【  何度も同じ言葉を繰り返す、レコードの僕。  】

 














「小田切のこと、なんか知ってるのか?」

「・・・前に竜と隼人が喧嘩して−−」

「成る程。武田、よく話してくれたな。感謝するよ。」

「別に?聞いたからには、竜連れ戻せる自信あるんだろ?」

「あぁ。」



先公と、こんな風に普通の会話をしたのは久しぶりかもしれない。

話すとしたら成績のこととか授業態度のことばっかだったからなぁ。

まぁ先公に何話しても疑われてたから話すことなかったし。

でも、此奴は真剣に俺の話に耳を傾けてくれた。

ちゃんと全部聞いてくれた。

その時俺は思ったんだ。

「此奴だったら信じてもいいんじゃないか」って。



それからしばらくして竜は学校に来た。



実は竜が来るまでには色々あったんだけどね。

あ、聞きたい?

ヤンクミが聞くと煩いから内緒だよ?



えっとね、これは隼人が竜のバイト先を教えた後のこと。

その次の日から夜遅くに工事現場で働いてるヤンクミを何度も見た。

隼人達は「先公って儲かんねぇのかな?」とか「男に貢いでんジャン?」とか茶化してたけどその時の彼奴はそんな表情じゃなかった。



誰かを助けてあげたい。

役に立ちたい。



そんな眼をしていた。

何かあったのかな?って思ったけど気にしないでいた。

それが後々ややこしいことになる。



「山口?何でこんなとこに、って何!?泣いてんの!?」

「武・・・田?ば、馬鹿野郎!泣いてなんかねぇよ!私は花粉症でだな・・・」

「今、一月なんだけど。」

「うっ」

『やられた』とでもいうような顔をして下を向いた。



「竜が・・・関係してるの?」

「何でもねぇって言ってンだろ!?ほっといてくれ!」

その時のヤンクミは今すぐにでも倒れちゃいそうで、すごく弱々しく見えて無意識のうちに俺はヤンクミを抱きしめてた。

何でそんな事したのか自分でもよく分からないんだけどね。

「大丈夫。大丈夫だから。」

俺は抱きしめながら大丈夫、とだけ言う。



何度も同じ言葉を繰り返す、レコードの僕。



でも、今の彼奴にはそれ以外に声の掛けようがなかった。

変なこと言ったらマジで壊れそうだったもん。

「落ち着いた?何があったか話してみ?」

「小田切が、バイト止めるには30万必要だって。そう言うからバイトして稼いだんだよ。30万。そしたら、『馬鹿じゃねぇの?普通信じるかよ?』って。金持って戻ってった。・・・馬鹿だよな私!先生なのに生徒に騙されるなんて。アハハッ今回は私が未熟だったんだな♪」



あらら竜ちゃん、何してんだよ。

山口が泣きたくなるのも分かる気がする。

バイトしてたのは生徒の・・・竜の為だったのか。



一気に色々浮かんでいてなんて言ったらいいのかよく分からなかった。



一番辛いのはヤンクミの筈なのに。

裏切られて悲しい思いしてるのは此奴の筈なのに。



何で・・・笑ってられるの?

何で竜を責めないの?



「この事、教頭に・・・・」

「言わねぇよ。私だって非が在るんだし。小田切には学校来て欲しいからな。」



何で?

今までの先公だったら普通「あんな生徒退学だ!」とか言ってた。

そんな顔して、心底辛そうな顔してるくせに

自分だけで全て背負い込むなんて。



珍しい大人。珍しい先公。

助けてやりたい。

守ってやりたい。



どんなに僕が単純な言葉しか知らなくても。

その言葉というレコードをリピートするだけしかできなくても。

一人で悩まないで欲しい。

話して、相談して欲しい。



そんな風に思った。



ヤンクミに惚れた瞬間だったかな?

今じゃ滅茶苦茶倍率高いし。

あの時俺の物にしとけば良かったな。



あ、今話したこと全部ヤンクミには秘密だよ?

「何が秘密だって?」

「ぅわあっヤンクミっ!?」

「そんな驚くなよ。で、何の話ししてたんだ?」

「何でもないっ忘れて!」

「はぁ?」



何度も同じ言葉を繰り返す、レコードの僕。



あの時俺はヤンクミの力になれてたのかな。

もっと早くに彼奴のこと信じてやれば良かったかな。

・・・なんて、今になって考えることはたくさんあるけど

今度は、あん時みたいにレコードにはならないよ。

寧ろ辞書になってやる!!



取り敢えず今のマイブームは国語辞典の読破です。

















                        *fin*



















06/07/28








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