(注意)
書いた人は、久美子総受け大好き人間です。
慎久美もちろん大好きですが、内久美も大好物です。
慎×久美しか受け付けない方は、お読みにならならないで下さいね。
読んでからの不快なクレーム等、一切受け付けませんので、あしからず。
それは。
地元ではある意味有名な、白金学院に俺が通っていた頃の話し。
その女は人なつっこくて、よく喋って、怒ったり、怒鳴ったり、コロコロ表情を変える。
いつもクラスの真ん中に居て、眩しい笑顔を振りまく。
それは、まるで太陽みたいに。
片恋物語
どうやら俺のハートは、その太陽に盗まれた。
・・・・らしい。
「くさっ・・」
自分で勝手に自覚して、勝手に思った事を心で呟けば、おもいきっきり寒くなってしまった。
「ん?ナニ?何か匂うか?」
「え?…あ…・。」
「言っとくけど俺じゃねぇぞ!南だろ?」
「バーカ。俺だって違うっつーの!」
「「「・・・て事は?」」」
「・・違うし。」
今思うと、俺達の日常は当たり前の様な幸せと、ほんの少しの退屈で満たされていた。
その少しの退屈と、穏やかな日々は、何だかとても心地よくって
こんな日々がずっと続けばいい。
そう本気で思っていた。
「あっ!ヤンクミが来たー!!」
「えぇー!?もう来たのかよ!?」
昼休みの屋上。
休み時間に拘らず、俺達はココに来る事が多い。
俺達が居る場所や、3Dの生徒が出没する場所に彼女が現われるの事もゴク普通な事で。
「…さてと。」
屋上の出入り口のドアの側。
キョロキョロ獲物を探すかのような、そんな彼女を尻目に、吸っていた煙草を皆が一斉に柵の外に放り投げる。
コレにも手馴れ、習慣になった今日この頃。
「オース。皆で仲良くお食事中だったかなー? アレ…ん?何か匂うなぁ。」
「だ〜か〜ら〜!俺じゃねぇぞ!」
「否定する奴が怪しいものだ。・・・クンクン・・やっぱりお前じゃねぇか!煙草臭せぇ。。(怒)」
言い訳する間も無く細い手が飛んだと同時に頭を一つ叩かれ、こっぴどく叱られるクマ。
俺はその光景に思わず吹き出し大爆笑。
仲間も一瞬後ずさりしたが俺に釣られたのか、口を引きつらせながら笑っている。
そんな無責任な俺達をクマは口を尖らせながら恨めしそうに睨んだ。
仕方ねーな。
元はと言えば俺のせいだし。
コレ以上はクマが可愛そうだもんな。
溜息の後に仲間のために助け舟を出す。
「あっ!そうだ〜ヤンクミ、この飴超上手いぞぉ。いる?」
「(ガミガミ!)・・・・おぉ!?いるいるーー♪」
今まで怒っていた事も忘れたかの様にイソイソと俺の前に来ては、
その華奢で色白の小さな手の平を差し出しては満面の笑みを向ける。
まるで子供。
その彼女の単純な行動には毎回呆れ苦笑してしまうけど、あまりにも嬉しそうに俺に笑みを向けるから、何だか照れくさくなってきて…
まったく。
調子狂うぜ。
そんな自分の心境を隠すかのように髪をかき上げ冷静を装って、差し出されたその手の平に優しく飴玉を落としてやる。
「ありがとうー!内山。」
「どーいたしまして♪」
やっぱ眩しい奴。
無邪気にその笑顔を向けられる度に思い知らされる。
俺はこの女が好きなんだって。
そして、それはきっと彼も一緒なのだろう。
今の俺達のやり取りを冷静に、静かに眺めていて、唯一自分の気持に自覚しているであろう彼。
彼は無口で、いつも友達や、その太陽の話しを聞きながら、とても静かに笑う。
「・・・・前途多難。」
「「「「「 ハッ!? 」」」」」
「俺先に行くから。」
ボソリと言った彼の言葉に皆が目を丸くさせ疑問を伺う顔付きをした。
もちろんソレは俺も一緒の事だったが、屋上を後にする彼と刹那的に目が合ったその時、その言葉が俺に向けられたもののだと分かったんだ。
「俺も先行くわ。ワリィ!」
益々目を丸くさせる面々をその場に取り残し、居ても立ってもいられなくなった俺は、屋上を後にした慎の背中を追った。
正直俺の気持に気付いた事に驚き、戸惑っていた。
いや、彼の事だからもっと早く気付いていたのかもしれない。
勘が良くて周りの空気を読むのがいち早くて。
そんな彼の事だから気付いていても当然で、可笑しくはない。
でもそれ以上に俺は分からなかった。
彼を追って俺は何をしたいのだろう?
何を言いたいのか?
そして何を聞きたいのか?
「ウッチーも何か飲む?」
やっと追いついた彼は、コチラの心境とは全く違う様な何とも涼しい顔付きで、
学食の側の自動販売機で今日2本目の缶コーヒーを買いながら俺にソレを聞いた。
「奢りなら飲む。」
「…何を?」
「レモンティー♪」
彼は背を向けたまま静かに笑うと、俺の注文通りの品を買いソレを手渡した。
人が少なくなった学食。空いた席に無言のまま腰を下ろす。
「サンキュー」
「どーいたしまして。」
その彼の一言は、屋上での俺と彼女とのやり取りに似ていて
何だか心を見透かされている様な気がして、思わず言葉に詰まってしまった。
気まずい様な、そうでない様な、ただ沈黙のまま、昼休みが流れていく。
「もうすぐ卒業なんだよな…。」
そんな中、先に言葉を発したのが以外にも彼からだった。
元々言葉数が少ない彼がその時何を言いたかったのかハッキリとは分からなかったけど、コレだけは分かったんだ。
話しの先にはあの太陽がいる。
コレだけは。
「何でかな…ホント。」
何で……かな?
その言葉は色んな意味で取れる訳で。
「何で今更になって卒業したくないとか思うんだろ」とか、色々。
ちなみにコレは今の時期3Dの連中の口癖になっている言葉。
でもその時の俺は理解していた。
「何でアイツに惚れたんだろ…。」 彼がそういう意味で言ったということ。
「・・やっぱ好きなんだ。」
「・・・。」
「告白しねぇの?」
「・・・・しねぇよ。」
―何で?
言葉には出さず、前に座る彼を真っ直ぐに見た。
すると諦めたかのように、銜えた缶が彼の手から離され、机の上に「コン」と音をたてて置かる。
少しの沈黙。
彼は静かに話し始めた。
「自分だけ気持伝えて楽になる訳いかねぇじゃん。」
「・・・・。」
「アイツ馬鹿だから、そんな事言ったら必死で考えて、悩んで、苦しい思いするだろ。…だから。」
「・・・・・・そか。」
「次、答えるの、お前の番。」
「お、俺は…。」
俺は―――
「そんなの分かんねぇよ。」
弱々しく小さな声でそう彼に答える事が、その時の俺には精一杯で。
そんな自分がまたたまらなく情けなくて、苦しくて、胸が一杯になった。
だって。
初めからこの気持を伝えたいとか
この恋をどうこうしよう何て、思っていなかったから。
でも親友とも呼べる仲間が、あまりにも彼女の事を大事に想っている事を目の当たりにして・・
言える訳ねぇじゃん。
とか思って、さ。
「・・・・そっか。」
…そう。
ただ、好きなだけ。
ただ見てるだけ。
ただそれだけの、俺達。
−−−−−−−−−そして、その少し退屈で穏やかな日々は確実に流れ
俺達はこの片恋心を抱いたまま卒業したのだった。
彼は卒業と同時に日本を離れた。
深い意味は聞かなかったけど、彼の事だから色んな事を考え出した結論なのだろう。
それにとやかく言う気はなかったし、何かを決断した彼は、とても大きく見えて、正直格好良いと思ったから。
ただそんな彼にに一つ言った事と言えば、「寂しくなったらいつでも電話しなー!」 くらいで、
もちろん彼からは冷静なツッコミが返ってきたケド。
「アイツにも同じ事言ってたじゃん。」てさ。
彼と最後に交わされた言葉のやり取り。
今でもその時の光景が過ぎり、思い返せばまた頭が痛くなる。
「あのさ、うっちー」
「ん?」
「俺に合わせたり、もういいから。」
「ハッ!? 何言ってんの!? 訳分かんねぇ事言ってんじゃねぇよ。 お、俺は・・・!」
慌てて否定しようとしたその時、彼の少し強い口調と、真っ直ぐに見つめる眼差しが俺の言葉を完全に消し去った。
「いつか俺が帰って来た時、俺は誰にも気なんて使わない。お前にも、アイツ自身にも。・・・・・・だから。」
――お前もな。
とでも言う様に、その後は無言で肩をポンと2回叩かれた。
それでも俺はそんな彼に対して冗談ばかり言って笑い飛ばし、結局は聞き流す形になったまま、親友を見送る事になった。
***********
卒業してからは、仲間達と連絡は取り合っても中々揃って会う機会が出来なくて、たまに会っても、どうでもいい話しが多かったと思う。
でもたまに揃う仲間との他愛も無い時間が俺にとっては、とても穏やかな気持にさせてくれた。
彼女からは毎年整った字で書かれた年賀状が届き、俺はコンビにで買ったハガキに、「今年もヨロシク!」 なんてありきたりな文を書いたけど、
「今年もって・・・会ってねぇし」 自分で書いて苦笑した。
一度、成人式の2次会で慎も顔を出し、彼女も誘い、久しぶりに3Dメンバーが全員揃ったけど・・
結局すぐに今の受け持つ生徒がまた問題を起こしたとかで、彼女とゆっくり話す機会は無かった。
彼はその時も、いつもの涼しい顔付きでバタバタと店を後にする彼女を見て静かに笑いながら送り出し、そして彼もまたこの街を後にした。
彼女は彼女の今の生活があって、相変わらずの時間に追われた日常を走り回っている。
そしてそれは皆も一緒の事。
その事実に少し胸が痛く、寂しくもなったが
その日の2次会、俺は誰よりもはしゃぎバカ言って騒いだ。
もうすぐ卒業してから、3度目の夏が来る。
NEXT
--------------------------------------------------------------------------------
それは本当に偶然だったんだ。
外は30度を過ぎて暑かったけど、店の中は肌寒かった。
仕事が休みで、暇つぶしに来たパチンコ。
まさか、こんな所で彼女に会うなんて。
片恋物語 その行方
「ありえねぇ・・・。」
思考回路がまだ回りきらない中、俺は一人呟く。
世間ではたしかこの時期学生は夏休み真っ只中。
間違いない。
全神経を注ぎ一つの台に集中しているその姿。
「勝負事には絶対負けてはいけない」
口癖だったその言葉が懐かしく思い出される。
あの女は、俺の
「アレぇ? 確かお嬢の生徒さんだって人ですよね?」
「え?」
何処か懐かしい顔ぶれが、俺の顔を覗き込み問う。
この人は、確かアイツの弟分とか言ってた人だよな?名前はミノルさんだっけ…。
「やっぱりそうですね!立派になられて・・・あっ!そうだ、お嬢…!」
両替に行っていたのか、行かされていたのか。
彼は数枚の千円札を握り締めたまま、数メートル離れた彼女に歩み寄ると、店がうるさいせいか耳元で何やら大声で話しかけている。
瞬間。
バッ!!と、こちらに振り向き俺に指差しながら・・(呆)
「あぁぁぁぁあーー!?お前ーー!?」だな。
パチンコ店の大音響の中だが、口の開き方と、その相変わらずの分かりやすいリアクションで、何と叫んだのかを理解した。
それに答える様に「よっ!」と手を軽く上げると狭い通路を満面の笑みで歩み寄って来た。
その姿は、また太陽を思い出させた。
「外」
彼女の精一杯の背伸びに対し、俺は少しかがめ気味で彼女に耳を貸す。
こんな些細な事も昔の記憶を思い出させるには俺にとっては十分で
「・・懐かし。」一言が頭を過ぎった。
「了解!」の仕草を彼女にすれば、それに対して微笑みながら大きく頷くと、台の隙間を通って店の外へと俺を促した。
店の外に出ると、今まで温度の差と大音響からの開放がやけにリアルに感じた。
「お前久しぶりだなー!!いつ以来だったかなぁ?」
「成人式の2次会以来。・・・だったと思う。」
「えぇ!? そんなにかぁー! あたしも歳を取る訳だなぁ。」
「そうだなー。」
「うんうん…て、否定しろよ!・・・たく、お前は・・・・立派になっちゃってーvv あたしも少しはいい女になっただろ?どう?」
「どうって・・(呆) お前は何にも変わんねぇよ。」
「・・チェ。つまんねぇの。」
本当は違う。
彼女を見かけた時、心臓が音をたてて鳴り響いた。
彼女らしいジーンズに白いTシャツ姿は、細くて華奢なその体の線の持ち主の彼女にはよく似合っていて、
この暑さのせいか、髪をアップし眼鏡が外されたことで、その整った顔立ちが見てハッキリと分かり
小さな顔の顎のラインと、首筋からうなじにかけてが何とも色っぽい。
誰が見ても綺麗なお姉さんで通るだろう。
そしてこんな綺麗なお姉さんが、何故に一人でパチンコを?とも。
外の暑さも忘れ立ち話しに花を咲かせる。
彼女にとって俺は、生徒の時で時間が止まっているのだろう。
癖である頭を撫でる仕草が俺にそう思わせた。
「あぁ!? こんなに時間が経ってしまったとは・・悪ィな。せっかくの休日のパチンコの邪魔をしちまったなぁ。」
細い手首に付いた腕時計を気にしながら謝る彼女を見て、その時胸に込み上げてきた気持をどう表現すればいいのだろう。
とても切なくて、痛くて。
今度会えるのは、年賀状の中か。
「また暇な時にでも、飯でも行こうじゃねぇか!」
「・・・・。」
「皆で集まる時は、あたしを忘れずに誘えよなー! …て、オイ。 聞いてんのか?ボーとして。」
「俺今晩、暇なんだけど。」
「へ?」
「召集かけて……みる?久しぶりに。」
目を丸くさせながら俺を見上げる彼女に悪戯な笑みを一つお返しすると、
みるみるうちにその顔には笑みの花を咲かす。
だが冷静を装うかのように、彼女は一つ小さく咳をすると胸を張り、腰に手をあて、威張った様に俺に言う。
念を押すのも忘れずに。
「こ、来ない奴は後が無い伝えろよ!」
「…了解。」
「・・で??どう言う事かなぁ?内山」
「そのー・・・皆、色々と忙しいのかな?」
「だからって誰も来れないって、ソレは無いんじゃねぇのか!?」
まず初めに野田・南・クマに電話した。
「今日暇?」と聞いたら3人ともそれなりにの「暇」が返ってきたが、事情を話し傍に彼女が居る事を伝えると何故か
「暇じゃなかった」に返事が変わり、携帯を切られてしまった。
元3Dのメンバーにも電話しいてみたが、圏外にいる奴が何故か多く、繋がっても確実に断られた。
それはアイツラが手を回したとしか思えない行為。
しかも3人とも電話を切る時に揃いも揃って、「まぁ頑張れよ」て何な訳?
まさか、アイツら昔の事知ってたとか?
まさかな。
「俺と2人じゃ…不満ですか?先生。」
「バーカ。そんな事ある訳ねぇじゃん。」
「そう言うと思った♪」
「・・チェ。えらそーに。あたしをだな、そのー…独占出来て幸せに思えってんだ!」
思ってるし。
とは、さすがに言えない。
苦笑しながら「はいはい」と軽く返事をして、仲間とよく行く近くの飲み屋へと彼女を誘った。
こうやって2人向き合ってゆっくり話すのは、もしかしたら初めてなのかもしれない。
笑ったり、怒ったり、忙しい彼女との会話は飽きなくて、あの頃の時間が戻った様に感じた。
説教されたら、褒められて。
頭を叩かれたと思ったら、次は撫でられて。
笑ってると思ったら、嬉泣きに変わって。
ホント見てて飽きない奴。
お互いの近況報告でも、こんなに楽しく話せるのはきっと、コイツだからだと思う。
ホント
嫌んなる。
俺から誘ったから奢ってやるって何度も言ったけど、ソレは断固却下された。
理由は一つ。
奢りだと次に誘う時、気を使うから。
ソレを聞いては俺も納得するしか無くて、ワリカンを承知した。
夜道を肩を並べて歩く。
チラリと横の彼女を見下ろすと、何処か満足した様子な穏やかな顔はやっぱり綺麗で
反則だろ。
ホント、嫌んなる。
「少しは、女らしくなったじゃん。」
「少しは!? 第一だなぁ、あたし喧嘩はもうしてねぇんだぞー。」
「そういう事威張んな。・・・ケド何で?」
「・・う。ヤバイだろ? 色々と有名人になっちゃったからな;」
「ふ〜〜ん。有名人ねぇ。。」
その時、何故だか嫌な感じがしたんだ。
彼女らしくないと言うか、作っいてる彼女と言うか・・
俺の知らない彼女を見てるみたいで嫌だったのかもしれない。
頭の中の思考回路がグルグル回る中
一軒のコンビニが俺の目を引いて足を止めさせた。
「・・あ!俺、コンビニで雑誌と煙草買いたいんだけど。」
「おう!煙草は余計だけど外で待ってるよ。早くしろよーヨソの男があたしをほっとかないんだからー。」
「はいはい」
今日何度目かの返事を残し店に入ると、俺はお目当ての雑誌コーナーへ向かう。
・・て言うか。
本当にナンパされるか、普通。
まあ、仕方無い気もするけど。
コンビニのガラス越しに見える3人の男達に囲まれ声をかけられている彼女は
困っているのか、慣れていないせいなのか、俯いている。
――え?
今、一瞬泣いている様に・・
俯いた顔を上げて、暗く冷たい顔で男達を睨み上げる彼女。
ま、マジびびったー。
ナンパぐらいで泣かないよな・・普通。
仕方ねーな。
アイツの男の振りをするのは少し気が引けるけど・・人助けだもんな。
そう、人助け。
それが人情って物だよな、うん!
意を決して自動ドアを潜り抜けた時に耳に届いた男達の声。
その言葉に理性が飛ぶくらい腹が煮えくり返る事になろうなんて・・
その時の俺は予想すら出来なかった。
「極道の女ね〜!」
「お前よくそんなんでセンコー何かなれたなぁ〜!」
「極道の娘だからあんなフキダマリの学校でしか働かせてもらえないんじゃねぇの?」
「「「 アハハハハハ!! 」」」
「・・オイ。もーいっぺん言ってみろよ・・。」
――プツン。
頭の何処かの線が切れたと思う。
しかも何本も。
無意識に一人の男の胸ぐらを掴んだと同時に、自然と発していた言葉。
「う、内山!?あたしは、いいから止めろって!!言わせておけばいいんだから!」
「俺が良くねぇんだよ!!」
この状況、この空気、もちろん殴り合いの喧嘩に発展。
でも相手は5人。
結局フクロ叩き状態になってしまい地面でうずくまるしかなかった。
でも
それでもその時は痛くなかったんだ。
本当に痛かったのは、俺のこの胸。
アイツの弱気な態度と、必死で睨む事しか出来なかったあの瞳に、締め付けられる様に胸が痛かった。
ドン!!
何・・今の音?
心臓がうるさいくらい音をたてる。
道路にうずくまった体をゆっくり起こして、その鈍い音がした方に恐る恐る視線を運んだ。
そこには紛れもなく彼女が倒れていて、喧嘩を阻止しようと割って入ったのか
力一杯に押された身体は飛ばされ、その反動で電柱に頭をぶつけたのだった。
さすがにその光景を見て焦ったのか、男達は捨て台詞を吐いて走り去って行く。
「ヤンクミ!!」
「い、痛ってぇ・・」
「ばかっ!「何で・・!何で無茶すんなよ!」
「悪ィ悪ィ・・っ! お前が気にすんなって・・な?あんな事くらいで・・・」」
もう、気に何かしてねぇよ。
俺が気にしているのは・・ヤンクミ
お前なのに。
「あんな奴ら…勝てたのに…このお節介野郎。」
「親切…と言え」
「ちっとも女らしくねぇじゃんか。」
「はは、そう・・だな」
――それから彼女は気を失った。
「先生何だって!?」
「軽い脳震盪…。」
「…そう。良かったわ。本当に。」
「…ん。そうだな。」
「でもビックリしたわー!」
「・・・。」
「玄関のドア開けたら、あんたが山口先生おぶって立ってるんだものー!」
「俺も・・ビビった。」
「え?」
「あんな事あったのに、コイツ笑うから。」
そう、気を失う前、コイツは俺を見てふわりと嬉しそうに笑った。
呟くように言った俺のそんな弱々しい声を母ちゃんは黙って聞いて、頭を一つ撫でた。
それは彼女がいつもするみたいに。
何だか、それが俺には泣けた。
「春彦、お母さん少し出かけるから。責任持ってしっかり看病すんのよ!」
ハジメハ・・
この恋をどうこうしよう何て思っていなかったんだ。
たた好きなだけで
ただ見てるだけで幸せだった。
でも今は
今は違う。
「う、内山・・?アレぇ?ココって。」
「軽い脳震盪だって。・・・俺、寿命縮んだかも。」
「・・あぁ、そっか。あの時か。」
「・・・。」
「お前ん家に運んでくれたんだなぁ、悪かったよ。すまん!」
「大丈夫なのかよ?」
「ん?あ〜もうバッチリー♪ こんなの平気、慣れてるよ。」
「慣れるなよ。」
「あ、ハハハ・・今度、飯奢るからさ!勘弁してくれよなー。」
彼女は同じ事を成人式の晩にも言っていた。
そんなのその場だけの口約束。
俺はそういう風にしか取れないくらい、どうかしていたのかもしれない。
イソイソと帰る支度をする彼女を見ていると、また胸が締め付けられる感覚に襲われた。
だから止められなかった。
気付いたら後ろから彼女を抱きしめていた自分。
抱きしめた彼女が逃げ様とすればする程、抱きしめた手に力が入らずにはいたれなかった。
「///ちょ!? な、オイ!何やって・・内山!?」
「お前、親切だって言ったよな?」
「・・え?あ・・あぁ言ったけど」
「じゃあ、親切序でに教えてくんない? 俺どうしたらいいのか、もう分かんねぇよ!」
「お、落ち着け!れ、冷静に・・!」
俺はもうあの時みたいになれねぇよ。
慎みたいには想えねぇ。
「もう、開放してぇよ…。」
その時、腕の中の彼女の動きがピタリと止まった。
その行動が俺の最後の冷静さを取り戻した。
それは最後のチャンスみたいに。
抱きしめていた彼女をトンと突き放し開放してやる。
「ヤンクミ…今言った事忘れろ。」
「へ?」
「いいから・・お前もう帰れ。 もう嫌なんだ。・・・・・振り回されるのは。」
「・・・そか。色々悪かったな。」
少しの沈黙の後、
潤んだ寂しげな悲しい目でソレを言うから、俺は彼女を見れなくなって背を向けた。
何でお前が謝んだよ。
パタン。
ドアが閉まる音が聞こえたと同時に俺はしゃがみ込み頭を抱えた。
・・・・・何やってんだか。
これじゃあ、あの時出来なかった告白みたいじゃん。
でもこれでやっと終わったかな・・。
・・そう・・
彼の片恋物語が。
いつもの毎日が始まった。
時間と仕事に追われ、体がどうにかなりそうなくらい働いた。
夜勤にも自分から進んで出た。
くたくたで家路に着けば、ベットに直行の毎日。
慣れというのは怖い。
そんな生活にも、もう慣れた。
しかし、彼女と最後に会って2週間が過ぎた頃それは起きた。
俺が生きてきた21年間の中で最大とも言える事件。
仕事が終わり、携帯を何気に確認したら目に留まった一本の着信履歴。
着信の主を確認して大きな溜息と共に、その場にしゃがみ込んだ。
――着信 山口久美子
どういうつもりだ。あの女は。
けど…何かあったとか?
からまれた、とか。
普通の女ならありえない事ばかりを想像する自分に対して呆れた。
でもアイツは普通の女ではないのだ。
悲しい事にもそれが事実。
かけようか、かけまいか悩み悩んだ末 ――発信ボタンを押した。
『 はい、はーい 』
この女は
何様?
一度立ち上がった体は、またも虚しく崩れ落ち、しゃがみ込んでしまう俺。
冷静になるために、しゃがんだまま煙草に火を点けた。
溜息混じりの煙を吐く。
『 何だよ…何かあったのか? 』
『 えーっと、寂しくなったら電話しろー。って言ったじゃん 』
『 …からかってんの?…はぁ。お前さ、分かってんの? 』
『 うるせーー!!黙りやがれーーー!! 』
キーン。
耳が痛いくらいの大声でいきなり怒鳴られる。
「うるさいのはお前の声だっての・・・」 携帯を耳から少し離して一人呟く。
『 わ、分かってるよ!バカ!大バカ!内山のバカー!! 』
今、この女はバカって3回言ったよな?
いや、今はソコが問題じゃなくて。
コイツは一体、何を怒ってんだ?
『 し、親切ついでに、お前はバカだから教えてやる! 』
『ハぁ!?』
『ハッ!じゃねぇーー!!バカヤロ!耳の穴かっぽじってよ〜く聞きやがれー! 』
頭の何処かの線がとうとう切れたか……前から少し危ない奴だとは思っていたが。
聞けと怒鳴られては聞くしかない、今のこの状況。
『 その…あたしは。お前に付き離された時・・悲しかったんだから!
苦しくて胸が痛くて…。 しかもお前はバカだから忘れろとか、訳分からない事言うし、
忘れろっつても毎日毎日お前の事が頭から離れないし…一体どうしてくんだい!?えぇえ!?
振り回されてんのは、あたしだろーがよ!!違うかい!?男なら責任取りやがれぇー!!もう、バカヤローー!!』
『 …バカが7回 』
『 ハッ!?お前…人の話しはしっかり真剣に聞けって何度もあたしが教えただろうーが!!
このバカ!てめぇ〜〜(怒)あたしに喧嘩売ってやがるんのかぁ!?えぇ!?どうなんだい!?』
8回になったし。
でも、本当に俺はバカなのかもしれない。
いや、この際、バカでも何でも良いかも。
『 ヤンクミ…。責任しっかり取るからさ、とりあえず… 』
『…っ?? 』
『 今、何処? 』
左手の指に挟んだ忘れられた煙草。
長さに耐えきれなくなったその灰は音を立てずに静かに地面に滑り落ちた。
――それから、この恋の行方がどうなったかと言うと…。
真夏の太陽の下
約束の場所に中々現われない彼女をひたすら待ち続ける一人の男の姿。
「遅い!」
「すまん!」
「じゃあ…行くか!」
「お、おう!」
「あ…えっと、今日は、お初デートの方よろしくお願いします。」
「フッ。こちらこそ」
照れ笑いしながら2人お辞儀の後、彼女の歩くスピードに合わせてゆっくりと進み始める。
行き先なんて決まっていない。
ただ歩いて、気に入った店で買い物して、疲れたら側の店に入って、休んで
そんな事をしたい。
「手でも…つなぎますか?」
「そうしますか?」
好きだと言うのは難しい。
でもそれは、彼女を諦めるよりかはきっと簡単な事。
「好きだかんな」
「今更じゃん」
「…可愛くねぇ。」
あの頃、眩しくて、届かなくて、手に入れられなかった太陽。
でも今はすぐ側に居て暖かい時間を与えてくれる。
ホラ
手を伸ばせばすぐ側に。
「キスでもしますか?」
「そうしますか?」
2人クスクス笑いながら人目も気にせず優しいキスをする。
真夏の太陽がそんな俺達を優しく見ていた。
――少し退屈で穏やかな日々がまた始まる。
END
今は亡き・・・・いやいや;
以前運営していた「purely」のデータから、1作引っ張ってきました;
少し手直ししました。
懐かしいやら、恥ずかしいやら;
たまにはウッチーにも幸せになってもらいましょ。
ごくせん万歳。
有希より。