■100のお題
 『ふれる ふるえる冷たいゆびさき。』

 

 

 

   スローモーションとは、動作や反応…。

   実際より遅い動きが、また、そのように映した映像のことをいう。

  

   弟の机の上に、綺麗に並べられた中に見つけた、古びた一冊の国語辞書。

   俺の御下がりだろうか…小学校の頃、何度か触った記憶があるソレ。

   何気なしに、ペラペラと捲った先で、見つけた言葉が

 

   スローモーション。

 

   隼 「俺・・・どうかしてるゼ」

 

   誰もいない部屋で一人自分に言い聞かすように呟いた言葉は、ココ最近の色んな出来事を、鮮明に思い出させるには十分な訳で―――

  

   パリーン

   それは、スローモーションという言葉がピッタリだったように思う。

 

   あの日。目の前で音を立てて、割れたガラス瓶のように

   彼女と出会ってから、知らず知らずのうちに、心の奥に仕舞いこんでいた目に映らぬ何かをも一緒に、

   彼女自身の白く細く伸びた手によって、ソレは音を立てて、割られたような気がした。

 

   久 「親っていいもんだよな」

 

   母親に支えられながら帰って行く友人の背を見つめながら、小さく呟いた彼女のその言葉に

   生きていた頃のオフクロの笑顔が、久しく脳裏に浮かび上がらせた。

   それと同時に、両親二人を亡くし、あの家に引き取られ、そしてただ真っ直ぐに、俺達に夢を見、追いかけ、

   担任をしている彼女が、何だか健気で、小さく、そしてか弱く…

   彼女がもし、あの瓶のように割れ、傷つくようなことがあったら俺は――

   今、横にいる人間は、一人の「女」なのだと、初めて感じさせられた。

 

   何故なら。

   瓶が割れた瞬間、動けなかったのだ。

   あんなヤバイ場なのに、彼女を綺麗だと―――

 

 

   隼 「・・・・マジかよ」

 

 

   思わず頭を抱える。

   コレが自覚というものだろうか。

   自覚というものは怖い。

   一度自覚してしまうと、解けなかった余計な答えまで分かってしまうのだから。

 

   気に入った女なら、今まで強引にでも落としてきた。

   面倒くさくなったら、別れればすむことだし。

   だが今回、相手は7つも年上、しかも自分の担任で…。

 

   隼 「いや何かの間違えだ、ウン、絶対」

 

   開いた辞書をパタンと閉め、自分に言い聞かせるように首をブンブンと横に振る。

   まるでそれに合わせるかのように、台所からは親父の声がマンション内に響き渡った。

 

  

   父 「隼人、飯だーーっっー!!」

   隼 「でっけぇ声出すな、ジジー!!」

 

 

   仏壇に飾られるオフクロの写真が、今日も優しく俺に微笑みかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    いつもの喫茶店。俺達が学校帰りにココに来る事は、珍しくない。

    今日も山のように積み上げられた、求人雑誌の中から、卒業後の進路を考える。

    そんな俺達に、普段はあまり喋らないマスターが、

    「最近キミ達変わったね」と、アイスコーヒー5人分をサービスで出してくれた。

 

    隼 「ウルサイのがいるんで」

 

    ご褒美を与えられた子供のようにソファーで喜ぶ友人達を背に、

    カウンターで求人雑誌に目を落としていた俺が、片肘をついたまま苦笑いで礼をいうと、

    隣に座る親友も、ソレに同意するかのように小さく笑った。

 

    武 「てか、日向。ちゃんと仕事探せよ」

    日 「んー…」

    武 「ナァって」

    日 「んー…」

    武 「隼人と竜でさえ、やってんだぞ?」

 

    ―どういう意味だよ。

 

    日 「んー…分かってるー…」

    武 「マァ、あんな事があったばかりだから、ヤル気しねぇ気持は分かるけどよー…」

    日 「そんなんじゃあ、ねぇって」

 

    先程から上の空でいる、そんな日向を、俺も竜も気になっていた。

    どういった言葉をかけてやればいいのか分からないような、不器用な俺達とは違い、武は母親みたいな口調で日向に話しかける。

    昔から心配性で、勘がよくて、ストレートで…

    でも何処か当たり障りの無い彼の存在は、昔から俺達には大きく、そして心休まる存在だ。

 

    武 「じゃあ、どうしたんだよ?」

    日 「んー…マァ、色々…」

 

    竜 「色々って?」

 

    椅子をクルリと反転させ問う竜に、「別にー…」と、気のない返事一つ。

    出されたアイスコーヒーに浮かぶ氷を、ストローでカラカラと音を立てる日向に、
今度はツッチーが「任せろ」とばかりに試みた。

 

    土 「日向ちゃん、寂しい事言わないでよぉーv」

 

    「ニャ」と子猫のように、日向の腕に絡みつくツッチーの頭を、「仕方ないナァ」とばかりに撫でる日向。

    「こいつ等、大丈夫だよな?」と、隣の友人に首を傾げると相手からも「サァ」とばかりに、苦笑いが返ってきた。

 

    日 「いや実はサ。 昨日、晩飯し食ってる時に、オフクロがしょうもねぇ事言い出してサ」

    土 「うんうん?」

    武 「何?また母ちゃんと喧嘩でもした?」

    日 「喧嘩っつか…バカくさくてムカついた。」

    土 「で?理由は?」

 

    日 「山口先生って綺麗な方ねーーっっv…て」

 

    ――!!!!?!!?

 

    隼 「ぶはっ、ゴホゴホゴホ!!!」

    武 「は、隼人!?大丈夫?ど、どしたの?」

    竜 「汚ネェよ」

 

    隼 「は、はは; 悪ィ…。」

 

    ――何を言い出すんだか、コイツは。

 

    土 「ハァ!?ヤンクミがぁ〜?ありえねぇだろー。」

    日 「だろぉ!?俺も思わず飯噴出しそうになったんだよ。そしたらオフクロの奴…」

 

    日 「綺麗っていうか、美人だって言い切るんだよナァ。譲れねぇってばかりにサァ。女の言う事はわかんねぇよなぁ〜って」

    隼 「お、お、おおお、お前の母ちゃん、目悪ィんじゃねぇの!?大体…」

 

    武 「そう?可愛いじゃん?」

 

 

    『 ハ ァ ッ ッ ッ ! ? 』

 

    隼 「お、おまっ」

    武 「何で?ヤンクミ綺麗じゃん、てか可愛いし★」

 

    隼 「お前、頭可笑しいんじゃねぇのかっ!?!あんな田舎臭せぇヤツの何処がっっ」

    竜 「つか、芋臭い」

    隼 「そ、そう!ソレだ!!芋だ!アイツは芋なんだよ!」

 

    久 「誰が芋だって?」

    隼 「だから、山口の事だよ!!!!!……て。買п@マ グ チ !!」

 

    久 「さっきから黙って聞いてりゃ、お前らぁぁ〜〜(怒)」

 

    竜 「つか、黙って聞いてんなよ」

    久 「うっ。仕方ねぇだろー、コレに慣れてんだから」

    土 「いや、慣れんなよ」

    久 「第一、芋、芋、芋って、せめて、レンコンとかにしてくれ」

    武 「いや、ヤンクミ、ソレはもっと意味わかんねぇし」

 

    わけのわからない事を未だにブツブツ言う彼女は、当然のように皆の座るソファーに腰を下ろし、

    呆れ笑いを零しながらも、皆もソレも当然のよう受け入れ、武なんて普通に彼女の飲み物を注文してやる始末だ。

 

    隼 「ったく、アイツ、桃女の真希ちゃんはどーなったんだよ」

 

    竜 「・・・・・・へぇ」

    隼 「何だよ」

    竜 「別に」

 

    ―何だよ。別にって。

 

    チラリと横目で意味ありげにそう言えば、竜も皆が座るソファーに移動する。

 

    てか、アイツ…。

    何気にいつも山口の横に座ってね?

 

    理解不能な感情がフツフツと身体の底から沸いてくるのは何故なんだ。

    今、この場に居続けたら、非常に危ない気がする。

 

 

    隼 「俺、もう今日帰るワ」

 

 

    当然、「ハ?」と揃って問う面子に、お決まりのピースサインと笑顔を作ってみせる。

 

    

   隼 「じゃあね〜♪」

 

    カランと鳴り響いたドアの向こうから店内に入り込む冬の冷たい夜風は

    今の俺には、何だか丁度心地よく感じた。

 

 

    そんな隼人の去る背中見つめ、竜は小さく溜息を零した。

 

 

 

 

 

 

 

    ――大切なモノを守れる人間になりたい。

    親父に言った、その言葉にウソは無かった。

    

    隼 「大切なモノ…。」

 

    夜空を見上げて一つ溜息を零すと、白い息が煙のように上がっては消えていく。

    何だろう、この胸が痛くなるような気持は。

 

    久 「やーぶーきーーーー!!!」

 

    名前を呼ばれたと思ったら――

    ベシッ!!!

 

    隼 「って!!」

 

    その次に強烈な痛みが背中に走ったかと思えば、息を切らした彼女がソコには立っていて。

    理解不能な今の現状に、俺の足らないこの頭ではついけるはずもな…

    だからとりあえず。

 

    隼 「何やっての、お前?」

 

    ジンジンする背中の痛みに耐えながら、冷めた口調で一応問うてみる。

 

    久 「ん?あたしも帰るから、途中まで一緒に帰ろうと思って」

    隼 「アイツらは?」

    久 「あたしも、一度やってみたかんだァv」

    隼 「ハ?」

 

    久 「じゃあね〜♪」

 

    真似てピースを作りながら、ニィと子供のように微笑む彼女。

    思わず頬が緩みそうになり、慌てて口元を押さえて、背を向けた。

 

    ヤバイ…。

    今、可愛いじゃんとか、とんでもない事を思ってしまったような。

 

    久 「ん?どうした?」

    隼 「///」

    久 「おい、矢吹ってば?」

    隼 「もォー!お前ウルサイ!!//」

 

    俺の複雑な気持なんて何て分かるはずもない相手からは、顔を覗きこもうとされ

    慌てた俺は、彼女が動けないように頭を片方の手で押さえつけ阻止。

    とりあえず、今のこの顔を見られるわけにはいかない……絶対に。

 

    久 「ワッ」

    隼 「え??」

 

    「よ〜よ〜姉ちゃん、今帰り〜?」

    「俺らと飲みに行こうよ〜」

 

    驚いた声を発した彼女の顔に振り返れば、何処から沸いて出てきたのか―――。

    チンピラ風の男二人が、彼女の両側に立ち、 いつの間にかかその細い肩に手を回している。

 

    所謂…ナンパ。

 

    久 「ハ?あたし、今から帰るとこなんで」

 

    「冷たいこと言わないでサ、行こうよっv」

    「いい店知ってんだよね〜」

 

 

    ――気安くさわんじゃねぇよ。

 

 

    グィ。

 

    久 「うわぁあっ」

 

    男達から引き離すために、思わず掴んだ彼女の手首。

    自分でも驚くほどにソレには力が入っていてらしく、彼女が胸元に倒れるようにすっぽりと収まった。

 

    久 「や、矢吹?」

    隼 「あんたら誰?嫌がってんじゃん」

 

    「なんだてめぇ、高校生のガキは黙ってろォ」

    「てか、お前弟か?弟は家でいい子にして待ってな〜」

 

 

    ピク。

 

    ―弟?

 

    隼 「お前、もういってぺん言ってみろ…」

 

    何処かの線が切れたなと、自分でも確信した。

    押さえる事が出来ない感情、苛立ち。

    ジリジリと詰め寄り、相手に殴りかかろうとした瞬間―――。

 

    久 「あっ、河童!」

 

    ―ハ?

 

 

    人間というものは不思議な生き物である。

 

    居るはずのない河童の存在を一応確認するためか、指差した彼女の指先に、一瞬男達の視線が移動したのだ。

    その瞬間を見計らったように、彼女は俺の手を取り、いきなり走り出す。

 

    隼 「お、おい、山口?!」

    久 「いいから、矢吹、走れー!」

 

    後ろから、「待てコラァ」と叫びながら追ってくる男達の気配を感じたが、今は握られた手に思考が働き、振り返る余裕すら俺にはない。

    とりあえず、全速力で二人して街中を走りぬける。

 

    走って、走って、走って・・・。

 

    隼 「ハァハァ、お前何考えてんだよ…」

    久 「ハァハァ、でもちょっと楽しいだろ?二人なら尚更にサ…あはは」

    隼 「笑ってる場合かよ…ハァハァ」

 

    能天気に走りながら笑みを零した彼女に、俺からもつられて笑みが零れた。

    そんな二人の手は、しっかりと繋がれた温もりが、確かに存在して。

    何だか優しくて、彼女の手が・・・・とても小さくて。

 

    胸が締め付けられるような感覚に襲われ、その手にギュと強く力を込めると、

   一瞬彼女が俺を見上げたが、そのまま何も言わず二人で走り続けた。

 

 

    ―――このまま連れ去ろうか。

 

 

    行く宛ても、ゴールもない夜の街に、そう思ってしまった自分。

 

    確実に

    自覚というヤツか。

 

 

    今度は、俺から諦めに似た笑みが零れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

    ――ハァハァハァハァ。

    二人の荒い白い吐息だけが、静かなココにはとても大きくて。

 

    

    久 「ココまで・・ハァハァ・・来たら・・ハァハァ・・大丈夫だろう」

    隼 「つぅか・・ハァハァ・・お前・・無茶苦茶だっての・・ハァハァ・・」

 

    ぷっ。

 

    今度はわけも無く二人して爆笑。

    こんな無茶苦茶な夜もたまには悪くない。

 

 

    久 「てか、ココってサ・・」

    隼 「今、気付いたわけ?」

 

   結局宛てもなく辿り着いた先は、工場が潰れてそのまま放置されている・・

   ココは、そう、日向の事があったと時、あの日彼女と俺らで駆けつけた場所。

 

    隼 「つーかサ、前から聞きたかったんだけど。 あの、瓶割ったのは意味あったわけ?」

    久 「え?あ、あははは;何となくやってしまっただけ……デス」

 

    ―やっぱり。

 

    彼女に歩み寄り、もう一度その手を取る。

    白くて、細い指先…それらをソッと優しく撫でてみた。

 

    久 「や、矢吹?//」

    隼 「手…」

    久 「へ?」

    隼 「切らなかったのかよ?」

    久 「え、あ、うん。ちょこっとダケ…あ、あはは;」

 

    隼 「無茶やってんじゃねぇよ」

    久 「お、ヲゥ」

 

    隼 「お蔭でコッチは気付きたくなかった事まで…ったく」

    久 「はい?」

 

    彼女の手が震えている。

 

 

    ――ふれる ふるえる冷たいゆびさき。

 

 

    それは本当に無意識で。

    その震える、白く細い指先にキスを落としていた自分。

 

 

    久 「なっ///や、矢吹…?!」

    隼 「御礼」

    久 「お、御礼??!//」

 

    隼 「いつも、この小せぇ手で俺らを守ってくれるから」

    久 「ば、バカ!あ、あああ、あたしは、担任のセンコーなんだから、と、とと、当然なんだよっ//」

 

 

    ――大切なモノを守れる人間になりたい。

 

    親父に言ったその言葉に、本当ウソは無かったんだ。

    そう。

    大切なモノ……。

 

 

    隼 「俺、親父に今の自分の気持言ったから」

    久 「そ、そうなのかっ??

    隼 「あぁ」

 

    久 「そ、そうか…。 そうか、そうかーv そうかー、矢吹ーv」

 

    パッと明るくなったと思ったら、握られた手を伸ばし、両手で背伸びをしてまで、俺の頭を撫で始めた彼女。

 

    あァ…。

    今までに、これほど、「欲しい」と思ったことがあっただろうか。

 

 

    久 「―――え」

 

 

    止める術を知らない俺は、両手を彼女の腰に回し、抱き寄せていた。

    そして、彼女が暴れれば、暴れるほどに、抱きしめる腕は強くなる。

 

    久 「ちょっ//何やってんだよ!お、大人をからかうのはいい加減にしろっ///」

    隼 「……。」

    久 「き、聞いてんのか!コラ、矢吹ー!///」

    隼 「俺、今、めちゃくちゃ真剣なんだけど」

    久 「は、はぃぃ??」

    隼 「心臓ドキドキ鳴って、死にそうなんだモン」

    久 「ど、ドキドキで、し、死にそうって/// てか、死ぬな!矢吹!!」

 

     アワワと混乱する彼女の耳元で、祈るように俺は囁いた。

     自分から、これほどに、情けない声が零れようとは――

     俺って重症カモ。

 

 

    ――だから、もう少しこのままでいてくだパイ――

 

 

    久 「うっ」

    隼 「・・・。」

 

 

 

 

     どれだけ、そのままの体勢でいただろうか。

     学ランを着た生徒に抱きしめられた、担任は、今静かに俺の胸の中にいる。

 

 

 

 

    隼 「山口ー。」

    久 「な、何だよ」

    隼 「俺さァ…」

    久 「う、うん?」

 

    隼 「守りたいモノの中に、お前がいるみたい。」

 

    久 「へ?」

    隼 「そういうことだから」

 

    「帰るか♪」と、解放してやると、ポカンと俺を見上げるマヌケな顔がソコにはあって

    思わず笑ってしまった俺に対して、「ムッ」と理解不能な顔付きで頬を染めながら膨らませる。

 

    こんな鈍いところも、スキなんだけど。

    油断しすぎっしょ。

 

    染まった頬に触れるだけのキスを落としてやれば、慌てて手の平で押さえ、口をパクパクとさせる。

 

 

    隼 「そのうち、嫌でもわからせてやるよ」

 

 

 

 

    ふれる ふるえる冷たいゆびさき。

    その手をまた取って、元来た道を、帰ろう。

 

    明日からは、また違う生き方が俺にはあるはずだから。

 

 

    大切なモノを守れる人間になりたいから。

 

 

 

    END

 

    うーん、なんて微妙な終り方:

    幾つか書いたんだけど、とりあえずコレ完成させたので・・・(汗)←まとめろよ。
    かサ、書くたびに、「あ!コレも使いたい」とか、ネタが出てきて、終らないんだよねェ;←長編しか書けん
    マァ、黒版創作、有希っちの第1号です…多目に見てやって(泣)
    なんか、白版の頃から知ってるお客サマに読まれるのが、一番緊張するカモ^^;
 
    てか、私、100のお題でコレからも突き進む事を決めたワv
    亀のようなスピードだけど、これからも頑張りまっす!

    100のお題仲間、募集(笑)
 
                    息子

 

   ―おまけ―

 

    次の日。

    朝のホームルーム終りかけの頃に学校に登校した俺。

 

    隼 「遅刻しちゃって、ごめんなパイ」

 

    昨日のムードは何処に行ったのか…。

    ポカリと叩かれた頭をさすりながら、3Dの笑い声の間を拭って自分の席へと向かう。

 

    竜 「お前、昨日、アレから家帰んなかっただろ?」

    隼 「んーそうだったかナー」

    日 「いや、携帯繋がらなかったから、家電話したんだ」

    土 「そしたら弟がまだ帰ってねぇって?」

    竜 「お前さァ、まさか…」

    隼 「内緒v」

 

    「 「 「 「 内緒〜?? 」 」 」 」

 

    隼 「あ…。そうだ。武ー。」

 

    武 「え?な、何?」

    隼 「昨日、言ったこと撤回ナ」

    武 「撤回??」

    隼 「アイツのこと」

 

    言いながら、横に座るツッチーの扇子をとりあげて、ビシッと黒板の前に立つ担任を指す。

 

    隼 「あんないい女いないでしょう。」

 

    「 「 「 「 「 !?!!!!!????! 」 」 」 」 」

 

 

    久 「な、何だァ?矢吹?人の事、急に指して?」

    隼 「ん?まぁ、いい機会だから…と。 スーハースーハー…おめぇらぁぁー!!!」

 

    ビクッ!!!!

 

    教室中に響き渡った、怒鳴り声に近い声。

    コレには3D全員が肩を震わせ、恐る恐る一番後ろのリーダの席に振り返った。

    それを満足そうに確認した彼は、お決まりのピースサインを作り、ニッコリ笑ってみせ、「忠告」を。

 

    もちろん、もう片方の手には、今も扇子が担任を真っ直ぐ指している。

 

 

    隼 「手出さないでくだパイね。」

 

 

    開いた口が塞がらないとはこの事を言うのだろう。

    そしてある者は椅子から転げ落ち、そしてある者は食べかけのパンを落とし…。

 

 

    しーーーーーーーーーーん。

 

 

    竜 「ヤダっつったら?」

 

    この沈黙を破ったのは…

    いや敗れる人間は、一人しかいない。

 

    3Dのもう一人のリーダー

    小田切竜。

 

    久 「あ、あのー…。お前ら、一体何の話しを…」

    竜 「うるせぇよ。」

 

 

    ムカッ。

 

 

    久 「なっ、小田切!朝っぱらからアタシに喧嘩売ってんのかー!?」

 

 

    ヤンクミ…

    頼む…

    空気を呼んでくれ…。

 

    誰もが皆、こう心で切に祈っただろう。

 

   

    久 「な、何だよ、お前ら?その訴えるような瞳は??」

 

 

    隼 「そうくると思ったゼ」

    竜 「言ってろ」

    隼 「まぁ、宜しく頼むワ」

 

    スッと差し出された手の平。

    竜はズボンのポケットに閉まった片方の手をソレにソッと重ねた。

 

    そこに、もう一つの手が重なる。

    ソレを見て日向と土屋が目を合わせ、震えるように小さくなりながら腕を絡めた。

 

    武 「俺も仲間に入れてv」

 

    プッ。

 

    一番始めに噴出したのは誰だろう。

    静まる教室に、3人の笑声だけが、いつまでもいつまでも響いていた。

 

 

 

    おしまい。

 

 

 

   久美子総受け万歳っス◎

 

   

 

 

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