おまけ








古今東西、物語のラストはハッピーエンド。はい、サヨウナラ。
シンデレラも白雪姫も、お姫様は王子様と結ばれて、はい、オワリ。

でも、現実は、そうじゃない。
結ばれた二人には、その続きがあってしかるべきで
白雪姫だって、シンデレラだった、「末永く幸せに暮らしましたとさ」じゃあ終わらないのだ。

山口久美子だって、沢田慎と結ばれて、はいおわり。というわけではない。

これからも、続く未来がある。













熊井ラーメンに集った面々。

クマはもちろん当然居るし。
クマに懐きまくっている隼人、それにつられてきた竜と武田、それに、久々に南と野田も来ていた。
お客、と呼べるかどうかはわからないが、現在熊井ラーメンの決して多くない席を占めているのは、元山口久美子の教え子ばかりだった。

季節は春。
風に乗せられて散ってゆく桜の花弁が、熊井ラーメンの扉が開くと同時に入ってきた。

「よ、ひさしぶり」
そう言って片手を挙げたのは、内山春彦だった。

彼が店内に入ると、こまっしゃくれた笑顔を貼り付けた隼人が
「あ、結婚式に花嫁に逃げられた男だ」
と、指をさしながら言った。
とても辛らつな言葉なのに、言い方ゆえか、本人に悲壮感がないからか、店内にどっと笑いが巻き起こる。
言われた内山も笑って返し、そして
「あ、お前らそういう態度なんだ。へーいいけどねー・・」
そらっとぼけた顔をして、ジーンズの後ろポケットから四角い封筒を取り出した。
「そんな事言う奴らには見せてやんねぇ」
ニマリと笑って封筒をヒラヒラ振ると、そのまま元のポケットへと仕舞い込んでしまう。

「あ!なになに!内山さんっ!それってもしかして・・・」

武田が、もう少しで24歳になるとは思えない幼い表情で、内山の近くに寄ってくる。

彼の幼馴染たち同様、なんとなく、この小さくてどんぐり まなこ をした後輩に強く出られない内山は、しかたがないな、と言わんばかりに後ろポケットから今一度、先ほどの封筒を取り出した。
皆の視線が一気にあつまる。
エヘン。と小さく咳をしてから、内山はもったいぶってその薄い封筒の中から一枚、紙を取り出した。
手の中のそれは、一枚の写真。
青い空を背景に、中央で二人並んで笑っている日本人と、その周りを囲むようにして笑っている異国の子供達。
写真の裏側には短く走り書きで
「元気か?」
とだけ書かれていた。

「しん・・・」
「ヤンクミも」

内山を囲むようにして集まっていた男達から、小さな、吐息がもれる。
店内は急に静かになった。

集まった皆がそれぞれに思い思いの表情を浮かべ、今は遠く旅立った二人の人物を思いうかべる。


結婚式から4ヶ月が過ぎていた。
慎と、そして久美子が日本を旅立ったのは、その結婚式のすぐ後だった。
慎がさらって行ったといった方がしっくりくる。
そんなわけで、結婚式の招待客に頭を下げたり、色々キャンセルしたりという面倒な作業を、内山は全部一人でこなした。
だけれど、その顔には、どうしても隠しようのない笑顔がのっていたけれど。



慎と久美子の二人は、慎が6年近く生活していたアフリカにいる。
ボランティア団体の仕組みはいまいちよくわからないが、久美子もその団体に入ったようだった。

慎が建てた学校で、久美子が数学を教える。

そんな生活

二人には、とても似合っている、と、皆が思っていた。



「元気か?じゃねえよなぁ!お前らはどうなんだよっつうの!」
野田が茶化したようにそう言って、赤い目を擦る。
「幸せそうじゃん」
竜が写真を覗き込んで、少し日焼けした顔で満面の笑顔を浮かべている、かつて愛した女の顔を見た。

それは、竜が言うように、本当に本当に幸せそうな笑顔で

この同じ地球の上で、二人は今も一緒なのだろうと、皆が感慨深く思った。



花嫁に逃げられた男は、その写真を大切そうにそっと封筒の中に戻した。
皆がそれにつられて内山が入ってきた時の定位置に戻る。

内山は封筒を、そっとポケットにしまう。
共犯者に、なれなかった・・・ならなくてよかった、男。

こうして今二人がどこかで笑っているのなら、あの数ヶ月前の結婚式も、無駄な事ではなかったのだ。

「クマ!俺、ミソ大盛り!」

言いながら、内山晴彦も、写真の中の二人に負けないような幸せな笑みを浮かべた。








物語は終わったわけではない。

これからも
二人の歩く道が
白いページに書き綴られてゆく。

しあわせな

幸せなストーリーを・・・









end



2007.4.20

*ラストコメント*
 皆様こんにちは、雪乃です。
 長らくお待たせしていた連載も、これで最後となりました。
 オーラスですv
 けっして短くない日々、この小説を読みつづけて下さった方
 そして、こんな所まで読んで下さってる方、本当に本当に、ありがとうございます。
 このお話は今までの自分では考えられない、一度完結させたお話を、もう一度書き直し
 さらには違う結末にするという、なかなかに大胆な試みから生まれたものです。
 常に登場人物たちが苦境に立たされ、書いてる自分も不幸のループに巻き込まれた気分で
 書いておりました(苦笑)
 それでも、こうして終わりを迎えられて、今はホッと胸をなでおろしています。
 もしかしたら、読んで下さった皆様の望む結末ではなかったかもしれません。
 「え〜・・・」なんて思ってる方もいるかもしれません。
 それでも、過去に一度不幸にしてしまった『彼』を幸せにしたくて書きました。
 自分なりではありますが、幸せにできたんじゃないかな、と思っております。

 このお話の二人のように、間違った道をその時は選んでしまっても
 必ず、努力さえすればやり直せるのだと言うことを、皆様に伝えることができていればいいな
 そんな風に思っています。

 長くなりましたが、ここまで読んでくださって本当に本当にありがとうございました

 皆様にも、慎と久美子のように
 必ずいつか、道が重なりあう運命の人との出会いがあればいい
 なんて、思っています。


 雪乃