう・・・・油断した・・・」

 山口は悔しそうに眼鏡を外して脇に置いた。


 

 「・・・・っ」

 「気を取り直して。食うか」

 

 

 何で何で何で!

 っきしょう。


 

 眼鏡を外して嬉しそうにラーメン啜ってる女に顔赤くすんなよ俺!

 照れ隠しに何かしねーともたねえよ。(俺っていたずらっ子だし)

 

 

 椅子をずらして中腰になって山口の髪を括ってるゴムに両手を伸ばした。

 腕の間には不思議そうな顔。少しは警戒しろっての。

 そんでゴムだけ掴んで一気に引いた。

 ラーメンの中に髪が入らねーように外側に、斜め下に。

 

 「っおい!?」

 

 やっておいて何なんだけど、後悔。

 細い髪を揺らして山口がちょっと怒った顔で俺を見た。

 降参するから、マジで。限界が見える気がする。

 

 「ラーメン食ってる時に人の髪ほどきやがって。どーゆー了見だ?」

 「や・・・スミマセン・・・出来心で」

 

 

 素直に謝ったら山口はブツブツ言いながら俺に右手を差し出して、一言。

 

 「ゴム返せ」

 俺は素直に渡した。

 

 

 鬱陶しそうに髪をかきあげてゴムの片方をポケットに突っ込んで

 もう一つのゴムで顔の両サイドの髪だけを後ろで一つにまとめるのを、俺はボケっと見てた。

 もう、いい。

 俺の負けだからコイツに見蕩れるのはしょーがねー。(恥っ)

 

 「土屋、ラーメン延びるぞ?」

 「ああ」

 

 味が、分からなくなっちまった。

 目の前でラーメン啜ってる女に全部持ってかれた。

 長いまつげ、黒くてキレーな髪、白い肌に細い身体。さっき気が付いた。

 黒くて大きな瞳。伸びた背筋。表情。キリが無ぇ。

 全部だ。兎に角。

 喧嘩に強いのは知ってる、けど。守り、たい。

 

 

 「クマー、ごちそうさま!」

 「ごちそうさまでした」

 「おうっ。またな。有難うございましたー!」

 

 

 金を払うと、クマとかいう山口の元生徒は、山口と俺に笑顔で軽く手を振った。


 

 

 店を出て暫くした時、山口から切り出してきた。

 


 「で?」

 「は?」

 「私に、何か話があったんじゃなかったのか」

 

 

 髪もさっきラーメン屋で結んでそのまま。

 眼鏡はかけてるけど何時もと雰囲気がすっげ違う気ぃする。

 油断したら、見とれるってどーなんだよ。

 

 
 「あー・・・・あのよぉ」

 

 隣り合って歩きながら、見上げてくる女の顔を見た。

 ヤベ。また負けそ。

 


 「昨日の事とかマジで、嬉しかった・・・・からよ・・・」

 

 

 信じてくれた。

 

 

 気が付いたら俺の足は歩いてなくて上半身は110度に折れていた。

 1メートル位先にジーパン履いた山口の足下が見える。ちょっと汚れたスニーカーも。

 マジでココ、人通り少なくて良かった。

 

 

 コイツ、笑ってる気がする。

 ジーパンとスニーカーが2歩、俺に駆け寄ってきた。

 

 

 瞬間。

 

 「つちやぁ〜!」

 「うお!?」

 

 嬉しそうな声と、俺の頭を乱暴に撫でる(?)手。


 

 「っに・・・!!」

 

 すんだよ!って言いたかったけど。けど!

 マジ、勘弁。

 

 

 満面の笑顔が目の前にあった。

 長いまつげ、白い肌、でけぇ瞳、細い首に長い髪がかかって流れ落ちてく。

 眼鏡がちょっと、ズレてる。

 勝てねー。

 

 

 「私もさ、嬉しいよ。土屋」

 

 何でかこの言葉が突き刺さって痛ぇ。



 

 笑って歩き始めた山口を焦って追いかけた。

 コイツの生徒になれたのは嬉しい。けど。

 

 

 けど。

 俺ん中の別んとこが悔しがってる。

 3年D組の仲間の一人。

 じゃなくてっ。

 この女のたった1人の男になりたい。


 

 見てろよ。

 何時か、惚れさせてやっからな。



 取りあえず。

 

 

 
 「ちょっと、眼鏡貸して?」

 「何、するんだ?」

 「・・・・かけさしてくれねー?」

 「・・・いいけど」


 

 渋々、眼鏡に手を伸ばすのを見ながらポケットの中の携帯を出す。


 

 「はい。落とすなよ?」

 ゆっくり眼鏡を差し出しながら俺を見上げた瞬間。



             

 ピョロリーン

 



 フラッシュオッケ。

 街灯の下だし、自販機の電気とかもあるしでココ案外、明るいし。

 良く撮れた。さっすが!俺。と、携帯デンワ。

 

 「何してんだよ!?お前・・・・撮るなら撮るって・・・・」

 「んじゃ、いくぞ?」

 「え?ちょ、ちょっと待て」

             

 

 ピョロリーン

 

 

 「おい!?」

 面白れー。




 

 学校じゃ見れない今の髪型を何時でも見れるように、暫く独り占め出来るよーに。

 欲張んねーから今日は、これだけ。













 良いもん撮れた。明日、写真屋行って現像。

 でも俺、ちょっとマジ死ぬかと思った。



 

 「おいコラ!土屋!!お前も一緒に写れ!」

 

 

 腕を絡めて引っ張られた。

 よろけて何とか踏んばって、気が付いたら密着してて身体が熱くて。

 頬に息がかかるし髪が柔らかく掠って窒息するかと思った。

 

 「よし!撮っていいぞ!!」

 

 

 大声出してはしゃぐコイツを黙らせてえ。

 モロに・・息がかかって・・・・・。


 あの女特有の、っつか山口の匂いとか腕に感じた感触とかも頭に焦げ付いて熱くなってく。

 

 俺もまだまだ青いね。

 

 

 END








 ■まぎょサマのコメント

 拍手の予告通り黒版第4話終了時の土クミ妄想です。
 拙い文章で申し訳ないです。土屋の一人称なんて無茶こいてます。
 4話を見た後、異常なテンションになってしまった結果です。 
 キャラが掴めてないな、とかツッチーがヤンクミを何て呼んでるか分からないよ!(ガタガタ)
 とか・・・兎に角、色々とジタバタする事が多かったですが、 楽しく書けました。
 「ピョロリーン」は携帯電話のシャッター音です。ああいう音が大好きです。済みません。
 少しでも、楽しんで読んで頂けたら本望なのですが・・・・。精進します。