くるくる回る月の満ち欠けのように
アナタに向かう心も変わる。
くるくる回る落ちる花弁
くるくるくるくる
回る回る
輪廻のように
変わる事は不実ですか?
誘う男
「笑ってろよ」
「え?」
扇子を何時になく忙しなく仰ぎながら、斜めに構えた姿勢のまま土屋はボソリと言った。
「そーやって笑ってろっつーの」
立ち上る煙が目に染みて、涙が滲む。
場所は焼却炉前。
時間帯はお昼ごはんの少し前。
ダイオキシンだ公害だと何かと煩い昨今、 焼却炉がある学校というのも珍しい。
昔懐かしいそれは、何処となく味があって良い。・・・とは、いっても。
美しく建てられた新校舎ではなく、忘れられたように聳え立つ3年Dクラスのある旧校舎の裏に備え付けられている。
臭いものには蓋をしろと言わんばかりの・・・
そんな影の部分が、現在山口久美子が教鞭をとる黒銀学院にはあった。
内容上、どうしても普通にゴミとして捨てられない紙に限定して、時々こうして火をつける。
現在炉の中にあるのは、パソコンから出力された生徒の個人情報。
校長が何の為に使ったのか分からないその書類は。使用後、こうして燃やされる。
最近は色々と物騒で、こういった情報は最新の注意を払う。
もちろん、燃え尽きるまで傍を離れられない。
パチパチと燃える火を見ながら久美子は小さく溜息をついた。
「な〜んで皆、嫌がるかな・・・・」
問題は焼却炉の場所にあると、同僚の白鳥教諭は愛くるしく笑った。(もちろん手つだう気はない)
用務員のオジサンですら、旧校舎には近寄りたくないからと、この仕事を一番に嫌う。
・・・で、その行きたくない原因の「担任」である人間がその仕事の担当、という事になるわけだ。
もちろん現在の「担当」は久美子。
冬空に白い煙が立ち昇ってゆく。
4時限目に受け持ちのなかったので、かれこれ一時間こうしている。
なかなかただ黙って待つというのも疲れるものだ。
どうせなら焼き芋くらいやりたい気分である。
そろそろ燃え尽きたかと、火を止めるため覗き込む。
白い煙が顔に当たって、小さく咽った。
瞳から生理的な現象として涙が滲む。
「うわ・・・!」
顔の前で煙を払うようにしながらゲホンゲホンと咳き込みつつ焼却炉から離れる。
目の痛みが中々治まらなくってつらい。
「・・・何やってんの?」
突然にかかった声。
それに慌てて顔を上げると、すらりと高い長身の学生服が立っていた。
自分に目を留め、慌ててポケットに何かをしまいこむ。
「・・・・今、何隠した」
涙で滲んでよく見えなかったが、このパターンからいって、タバコでも吸おうとここへやってきたのだろう。
目を擦りながら当然のように手を差し出す。
「没収」
「え〜〜〜っまだ吸ってないじゃんっ!」
久美子の受け持ちの生徒、土屋光だった。
結局久美子の睨み付ける瞳に、仕方なしといった態でタバコを取り出した土屋は、
未だ軽く咳き込んでいる担任の横に所在なさ気に立っていた。
「没収だけでいいのかよ」
「なにが?」
もう一度焼却炉の中を覗き込みながら背で聞いた久美子に、土屋は呆れた風に言う。
「持ってるだけで、他のヤツなら退学にさせようとするんじゃねえ?」
どこか投げやりに早口でいった生徒に向き直り担任は笑う。
「別に、吸ってねえじゃん」
教師らしくない大雑把な区切りでそう言い切った久美子の目からまた生理的な涙が滲んだ。
土屋はどういったわけか、その瞳に少しひるむ自分を発見する。
「・・・なら、没収すんなよ」
言葉にも剣はなく、少しすねて響く。
久美子もそんな声に軽く笑って返した。
「それとこれとは別〜」
「笑ってろよ」
「え?」
扇子を何時になく忙しなく仰ぎながら、斜めに構えた姿勢のまま土屋はボソリと言った。
「そーやって笑ってろっつーの」
言うなり、常人より幾分長い手を伸ばし、久美子の眦に浮かんだ涙を掬い取る。
唐突な言葉と仕草に、ビクリと久美子の肩が揺れた。
一瞬だけの無音。
けれど、当の土屋がまじめな空気を一蹴して屈託なく笑った。
「なーんて、な。テレんなよ〜」
「なっ・・・つちや!」
半歩後退して張り上げた声。
顔も幾分赤い。
「ウブウブな反応だな〜今時めずらしい」
「ほっとけ!」
さっきより赤い顔をして怒鳴りつけた久美子に、土屋のいたずら心はムクムクと起き上がってくる。
まるで、涙にひるんだ自分を覆い隠すような態度。
「そんなウブウブな感じで向かいの教師、ゲットできんのか?」
「・・・う」
赤い顔が少し青ざめる。
「そんなんだと、いつまでも寂しい一人もんだぞ」
「・・・・くぅ・・・・」
青ざめた顔が更に色を失う。
「まぁ、寂しくなったら、オレが遊んでやるけど?」
ぽかん、と久美子が口を開く。
顔に赤みが戻ってきた。
つつつ・・・と意味深に近寄ってきた土屋は
妙にエッチくさい笑みを顔に浮かべて久美子を覗き込んだ。
一瞬言われた意味がわからなかったのだが、やけに近い顔の位置とその表情に、思わず後ずさる。
顔が一気に朱色に戻った。
「テ〜レてら〜」
手に持った扇子で赤い顔をした久美子に風を送ってくる仕草は、
高校生とくくってしまうには、酷く世慣れた大人の男のようだった。
フイに悔しくなって久美子は声を尖らせる。
「大人をからかうんじゃないっ」
扇子がピタリと止まって。
そこから瞳だけを見せた土屋が、久美子と視線を合わせた。
「からかってるケド、遊ぼうぜってのは、マジだから」
扇子が隠して、どんな表情でいっているのかだけは分からなかった。
でも、真剣そうに響いた声。
恥ずかしくなって背をクルリと向けた。
その久美子の背に、今度は少しだけトーンの高いいつもの声がかかる。
「考えといてねぇ〜っ」
「考えるまでもねえよっ!」
心臓が、妙に早かった。
★有希っち〜!実は結構はまってる土屋→久美子なの〜(笑)
★雪乃っち〜!実は結構ハマッテルんだぁぁ!!(大爆笑)
てか、扇子を扇いであげるところか、顔隠すところか、素敵ーー!!!
ツッチー大人だわぁ!わ、私も是非遊んで頂きたく・・・(強制終了)←あほか