一番印象的な感情で脚色された記憶



* 黒銀第一話前後、隼人視点。
  恋愛色ほぼ皆無。




気がついたら殴ってた。
無我夢中で。
全てをなかったことにでもしたかったのだろうか。
自分が傷ついているのがわかった。
みっともねぇけど、それを否定したがったのは事実だ。

腹が立った。ムカついた。許せなかった。
『血管ブチ切れる』ってのは、まさにあんな感じだ。

竜の表情の穏やかさが、余計にオレを苛立たせた。


頭を下げたって?
オレに相談も無しに動いたって?
言い訳するコトなんか何もないって?

荒高のヤツらなんかに、アイツがバカにされた?!

何もかもが許せなかった。
何もかもが気に食わなかった。
何もかもだ。

アイツの顔を見るのも嫌だった。
何を考えているのかわからなくなった。
いや、今までは、『何を考えているのか』なんて確かめる必要もないくらい、一緒だったんだ。
一緒だと思っていたんだ。


自分が勝手に、一方的に信じてきただけなんだって。
いっつも一緒にバカやって、ケンカしてもオンナできても、アイツとは変わらないとか、
そんなコトをマジで信じてたかもしれないオレを全部否定された。思い知らされた。

なんでなんだ。
疑問はなに一つ解決してないのに。

『なんでだよ?!』

確かに目の前に答えはあるはずなのに、それを決して口にしようとしないアイツに対して、
オレは殴る以外になにができたって言うんだろう。
オレみたいなバカに。

そのまま竜は学校にも来なくなって、タケのフォローも、都合良く竜の親と話つける学校も、
アイツがオレから逃げたんだって事実も、もうどうでもよくなった。
もともと考えるのなんか得意じゃない。

アイツは言い訳さえしないんだ。


***


あぁうぜぇな…。

ご機嫌ナナメなオレ様に、注意なんかしちゃってんじゃないよ。
…だったかどうかは忘れたけど、とりあえず救急車で運ばれてった担任は、辞表を出したらしい。
思ったよりもショボかった。

んでもって、この学校にはもったいないオレ様は、もったいなくもクビになるんだろうとか思っていたら、
ただ担任が変わっただけだった。
学校もショボ。

ショボいと言えばあの担任だ。


『仲間のコトだろ。気になんないのか?』

何にも知らないセンセェサマがおっしゃる。
説明はおろか、茶化す気にもならないほどの無神経なモノ言い。
蘇るのは、あの記憶。
あの感情。

残念なことにオレの中で不動の位置を譲ろうとしない、鮮やかすぎる傷跡だ。
一閃、ホントに血が吹いたかと思ったんだ。

――あいつはオレを、ダチだと思ってたわけじゃなかった。

それがそんなショックなんて、悔しくて認められないけど。

もともとエリート坊ちゃんは、オレたちのことバカにしくさってたんだよな、なんて
今までの関係全部ぶち壊すような卑屈まで沸いてきて、
もうきっと自分じゃ、引き返すきっかけなんて見つけられなかった。


その隙間に不協和音が挟まれた。

工事現場に担任。
そのメガネに金を押し付ける竜。
それを気にするタケ。
こいつも絶対何かを隠してる。

問いただす気なんてさらさら無いんだけど。
そう言い訳しながら、気にしないでなんて居られるわけがなかった。

竜が先公に尻尾振るなんて、それこそありえない。
そうは思うのに、ここまでの経緯がその確信さえグラつかせた。

でも竜が例えばそこまで堕ちるなら、今度こそ吹っ切れると思った。
諦めも潔さも人一倍だと思ってた自分が、まだどっかで諦めきれずに拘っている。

それくらい大事な『仲間』だったから。











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懐かしき黒銀1,2話目らへんを思い出しつつ書きました。
センセイを人身御供に、よろしくやってる二人・・・前編。いや、恋愛とかでなくね。
うちノーマルカップリングサイトですから(笑)個人的な妄想は止めませんが。

二人そろってセンセイ好きなクセに、なんとなーくお互い触れない。
この後のそんな二人を想像したら、できてしまったモノローグ。

後半へ続く