日も暮れきって仕事帰りのサラリーマンを見かける時間帯。 カラオケから出てきたのは高校生5人組だった。 真面目に勉強に励んでいる学生には見えない。所謂不良というやつだろうか。 周りの大人は「こんな時間にカラオケ、しかも高校生だけで・・・」と嫌な物をみる目つきで通り過ぎていく。 「次ッビリヤードな!」 「やってやろうじゃん♪」 「武、今日はやる気??じゃあビリだった人は全員に晩飯奢れよ!」 「ちょっ!隼人と竜は勝つじゃん!俺今金欠なんだよ!」 「頑張れ!」 「えぇ;;でも、ビリにならなきゃいいんだよな。浩介には勝てるから平気だ」 「武ちゃん。其れ非道くない??」 「全然?」 「よしっじゃビリヤード行くか!」 「日向のおごりで!」 「え?俺決定!?」 「お前等アホか・・・って山口?」 「「「「え??ヤンクミ(山口)??」」」」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「竜、ヤンクミいたの??」 「どれだよ・・・何処にもいねぇじゃん」 「あれだよ。彼処の駅の前に立ってる奴。山口じゃね?」 5人が分からないのも無理はない。今の山口久美子は普段のジャージとはうって変わった、可愛い・・・というより綺麗な大人の雰囲気の服装。 髪型もいつものおさげではない、風にサラサラと靡く漆黒の髪をおろしている。 トレードマークの眼鏡も外されていて鋭く、でも何処か優しさを感じさせる瞳。 遠くから見ても、まさに“絶世の美女”と言うが相応しい女性だった。 「竜ちゃ〜ん?視力落ちましたか?あれが山口のはず・・・・「久美子っ!!」 「隼人、久美子だって。」 「嘘だろ・・・あれが山口・・?ありえねぇ」 「てかあっちの男の人も格好良くない??」 「マジだ・・・」 そう、先程来た男の方もかなり格好良かった。 長い足に大人っぽい落ち着いた顔立ち。そしてセンスのいい服。 二人で並んでいると完璧なカップルのようだった。 「ヤンクミの彼氏?」 「あんなに格好いい男の人居たのか」 「え?でもヤンクミ付き合ってる人とか居ないって前言ってたよ?」 彼奴に・・・山口に彼氏? はっ、ふざけんなよ。 別に担任の色恋沙汰なんかどーでもいい。・・・・・筈なのに 「俺、今日はそろそろ帰るわ」 「え?隼人?」 「ビリヤードは?」 「パス。」 「えっ??ちょっと、隼人!?」 筈なのに・・・何でこんな苛々するんだよ!? あ〜くそっ 「矢吹?」 「え?」 いきなり呼ばれて驚いて振り返ると其処には山口が居た。 「当たりだ♪そりゃ私が可愛い教え子の声を聞き違えるはずないよな〜」 「は?山口?なんでこんな所にいんの?」 「お前らの声聞こえたからな。ちょっと来てみたんだ!それよりお前っ」 成る程ね。こんな時間に外出すんなって説教でもしにきたってか? 「んな事より彼氏さんは?ほっといて俺ンとこなんか来て良いの?」 理由はどうであれ、来てくれたことは嬉しい。でもそれを素直に表せなくてついこんな嫌味っぽいことを言ってしまった。しかし、それが俺を更に苛つかせることになる。 「もう帰ったからな。先刻は喉乾いてたから慎がジュース買いに行ってたんだよ。慎は彼処の駅から乗るからなっ彼処で別れたんだ♪」 「そ。」 『慎』って・・・・? 先刻の男のことかよ?ふーん、下の名前を呼び捨てで呼んじゃう仲なんだ。 「矢吹?どうかしたのか?」 「別にぃ〜?誰かさんはあんな格好良い男が居て?こんな時間にデートなんかしちゃって?幸せそうだなぁって思ってさ。」 「・・・私は、すっごく幸せだぞ?」 ほらまた。嫌味だったのにストレートに理解しやがって。 「矢吹達みたいな自慢できる教え子を持てて、お祖父ちゃん達みたいな私のことを理解してくれる親が居て、慎も立派に卒業していい男になって帰ってきて。こんな幸せな事は他にねぇよ。」 へぇ〜・・・って、ちょっと待て。卒業?てことは? 「山口、お前の彼氏ってもしかして・・・?」 「え?知らなかったのか?慎は私の初めて受け持ったクラスの生徒だ♪」 彼奴は頭はっててな〜いつもは黙ってるくせに実は一番仲間思いなんだぞ〜 とかなんとか話し出した。 “慎”って奴は生徒だったけど彼氏になったんだよな。 てことは俺にもまだチャンスはある? 「なんだ矢吹、ニヤニヤ笑いやがって。」 「別に?」 何時か俺が“慎”の代わりになりたい。 生徒の枠を越えてもう一歩進んだ関係になりたい。 君の幸せを願うことの出来ない僕を赦して。 *fin* 05/07/21 お戻りはブラウザバックで; |