随分、子供のような嫉妬をするようになったと思う。



例えば久美子が此方を見なかったり、自分以外のモノに興味を惹かれていたり



たったそれだけで、竜は自分が燃えるのだと知った。















馬鹿らしい。 久美子が何を見ようと勝手ではないか。





馬鹿らしい。 幼い子供じゃあるまいし。





馬鹿らしい。 そんな事で切ないと思う自分が何よりも。 





馬鹿らしい。 こんな簡単に呼吸を奪われそうになるなんて。







非道く馬鹿らしくて、苛々する。





















キミは  いつも  呆気ない  くらい  簡単に





僕  から  呼吸を  奪う  けれど





キミは  気が付いて  いる  ?

























 094 『 タスケテ ハニィ キミじゃなきゃ、僕は呼吸を取り戻せない。 』 



















立ち寄った雑貨屋に並ぶ、クマのぬいぐるみを久美子はじっと見ていた。



その右手に、竜の服をギュッと握って。









服が伸びるとか、どうせなら手を握ってほしいとか



思うことは色々あるけれども









甘やかしてるとか、このままじゃいけないとか思うのだけれど





それでも竜は、久美子の視界にあるクマのぬいぐるみを半分、奪うようにしてレジに持って行く。

















「これ、会計お願いします」



「ハイ。780円、頂戴致します。ラッピングしますね」











何が嬉しいのだか、下世話は笑みを振り撒く店員が少し気になるけど







「お、小田切?!」



「うっせ。欲しかったんだろーが」







それよりも気になるのは何時でも貴女の事だけ。









「…ほらよ」



「え、わ、わ………ありがと」



「…………ッ」





ふわり、と笑う久美子が綺麗だと思う。





























貴女は  何時だって 綺麗で、 神聖だから  困る。









貴女は  何時も   その笑顔で   僕から  呼吸を  奪うんだ。

























「小田切は優しいなぁ〜♪」



そのまま何気なくとられた手が、気になって。





「…ヤンクミ?」





何時もなら服の端と持つのに、と。





「ん?だってさぁ、小田切、私が服の端持つとジィって私の手ぇ見てるじゃん。だから手ぇ繋ぎたいのかなぁと」





言外に「嫌なら手を放す」と言われているようで、竜は黙ってその手に力を込めた。











放せないように、逃げられないように。









「…お前の手、熱い」





「小田切が低体温なだけだろー!」









先程の笑顔に取られた呼吸は、何時の間にか戻っていた。









久美子の目の中には間違いなく竜が一番多く入っていて。











呼吸を奪う切欠は、貴女







呼吸を取り戻す切欠は、貴女















手が、とても温かいと思った。











「小田切ー。次、何処行くー?」



「別に」



「あ、お前また別にーって言った!母国語は正しく使え!!」



「お前に言われたかねぇよ」



「な、何だとーッ?!」



















学校でも良くする会話をこうして私服ですると全く違うように思える。





だって少なくとも学生服のままじゃ、貴女の生徒だから。





きっと学生服とか、私服とか、貴女にとって然程の差はないのだろうけど





その僅かな差は時として貴女を傷つけるだろうから。

















「あ、あそこのファミレス入ろう!」



「え、あ…オイ!」



手を引っ張って、半ば強制的にファミレスに入った久美子はパフェと珈琲を注文した。



「…お前、人引っ張って走るな」



「うん。悪いな。あ、珈琲で良かったか?」



ってかもうオーダーしちゃったから飲め、と偉そうに命令する顔が可愛いと思う。



これこそ、色んな意味での惚れた弱みだと思う。















「な、小田切!この子、可愛いだろ!!」



嬉しそうにガサゴソとラッピングを破って出てきたのは先程のクマのぬいぐるみ。



それはお世辞にも可愛いとは思えなくて



「…不細工だな、ソレ」



「あー!何だよ!そーゆーこと言うなよー。可愛いじゃんか!」



なー?と、ぬいぐるみに笑いかける久美子にやっぱり嫉妬する。



馬鹿だと先程、自己嫌悪に陥ったのにも拘らず。













こっちを見て   なんて   言えない。





けど、   息が出来ない。





貴女が  こっちを   見てくれないと





こんな   簡単に







     呼吸困難















店員が運んできた珈琲を、喉に流し込む。



本来なら慣れた筈の珈琲がとても苦く感じた。



「んー。なぁんで、小田切にはコイツの可愛らしさが伝わらないんだー?」



「可愛くねぇからだろ」



久美子はムゥと膨れて竜に言い放った。























「なんで!コイツこんなにも小田切に似てるのに!!」























「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  は ? 」



後に思えば、竜の人生の中で、最も脱力した瞬間だった。



クールに装っているその顔は見事に崩れ、どこか猿渡教頭を彷彿させた。



「っはは!小田切、その顔…教頭に似てるーー!」



「……てか誰が何に似てるんだよ………」



「ん?だからこのクマが、小田切に」



あ、ここのパフェ美味しいーvと、幸せそうにアイスを口に運ぶ久美子は、ことの重大さを解らないようだ。



そこはかとなくタレ目で、ライトブラウンの毛並みのクマ。



こんなのと自分は一緒なのか…。



「…俺の目はタレてねぇ」



「んー。別に身体的特徴じゃなくてさー。こう、ヘタレっぽい雰囲気が似てる?」



パフェを食べ終わり、満足げな顔をしている久美子と対照に、冷めた珈琲をカップに残し、呆然とした竜は、目の前の女に手元の珈琲を掛けたくなった。



勿論、その後にはやられ返される自分が安易に良予想出来たからやめたけれど。



「なんかさ、その子が私に買ってくれーって感じで見てたからさぁつい立ち止まっちゃってさぁ」



「金出したの俺じゃねぇか」



「だーかーらッ!ここは私が奢ってやる」













ニパッと笑った久美子も、自分と似ている(らしい)クマのぬいぐるみを見ていた久美子も、結局は自分の惚れたであることんは変わりがないのだ。





呼吸を奪うのも呼吸を戻すのも、結局はヤマグチクミコのやることなのだ。







自力じゃどうにも出来なくて、結局、目の前の女の一挙一動に翻弄されてる自分が案外、嫌じゃないと思った。

















貴女は   何時でも   簡単に   僕から   呼吸を   奪うけど







それと   同じくらいに   僕に   呼吸を   くれるんだね







貴女じゃなきゃ   僕から   呼吸を   奪えない

 





貴女じゃなきゃ  僕に   呼吸を   取り戻してくれない









       つまりは   そう云う    コト













                         end.











■ 暁 草太 様より一言 ■


どうも今日和。暁です。

此度は素敵お題に(色々と)可笑しな文を送りつけてみました。  
                 
(私だけが)面白かったので、もう一度チャレンジしたいです。

 小田切さんがヘタレっぽく見えたら良いなーと思います。(小田切さんファンのお嬢様方に土下座して許しを乞います)

結局、なにが言いたいんだか良く解らないブツとなりましたが、読んで頂けたら是幸い。

お目汚し、失礼しました。



                                  暁 草太








05/06/16










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